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19.固有スキル

「……のう、シゲルよ。お主なにかしたか?」

「いえ、僕は何も……」


 謎の種から声が聞こえ、言うとおりに広い丘の上に植えた翌日。

 狼の獣人の人に薬の試作品を渡し、お店も早めに切り上げてみんなで丘の上まできたのだけど。


「木が、生えてますね……」

「シゲルくん、夜中にこっそり『成長促進』を使いに来たの?」


 僕は首を横に振る。

 『成長促進』を最後に使ったのは、種から芽が出た時だけだ。

 その後は何もしていないはずなのに、芽が急成長して膝の高さぐらいまで成長していたので、みんな驚いている。


『まりょく、もらったから……』

「えっ?」

『パパからまりょく、もらったの』

「パパって、誰……?」

『シゲル……』

「ど、どういうこと!?」


 僕は『成長促進』を使っていないのに、種に魔力をあげていると言われた。

 もしかして、僕が夜中寝ている間にこっそり吸い取られていたのだろうか?

 でも、この場所に来たわけでもないのに、そんな芸当ができるものなんだろうか。


「シゲルよ、一人で驚いてないで説明せぬか」

「あ……すみません」


 やはりみんなにこの声は聞こえていないようで、僕が魔力を与えたことになっていることを説明した。


「ふーむ……もしかしたら、今まで注いでおったが芽にならなかった期間の魔力のことかもしれん。いや待てよ……だとしたら……」

「そうなの?」

『うん……ずっと、ためてたの……』


 声はツバキさんの仮説を肯定する。

 それを妙に慌てふためいているツバキさんに伝えると目を見開き、その場に跪いた。


「ど、どうしたんですかツバキさん!?」

「ま、まさかこのような所で……貴方は……聖樹なのでは……?」

『このきはせいじゅだけど、ぼくはせいじゅじゃないよ』


 聖樹だけど聖樹じゃない……?

 ダメだ、頭がこんがらがってきた。

 それはツバキさん以外のみんなも同じらしく、頭の上に?マークが出ているようだ。


「ということは、この木は聖樹、そして声の主……貴方は、精霊様ですか……?」

『うん、ぼくはせいれいだよ。うまれたばかりなんだけどね』

「あの、もうちょっと詳しく説明してもらえるかな?」

『うーん……それなら、もうすこしだけこのきに、まりょくをちょうだい。そしたらママがでてきてくれるよ』

「わかった、ありがと……つ、ツバキさん?」


 僕が精霊と話していると、ツバキさんが自分の腕をぐいっと引っ張る。


「お主、何を友のように話しておる……もっと敬わぬか!」

『パパだし、ぼくはきにしないんだけどなぁ』

「……だそうです」

「うぬぬ……まあ精霊様に認められているということかのう……」

「とりあえず、魔力を注いでみますね」


 店を終えた直後で魔力を使っていないので、今ある僕の魔力を全て木に注ぐ。

 すると木が光り出し、全身が透明に近い緑色をした女性が姿を現す。


『……ようやく直接お話ができますね、シゲル。私は人から土の精霊と呼ばれる者。そして、こちらの世界にあなたが来た際に、力を授けた者でもあります』

「僕に……? すみません、僕はあなたにお会いした記憶はないのですが……」


 こちらの世界に来た時のことは覚えている。

 下校中、突然目の前が光り、気が付いた時にはお城にいた。

 ほんの数秒の出来事で、誰かに会うという事は難しいはずなのだが。


『ええ、精霊と転移者は直接会うことはありません。しかし、異世界から召喚された者に、この世界では誰もが持って産まれてくる『スキル』と呼ばれるものをお渡しするのです』

「そういえば、確かに自分は前の世界では『成長促進』というスキルは持っていませんでしたね……」

『そうです。しかし、この世界では誰もがスキルを持っているのが普通です。そのため、私はあなたに『成長促進』ともう一つ、スキルを与えました』

「もう一つ、ですか……? しかし、お城での『鑑定』では『成長促進』しか鑑定されていませんでした」


 そう、僕は『成長促進』しか持っていない。

 だからお城を追い出され、その先でリリーと出会ったのだ。

 お城の鑑定でも、リリーの鑑定でも、『成長促進』以外のスキルの名前は出なかったはず。


『それは私がスキルを隠蔽していたからです。この世界に召喚された者は非常に強力なスキルを授かります。しかし、そのスキルのせいで人生が狂ってしまった者を、幾度となく見てきました』

