24.再び泉へ
「いらっしゃいませ……と思ったらツバキさんでしたか」
「うむ、帰ったぞ。調子はどうじゃ?」
「ええと、それなんですけど……ちょっとこちらへ」
僕は依頼を終えて帰ってきたツバキさんを店の奥に通すと、ドラゴンの泉から持ち帰ったBランクの薬草と、それから採取したBランクの薬草の種を取り出す。
ツバキさんはそれらを鑑定すると、僕の肩に両手を置く。
「……儂がいない間に何があったか、説明してもらわないとのう?」
ちょっとツバキさん、笑顔だけど怖いんですけど!?
「ほう、精霊様の次は竜神様を誑しこむとは」
「人聞きの悪い事言わないでくれます!?」
「何を言うておる、事実じゃろうが。アイリス様を斯様な姿にして同棲しておるしのう?」
「うぐぐ……」
あの姿を選んだのはアイリス自身だし、その姿の基になった人に言われましても!
まあでも知識と経験の差があり過ぎて反論してもどうせ勝てないし、ここは黙るに限る。
「まあよい。しかし、近くの森にそのような所があるとは今まで聞いたこともないが……」
「確かにイベリスさんたちも驚いていましたね、あの場所だけ普段の森とは全く異なる雰囲気だったとか……」
「……ふむ、それなら儂も行ってみるとするかの。護衛はタイガたちに頼むとしよう」
「イベリスさんたちでなくていいんですか?」
「うむ、メンバーを入れ替えて入れるか試せば、お主とアイリス様が選ばれた者というのが分かるじゃろう?」
確かに。
あの場所のことを教えてくれたのはアイリスだから、恐らくアイリスが選ばれし者というのは予想がつくけど、確定させておいて損はないだろう。
「ただ、秘密を知る人が増えると言えば増えますね。タイガさんたちだから大丈夫ですけど」
「まあそこは気にする必要はあるまい。儂はあやつらの秘密を持っておるからの、いざとなれば口止めにも使えるぞ」
……黙らせれるような秘密を持っているんだ……。
僕もツバキさんの前ではあまりそういうのを見せないことにしよう。くわばらくわばら。
「では、今回は僕とアイリス、それにツバキさん、護衛にタイガさんパーティーの4人の合計7人ですね」
「うむ、依頼に関しては儂が話を通しておいてやる。準備をしておくのじゃぞ」
そうだ、爆裂草が欲しいって言ってたから何個か育てておかないと。
その場で育てることも可能だけど、ドラゴンの大きさだとかなりの数を持って行かないと足りないだろうし……。
それから、アイリスにお出かけすることも伝えておかないとね。きっと喜んでくれるはず。
お店は申し訳ないけどリリーとガーベラさんに任せることにしよう。その代わり2人にいいお土産が持ち帰れるといいな。
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「それじゃあ、行ってきます」
「えへへー、パパとおでかけー!」
「シゲルさん、タイガさんたちがいるから大丈夫だと思いますけど、くれぐれも気をつけてください」
「ありがとうリリー。僕たちを無事に王都からフリーデンまで送ってくれたタイガさんだから、安心できるのは間違いないよ」
「それでも油断は禁物よ。何があるか分からないのが外の世界だからね……」
ガーベラさんは自分の腕をぎゅっと握りしめる。
そういえばあの腕は……ガーベラさんが深手を負った所だ。
そうだ、ガーベラさんも腕利きの冒険者だったのに、モンスターに大怪我を……。
「……そうですね、ご忠告ありがとうございます。必ず無事に戻ってきます」
「ふふっ、それならわたしとリリーで美味しいご飯を作らなきゃね」
「そうだねお母さん。……それではシゲルさん、どうか無事に戻ってきてください」
「シゲル、こちらは準備万端だ、いつでも出発できるぞ」
「分かりましたタイガさん、それでは行きましょう!」
こうして僕たちは再び森の中にあると思われる、ドラゴンの棲む泉へと向かうのだった。
「ああ……また師匠の魔法が見られるかもしれないと思うと感激です……!」
「ええい、儂らは護衛される側じゃぞ!」
……相変わらずだなあ、魔法使いの人。
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「アイリス、またあの場所のへの行き方が分かったら教えてくれる?」
「うんっ!」
森の入り口でアイリスに案内をお願いする。
あの時と同じ状況にするなら、アイリスをおんぶすべきなんだろうけど……さすがに娘みたいなものとはいえ、ガーベラさん並みの胸が押し付けられ続けるのは色々とアレだ。
モンスターが出た時に退避しやすいといえばしやすいんだけどね。とりあえず、アイリスが疲れるまでは手をつないで歩くことにしよう。
「それではタイガさん、採取をしながら進んでいきましょう」
「うむ。その泉とやらが早く見つかるといいのだが」
「……パパ、あっち!」
などと言っていたら、早々にアイリスが何かに気付いたようだ。
前回はこんな森に入ってすぐの所ではなかったはずなんだけど……とりあえず、アイリスを信じて指示された方に進むとしよう。
「しかし、こんな誰も通らないような所の先にあるとは……」
タイガさんが先頭で草を薙ぎ払いながら、進む。
確かに、前回も道なき道を行った先だったもんなあ。
そんな会話をしながら進むこと、およそ3分。
見覚えのある泉が眼前に広がっている。
『久しいな、人の子よ』
「ひとのこじゃないよ、パパはシゲルっていうんだよ?」
『これは失礼した。久しいな、シゲルよ』
「いえ、僕としては名前で呼ばれなくても大丈夫なのですが……」
