表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界で道具屋はじめました  作者: SAK


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/71

18.謎の種

「こんにちはー、この前は人参ありがとうございますっ!」

「いらっしゃいませ、気に入って頂ければ何よりです」

「うん、みんなに分けてあげたんだけど、美味しい美味しいって喜んでましたよ」

「ということはやっぱりパーティーを……」

「えっ、知ってたんですか?」


 兎の獣人の人が驚いたような顔を見せる。

 種族特有の行動で、あまり知られてないのかな?


「僕はリリーからそういうものがあると聞いただけなんですが……でも、そういった集まりがあるのはいいことですね」

「集まった時に無事なのも確認できますし、情報交換もできますしねっ。でも、ここの人参の情報出したら、みんな『お嫁さんになりたい!』って言いだしちゃって……」

「えっ」

「私たち、人参が好きなんですけど、その……好き過ぎちゃって。美味しい人参を育ててくれる人になら、それ以外は無条件で結婚したいと思っちゃうんです」


 ええ……どれだけ人参好き過ぎるの……?

 って、「みんな」ということは……。


「わ、私もそうなんですけど……でも、シゲルさんにはかわいい奥さんがいますし……」


 兎の獣人の人はちらりとリリーの方を見る。

 いや、僕とリリーは一緒に住んでいるとはいえそういう関係ではないのだけど。

 でも、否定したらこれ、グイグイ来られるやつなのでは。


「で、でもでも。私たちは重婚大丈夫ですので! シゲルさんがその気になってくれれば……」

「え、えーと……」

「あらあらシゲルくん、モテモテねえ」


 ガーベラさん!? なんでこんな時に!?


「シゲルくんとリリーは夫婦じゃないわ。だって、シゲルくんもリリーもまだ未成年だもの」

「えっ、そうなんですか? お店を持ってるからつい……」

「それに、まだお店を始めたばかりで忙しいから、そういったのは大人になって、落ち着いてから。ね?」

「は、はーい……ごめんなさい」


 兎の獣人の人は耳をシュンとしてうなだれる。

 ガーベラさんは僕が断りづらそうにしてたので、助け舟を出してくれたのかな。

 でも、目の前で悲しそうな顔をしてるのはちょっと心が痛む。


「でも、それまでに色々してシゲルくんの好感度を上げておけば、もしかしたらもしかするかもしれないわね~」


 ちょっ、助け船じゃなかったんですか!?


「……そうですね! シゲルさん、私はイベリスって言います。冒険者なので、シゲルさんが必要なものの採取など、いつでも言ってください! 私、がんばって依頼をこなしますので!」

