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16.異世界で道具屋はじめました

「シゲル、開店おめでとう」

「タイガさん、ありがとうございます。おかげさまで無事に開店できました」

「売れ行きも好調なようだな。自分もEランクの薬草を5枚頂こう」

「はい、それでは銀貨25枚になります」


 僕は薬草の代金を受け取り、タイガさんに薬草を5枚渡す。

 やはり売れ筋は薬草で、銀貨5枚(約5000円)とお安めのEランクが最も多く数が出ている。

 Cランクの薬草は効果が高いものの、お値段も高くて4倍の銀貨20枚(約1万円)ということもあり、買っていく人は収入がある高ランクの冒険者のようだ。


 他の商品は銀貨1枚のDランクの解熱草と解毒草、銅貨30枚(約300円)の各種Dランク野菜だ。

 これらもそれなりの数が出ていて、野菜に関してはほぼ売り切れに近い。


「……ん? この色の付いたポーションは新商品か?」

「はい。回復量は普通のポーションより落ち、値段も高くなるので、今日はまだ売れていませんね」

「……? なぜ、回復量の落ちるポーションを……?」

「それは、匂いを嗅いでみれば分かりますよ。どうぞ」


 僕はポーションの蓋を開け、タイガさんの顔に近づける。

 すると、タイガさんはなるほど、と納得した顔で僕の方を見て頷く。


「面白い試みだな、確かにこれは一部に需要があるだろう」

「ええ、そろそろ冒険者の人たちが帰ってきますし、試飲用にいくらかコップに注いでおきましょう。リリー、お願いできる?」

「はい、それでは10個ほど作っておきますね」


 リリーはテキパキとコップにポーションを注いでいってくれる。

 その個数が増えるにつれ、ポーションの匂いがあたりに満ちていく。

 これで、効果が出るといいんだけど。



 その後少しすると、依頼を終えて帰宅する冒険者たちの数がどんどん増えていく。

 そして、僕の見立て通り、とあるパーティーがこちらへと歩いてくるのを見つけた。


「へぇ、こんな所に道具屋さんがあったんだ。……あのいい匂いはここからかな?」

「うん、たぶんそうだよ。あの色の付いた飲み物から匂ってくる」

「すみません、この飲み物は何ですか?」

「はい、それはポーションになります」

「「「ポーション!?」」」


 僕の言葉に、彼女たちは声を揃えて驚く。

 彼女たちは犬の獣人、猫の獣人、兎の獣人の混合パーティーだ。

 つまり、人間に比べてとても鼻がいい。


「今日は開店サービスということで、試飲できます。よろしければこちらからお一つどうぞ」

「ポーションって高いと思うんだけど……いいのかな。ありがとう」

「……! おいしい! ポーションなのにおいしい!」

「あ、あの! これって商品なんですか!?」

「はい。ですが、作るのに少々手間がかかりまして、数はあまり用意できませんし、手間の分だけお値段も普通のポーションより高くなってしまいます。また、味を追求したため、回復量も少し落ちてしまいますが……」


 これらのポーションは、普通のポーションに野菜や果物を加えて作り出したものだ。今回はトマトとリンゴ味のポーションをお店に出している。

 配分を間違えると回復量が全くなくなったり、まずいポーションができてしまったりと、かなり繊細な調合が必要になるため、今の『おいしいけど、少し回復量が低い』ポーションが形になるまで、かなりの試行錯誤を重ねた。