開口一番、ドラゴンが僕を名前で呼ばないことに文句を言うアイリス。
肝が据わっているというか、こどもだから遠慮がないというか。
それで対応してくれるドラゴンも優しい人……もとい竜だなあ。
と、そんなことを思いながら振り返ると、タイガさん一同が大口を開けて固まっていた。
一部の人は武器すら落としてしまっている。
「その、シゲル……自分たちは無事に帰れるのか……?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「まさか本当に竜神様とは……驚き過ぎて寿命が縮んだぞ……?」
「ツバキさんは長寿なんで少しぐらいいいじゃないですか」
「うるさいわ!」
ツッコミをすることでいつもの調子に戻るツバキさん。
このおかげでタイガさんの他のメンバーも我に返り、落とした武器を拾い上げるなどして気持ちが落ち着いたようだ。
『ところでシゲルよ、ここに来たということは……』
「はい、ありますよ。これですね」
僕は持ってきた袋を開けると、爆裂草の実を手渡す。
『おお、これじゃこれじゃ! では早速……』
ドラゴンはそれを一気に口に放り込むと、そのまま飲み込む。
そして遅れて体内から破裂音が聞こえてくる。
「シゲル、自分の中のドラゴンのイメージが変わってしまったのだが……」
「タイガさん、それは自分も前回経験しました」
唖然とした表情でドラゴンの奇行を見届けるタイガさんたち。
それもそうだ、普通は食べたら即死するような爆裂草を大量に食べてるのはどう見ても異常だ。
そして、破裂音が収まるとドラゴンは一息つく。
『うむ、美味だ。満足した』
「種も持ってきましたので、育てておきますね。そして、代わりといっては何ですが……」
『礼はするぞ。何でも言うがいい』
「ここで野菜を育ててみてもよろしいですか?」
僕はこっそり持ってきた人参やブドウの種を見せる。
もしこれらもランクを上げることができるなら、種を採取しておきたい。
前の世界ではブドウが好きだったので、是非高ランクのものが欲しいのだ。
この世界のブドウは品種改良が進んでいないのか、すっぱいものが多いから高ランクのものの改良をしていきたい。
『その程度のことならいくらでもするが良い』
「ありがとうございます。あ、それとラスさん」
「は、はいっ!?」
急に名前を呼ばれて慌てた声で返事をするラスさん。
新人なのにこんな状況だとそうもなるよね……。
「ラスさんも爆裂草を育ててみてもらえますか?」
「わ、分かりました。やってみます」
その後、僕は野菜などを育てるとどれもBランクになり、ラスさんが育てた爆裂草も同じくBランクになった。
どうやらスキルレベルなどは関係なく、この場所で育てるとBランクに育つのが確定したことになる。
『ふむ、そちらの者にも褒美をやらねばな……』
「いいい、いいんですか……? それなら、シゲルさんと同じように種を持ち帰りたいのですが……」
『よかろう、好きなだけ持ち帰るといい』
「あ、ありがとうございます……!」
ラスさんはBランクの薬草の種を持ち帰ることにした。
これでいつでもBランクの薬草を育てられるので、タイガさんたちに貢献できると大喜びだ。
「そういえば、前回と今回でここの場所が変わっていたように思えたのですが……」
『そうだ、この泉は移ろうもの。一定の場所に留まらず、常に動き続けておるのだ』
「なるほど……それだと、やはりタイガさんやイベリスさんたちにお願いしないとここには来られませんね」
『ふむ……我としてもこの爆裂草をいつでも食べたいものではあるが……』
「ねーねー、ドラゴンのおじちゃん?」
そこに割って入ってきたのはアイリス。
ドラゴンをおじちゃん呼びとは本当に度胸があり過ぎる。
「あのね、おみみかして?」
『うむ』
ドラゴンはアイリスの顔の傍に首を伸ばす。
そして2人の密談が終わると、ドラゴンは僕の方を見る。
『そうかそうか、なるほどな。では、そうすることにしよう』
「???」
一体全体、何の約束が交わされたのかまったく分からない。
しかし、ドラゴンの表情を見るに、ドラゴン側に得があるような内容だったのだろう。
アイリスに聞いても「ひみつー!」と言われ、その真相を知るのは、しばし後になるのだった。
その後、僕たちはBランクの種を大量に持ち帰り、家でのんびりとジュースを啜っていたのだが。
「パパー、こっちこっち!」
アイリスに呼ばれ、聖樹のある丘へと登ることになった。
「あ、もしかして聖樹に魔力が欲しかったの?」
「ううん、ちがうよ。あのね……」
アイリスが聖樹の裏側に回る。
僕も後を追いかけると、突然周りに泉が広がった。
あれ? ここってもしかして……。
『おお、先程ぶりだなシゲルよ』
「あれ……? ここは森ではなかったはずでは……」
『うむ、聖樹の土地に引っ越してきた』
「えええええ!?」
ドラゴンの話を聞くと、この泉は移ろうものではあるが、強い魔力のある場所へと留まることができるらしい。
そして、ある程度育った聖樹は魔力を集める性質を持っているらしい。
つまり……。
『この聖樹がある限り、この泉はここに留まる。つまり爆裂草も食べ放題というわけだな』
「そ、そうですか……ハハハ……」
ただ、泉に入れるのは精霊の加護を持っている僕や、精霊そのものであるアイリスと、その時一緒にいる仲間だけとのことだ。
これで町中にドラゴンがいる!? と騒がれることはないので安心ではある……のかな……?
……こうして、お隣にとんでもない人(?)が引っ越してきてしまったのだった。