「そのスキルのせいで、魔王討伐に駆り出されたから……でしょうか?」

『はい。強力なスキルを持っていたとしても、強大な魔王の前では塵に同じ。何度も何度も転移者が魔王に葬られるのを、私たち精霊は遥か昔から繰り返し、繰り返し見てきました……だから、せめてあなたは魔王討伐に駆り出されないように、戦闘スキルではない『成長促進』、そしてもう一つのスキルを授け、隠蔽しました』


 僕が非戦闘スキルだったのは偶然ではなく、土の精霊様の心遣いだったのか……。

 僕は腕っぷしが強い方じゃなく、武器を持ったとしても、おそらく雑魚にすら苦戦してしまうだろう。

 ……正直、命のやり取りなんてこれっぽっちもしたくない。

 そんな考えの僕なんか、魔王どころか道中で力尽きてしまうのは目に見えている。


「ありがとうございます、僕がこちらの世界に来た時から、ずっと守ってくださっていたのですね。……しかし、どうして僕だけだったのでしょうか?」

『それは、土属性があなただけだったからです。転移者にスキルを授けるのは、同一の属性の精霊に限られますから』


 つくづく、僕は運が良かったんだと思い知らされる。

 もし他の属性だった場合、今こうして生きて大地に立っていられなかったかもしれない。


『……そして、もう一つのスキルは……一時的に隠蔽を解除しましたので、そちらの妖狐に鑑定してもらうといいでしょう』

「は、はっ! それでは儂が代わりにやらせて頂きます」


 ツバキさんは『鑑定』を発動させると、信じられないものを見たような表情で呟いた。


「『土の精霊の加護』……じゃと……!?」

「そ、それは凄いものなんですか……?」

「……数千年の歴史で、数えるほどしか発現が確認されておらん固有(ユニーク)スキルじゃ……効果は……『成長促進でランクが下がらない』『成長促進でランクが上がりやすくなる』か……」

『それは、私たちのせめてもの償いです。右も左も分からぬ異界の土地で生きていけるように、できるだけ強力な効果を付与しています。そして、この子も……』

『ぼくもずっとパパといっしょだったんだよ!』


 ずっと一緒……そして今気づいたけどこの口調はもしかして……。


「もしかして、薬草を育てる時に助言をくれたのは……」

『うん! パパがこまってたから……まりょくがたりなくて、すこししかおはなしできなかったんだけど……』

『私たち精霊は依り代か大量の魔力がないとあなたがたに認識されません。だから、この子はあなたの傍にずっといましたが、聖樹という依り代を手に入れたことで、ようやくお話することができるようになったのです』


 そっか、この子がいなければラスさんも助からなかったかもしれないし、ガーベラさんの傷も完全には癒えなかったかもしれない。

 ほんと、精霊様たちには感謝しかない。


「精霊様、ありがとうございます。あなたとあなたの息子……? いえ、それとも娘……? ……がいなければ、助からなかった人が大勢いると思います」

『いえ、その人たちを助けたのはシゲル、あなたなのです。あなたが誰かを助けようとして行動しなければ、結果は得られなかったでしょ……』

『ねー、ママ。ぼく、おとこのなの? おんなのこなの?』


 僕たちの会話を遮るように、精霊の子が疑問を投げかける。

 確かにどちらか分かっていた方が、話しかけやすくはあるかもしれないかな。


『私たち精霊は生まれたばかりの時は無性です。その後、自分で選ぶことでどちらにもなることができるのですよ』

『そうなの!? ね、ママ。それじゃ――』

『分かりました、それがあなたの望みなのですね』


 精霊様が子に向かって手を掲げると、精霊の子の全身が光に包まれる。


 そして、徐々に光が収まり、目を凝らすとそこには一人の女の子が立っていた。

 しかし、その容姿は――。


『ふふふ、欲張りですね。シゲルに気に入られるために、3人の特徴を全部入れたいだなんて』


 精霊の子の容姿は……リリーのように金髪碧眼で、ツバキさんのように身長が低くて獣耳と尻尾を持ち、そして……その小さな身体には不釣り合いなぐらいに大きい、ガーベラさんのような胸を持っていた。

 ……ちょっと属性過多過ぎない!?


『……そろそろ時間のようです。シゲル、聖樹が成長したらまた会うこともあるでしょう。その時を楽しみに待っています』

「そんな! まだお話ししたいことが……」

『あなたとその子の成長を、大地から見守っています。それでは……』


 全身が透明に近い緑色をした精霊様は、その透明度が徐々に上がり、やがて空気へと溶けていった。

 そして、残ったのは……。


「パパ、これからよろしくね!」


 ……こうして、我が家に新しい家族が加わったのだった。

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