 おかげで、彼女たちのように喜んでくれる人が出るバランスになったのだ。


「買います! だって、ポーションって匂いがきつくて、それにおいしくないもん……」

「ええ、貴方たちのような鼻が利く方向けに作成しましたので、お役に立てれば幸いです」

「あ、あの……私、人参のポーションが欲しいなって……」


 兎の獣人の人がおずおずと僕に話しかける。

 確かに兎は人参が好きだし、味の種類も多くなっていいな。


「分かりました、開発にお時間を頂くと思いますが……」

「ありがとうございます! えへへ、私、このお店の常連になっちゃいそう……」


 兎の獣人の人が、嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせながら微笑む。

 そして、僕たちの会話を聞いた他の獣人の冒険者たちが、次々にポーションを試し始めた。


「確かに、これなら俺たちの鼻にも問題ないな」

「ポーションを使うとあの独特の匂いのせいで鼻が利かなくなっちゃうこともあるからなー」

「分かる。回復したつもりなのに逆に危なくなるんだよな」


 そんな会話が聞こえてきて、このポーションを作ってよかったと思う。

 このポーションが広まれば、ツバキさんのレシピも売れるだろう。

 また、僕が考えつかなかったようなポーションも出てくるかもしれない。

 これでいい流れが来ればいいんだけど。




**********




「リリー、シゲルくん、お疲れ様。ううん、シゲルくんじゃなくて店長だったわね」

「いつも通りでいいですよ、ガーベラさん。それにしてもあのポーション、思った以上に好評でしたね」

「元々ポーションの味には不満がある人が多かったもの。患部に直接かければいいと言っても、細かい擦り傷が全身にあったり、服にかかると濡れて重くなったりするからどうしてもね……」

「なるほど、現場の声は参考になります」


 僕は王都からここまで旅をしたぐらいで、実際にポーションを使ったことはないから、実際に使用者の声が聞けるのはありがたい。


「それに、薬草はランクが上がるとそれだけ苦味も増してくるから、ランクの高い薬草を使った味付きポーションも作ってみるといいかもしれないわ」

「えっ、薬草にはそういう特性もあったんですか?」


 それは初耳だ。確かに良薬は口に苦しと言うけど、あまりにも苦すぎるのはね……。

 モンスターとの連戦で何度もそんな苦いものを飲むとなると、かなり精神的にきついだろう。


「おお、シゲルよ。こちらもようやく落ち着いたわい」

「ツバキさん、やはりあのポーションでしたか」

「うむ、真新しい道具ということもあって飛ぶように売れて、もう在庫がなくなってしもうた。悪いが材料の補充を頼みたいのじゃが……」

「分かりました、それでは畑に行って作りましょう。今回はCランクの種を使ってみましょうか」

「おお、ついにか! 儂も同行するぞ」


 興奮気味なツバキさんと一緒に、僕は畑へと向かう。

 もしこの種からBランク以上の物が作ることができれば、助かる人も増えるだろう。


 僕もはやる気持ちを抑えながら肥料を入れて種を蒔き、『成長促進』のスキルを発動する。

 そしていつも通りランクアップする魔力の注ぎ方で種を育て――。


「……リリー、どう?」

「うーん……今まで育てたCランクのものよりも品質は上みたいです。それでもBランクには届いてない、という鑑定結果になりますね」

「ありがとう。それじゃ明日はいつも通りの魔力の注ぎ方をして、品質の差を取ってみようかな」

「儂はもう少し肥料を研究してみるとするかの。Bランクの壁は厚いようじゃのう……」


 どうも、Bランクの薬草はそう簡単に作れるものではないようだ。

 それでも品質のいいCランクのものが作れるなら、味付きポーションの品質も上がるだろう。

 味もよくて回復量もあるなら、もっと需要が増えるはずだ。


「……おっと、残った魔力はこの子にあげておこう」


 僕は畑から少し離して植えた謎の種を蒔いた場所に魔力を注ぐ。

 未だに芽が出ていないから、『鑑定』と同じように弾かれているのか、それとも単純に成長がもの凄く遅い種なのか。

 それはまだ分からないけど、どんなものが育つか気になるのでこうやって定期的に魔力を注いであげている。


「……君はどんな植物に育つんだろうね。楽しみだよ」


 僕は土をポンポンと軽く叩いて話しかけ、腰を上げて今日の売上の集計のため店へと戻って行った。

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