「え、あ……う、うん。その時はよろしくお願いします……」

「それではそろそろ依頼の時間なので……失礼しますっ!」


 イベリスさんは嬉しそうな顔をして、仲間の元へと駆け出して行った。

 ……とりあえず、タイガさん以外の冒険者の人とのつながりができた、ってことにしておこう。




**********




「……で、狼の獣人の依頼はどうするのじゃ?」

「そうですね、ポーションと解熱草を組み合わせようと思っています」

「ほう、興奮状態を熱を冷ますことで抑えようということかの」

「ええ、ですがどれだけの量が適量なのか分からないので……」


 閉店後、僕は解熱草を育ててからツバキさんの工房を訪れていた。

 あの狼の獣人の人の破壊衝動を抑えるための薬の試作のためなのだが、味付きポーションと違ってどこまでの量を混ぜるのかが課題となっている。


「とりあえずポーション1に対して解熱草1から試していくかのう」

「お願いします。しかし、味付きポーションが好評なのもあって、試作用のポーションがなかなか用意しづらいですね……」

「うむ、毎日売り切れておるからのう……商品開発にかまけてそちらを出せないとなるのは避けたいところじゃ」

「僕に魔力がもっとあればいいのですが……」


 そう、僕の魔力はいまだ100のまま。

 戦闘もしないので経験値も貯まらず、魔力のレベルアップすらできていないのが現状だ。

 薬草を作るだけで90も消費するので、自然回復を待ちながら1日3回薬草を作るのが精一杯だ。

 そして1つの薬草から採れる葉は5枚。1日15個しかポーションが作れないから、味付きポーションも基本的に品薄だ。

 今までは旅の途中で作っていたもので何とかしていたが、その在庫ももうなくなってしまった。


「スキルレベルはまだ上がっておらんのか?」

「ええ、毎日欠かさず使っているのですが……基本的にレベル2に上がるまではどれぐらいかかるんです?」

「そうじゃな……だいたい2か月といったところか。それならもうすぐのはずじゃが……」


 確かに僕がこちらの世界に来て、スキルを使い始めてそろそろ2か月ぐらいになる。

 でも、僕のスキルはちょっと特殊みたいだし、その条件に当てはまらないという可能性も当然ある。


「では引き続き僕はスキルを使い続けてみます」

「うむ、レベルが上がった時は儂に知らせい。『鑑定』してやろうぞ」

「分かりました、ありがとうございます。それではポーションと解熱草の実験、よろしくお願いします」

「承知した。それでは今から取り掛かるとしようかの」

「では失礼します」


 僕は工房の扉を開け、ツバキさんに別れを告げると畑に戻った。

 もう薬草を育てるだけの魔力はないので、謎の種に魔力を注いであげることにする。


「それにしても、どれだけ魔力を注いでも芽すら出ないなあ……何が足りないんだろう……」


『……もっと、広いとこ……』


「!?」


 突然、頭の中に声が響く。

 あのBランクの薬草を育てた時と同じだ。


「もっと広い土地がいいの?」


『そう……ここじゃ、せまいの……』


「そっか、分かったよ。ありがとう」


 僕は謎の声にお礼を言う。

 もしこれがあの時と同じなら……。




「ツバキさん、もっと広い土地はありませんか?」

「ど、どうしたんじゃ藪から棒に。まだ引っ越してきたばかりじゃぞ!?」

「実は、謎の種から声が聞こえまして……」

「……ほう、話してみい」


 僕はさっきのやり取りをツバキさんに説明すると、ツバキさんは何かを考え込むように口に手をあて、俯いた。


「この畑でも狭いとなるともしや……いや、憶測で物を言うのはよくないのう。……シゲル、少々待っておれ。土地の交渉をしてくる」

「お、お願いします」


 ツバキさんはそう言うと、足早に商人ギルドの方へと向かって行った。

 いつも冷静なツバキさんにしては珍しいような……。

 少し気になるけど、言われた通りにおとなしく待っていよう。




「帰ったぞ」

「どうでした?」

「うむ、ここから少し離れた所にある、小高い丘の上に広い土地があるそうじゃ。交通の便が悪いから誰も買わないそうなのじゃが……」

「種を持って行ってみましょうか」

「そうじゃな、もしかすると引っ越すかもしれんから、リリーとガーベラも連れて行った方がいいじゃろう」

「分かりました、呼んできます」


 僕はリリーとガーベラさんを呼びだし、ツバキさんと合流して丘の方へと向かった。

 もう日が傾き始めているので、夜になる前にたどり着きたいと思い、いつもより足早に歩を進める。



 そして、夕日が沈みかける前に丘の上へとたどり着いた。


「町が一望できますね……こんな見晴らしのいい土地を誰も買わないなんて……」

「まあ、流石に離れすぎておるからのう……それはさておき、種は持ってきたな?」

「はい、早速埋めてみましょう」


 僕は丘の中心部に穴を掘り、種を埋めて魔力を注いだ。

 すると、すぐにぴょこん、と芽が出てきた。

 今までどれだけ注いでも出なかった芽が、だ。


「やっぱり、土地が狭かったから?」


 僕は芽に語り掛けてみる。


『うん……だけど、ここならもうだいじょうぶ。ありがとう』

「それじゃ、僕たちもここに引っ越してきた方がいい?」

『ううん、だいじょうぶ。ここのふもとにきてくれれば……』

「分かった。それじゃ、そうするね」


「あ、あの……シゲルさん……?」


 ふと気づくと、リリーが心配そうにこちらを見つめている。


「どうかした?」

「あの、誰と喋ってるんですか……?」

「この子だよ。もしかして、みんなには聞こえてない……?」


 僕はそう言って芽を指し示す。

 しかし、リリーも、ガーベラさんも、ツバキさんも首を横に振る。


「もしや……お主の『成長促進』スキルは普通のスキルではなく、固有(ユニーク)スキルなのかもしれんのう」

「ユニークスキル……?」

「そうじゃ、滅多に発現することのない代わりに強力な効果を持つスキルじゃ。……しかし、通常スキルと同名の固有スキルなぞ、聞いたことがないのじゃが……」


 ツバキさんが頭を抱える。

 そういえば僕の他に召喚されてた人たちは『無詠唱』みたいな、特殊っぽいスキル名を言われてたような記憶がある。

 中には普通の『剣術』のような名前もあったけど、もしかしたらそれらも通常スキルと同名の固有スキルだったのかもしれない。が、今ではもう知ることは叶わない。


『ふああ……きゅうにめがさめちゃったから、ぼくもうねむたいよ……また、あしたここにきてくれる?』

「あ、うん。それじゃあ、また明日」


 僕は謎の種の声をみんなに伝えると、夜になる前に丘から降りていったのだった。




「シゲルのスキルのレベルが上がらなかったのは、固有スキルだったからという可能性もある……が、まだそれで確定というわけではない……謎は深まるばかりじゃのう」

「とりあえず、明日またあの子に会って聞いてみましょう。それから、丘の麓に引っ越しする準備もしないとですね」

「それなら、引っ越しをしたことをお客さんに伝えるために看板も作らないとですね」

「ふふふ、忙しくなりそうね。シゲルくんといると本当に退屈しないわ」

「まったくじゃ。新商品の開発に謎の種に……長年生きてきたが、シゲルが来てから暇はせんぞ」


 ……こうして、少し慌ただしい一日が過ぎていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