15.散策
「シゲルくん、それじゃ行きましょ」
「分かりました、ほら、リリーも」
「は、はいっ」
自由都市フリーデンに来て2日目。
僕たちは町の構造の把握や他店の視察をするため、3人で町へ繰り出した。
ツバキさんは両手に花と言ってたけど、傍から見たら親子扱いじゃないのかなあとガーベラさんを見ながら思う。
……それはさておき、とりあえず銀貨50枚(約5万円)あればいろいろ買えるかな。
しかしこの量を持ち歩くのは相変わらず重い。お釣りで銅貨が増えるから尚更だ。
紙幣って出回ってないのかなあ……と思いながら僕たちは町を回る。
「ここは道具屋みたいよ」
「ちょっと入ってみましょうか」
僕たちはドアを開けると鐘がカランカランと鳴り、店主に来客を告げる。
店はこじんまりとしているが、品物の物量に圧倒される。
僕が商品として育てている薬草、解毒草、解熱草……それ以外にも大量の草やそれの種が並んでいるようだ。
値段を見てみると……Eランクの薬草が銀貨5枚と王都の約半分になっているのに気づく。
「薬草がご入り用ですか?」
「あ、いえ、昨日王都から来たものでして……王都に比べて薬草がだいぶ安いなと思いまして」
「そういうことでしたか。この町は『成長促進』を持つ者が自由に活動できましてな。冒険者の数が多いため需要も高いのですが、供給量も多いからこの値段なのです」
「なるほど、ありがとうございます」
……王都の感覚で値付けをしてたらこりゃ売れないな……視察に来てよかった。
情報を頂いたんだから、お返しに何か買いたいところだけど……ん?
「あの、すいません。この1つだけある種は何ですか?」
「ああ、それですか。遠方から仕入れた際に紛れ込んでいたのですが……『成長促進』を使っても反応がなく、『鑑定』を使っても詳細が分からない種なんです」
「試しに鑑定をしてみてもよろしいですか?」
「はい、おそらく詳細は分からないと思いますが、それでもよろしければ……」
何の種か分からず買うのはちょっと度胸がいるので、リリーに鑑定をお願いする。
もしやばい種だったら自分が危なくなるしね。
「それではやってみます……きゃっ!?」
「危ない!」
リリーが『鑑定』を発動させると、それが種に弾かれ、反動でリリーが倒れかける。
僕は咄嗟に後ろからリリーを抱き止め……。
ふにゅ。
「……ふにゅ?」
落ち着いてよく見ると、僕の手のひらの中にリリーの胸が収まっていた。
「ご、ごごごごごごめん、リリー!」
「あ、いえ、その……助けてくれてありがとうございます……」
咄嗟に手を離して平謝りする僕と、俯いて顔を赤くするリリー。
「お若いですのお」
「ええ、若いわねえ」
そして、それを微笑ましく見守るガーベラさんと店主。
いっそ殺して……。いや、社会的に死んだかもしれないんだけど……。
……それが落ち着いたころ、『鑑定』が弾かれたのは種が『鑑定』を拒否したからではないかと店主は言う。
スキルが拒否されることがあるんだ……と思いつつも、『成長促進』を使っても反応がないのはこれも種が拒否していたからなんだろうなとも思う。
今まで育てた種は全部拒否などしていなかったから、僕の好奇心はこの種に向けられる。
「それではこの謎の種と、あと他の種も数点頂きます」
「ありがとうございます。もし育つことがあれば情報を頂ければと」
「分かりました、その時は真っ先に伝えに来ます」
僕たちは代金を支払い店を出ると、他のお店の視察を続けた。
……さっきあんなことがあったせいか、リリーの顔はまだほんのり赤みがかかっていて、少しだけよそよそしく感じた。
ひとつ屋根の下に住んでるから、余計に意識してしまう……まあ、鑑定を頼んだ僕のせいではあるんだけど……。
**********
「ふう、とりあえず一段落かな」
僕たちは家に戻り、育てた野菜のジュースで一息入れる。
「そうね、色々と分かった1日だったわ。わたしの武器も新調できたし……久しぶりに冒険者に復帰しようかしら」
「お、お母さん、危ないのは、その……」
「もちろん、その辺はちゃんと考慮するわ。それに、受けるのはシゲルくんの依頼よ」
「僕の、ですか?」
確かに町の外で採取をしたい時は冒険者ギルドに依頼を出すと思うけど、ガーベラさんだけに頼むのってできるのかな?
「ええ、今はタイガさんたちがいるけど、彼らも冒険者だしそのうち町を離れてしまうわ。その時にお手伝いできればと思って。わたしも元Cランクだし、指名依頼は受けられるの」
「なるほど、ではその時が来たらお願いします」
「あの、お母さん……」
リリーが心配そうにガーベラさんの服を指で引っ張る。
やはりガーベラさんが重傷を負ったのを未だに引きずっているのだろう。
「わ、私もお母さんやシゲルさんの力になりたいの。だから、私にも戦い方を教えて……!」
「リリー……」
「あ、足手まといになっちゃうかもしれないけど、また家で待っててあんなことが起きちゃったらって思うと……私、私……」
「……分かったわ。いつまでもお留守番ってわけにはいかないものね。わたしは弓しか扱えないからそれになるけど、いい?」
「う、うんっ!」
……こうして、リリーはガーベラさんの指導により、弓の勉強をすることになった。
ガーベラさんは「基礎がしっかりできるようになるまでは外には出さないわ」と言っていたので、安心ではあるかな。タイガさんたちもまだ町にいるし。
他の問題があるとしたら……。
「ん? どうしたんじゃシゲルよ」
「あの、この種を見てもらえませんか?」
僕は道具屋で買った謎の種を袋から取り出し、ツバキさんに見せた。
「この種、何の種か分かりますか?」
「いや、見た事もないが……」
「リリーの『鑑定』が弾かれたんです。スキルが弾かれるようなものってあるんですか?」
「聞いたことはないのう……『鑑定』を拒否するなぞ、普通はできん」
ツバキさんでも分からないとなるとお手上げか……。
植えて育てて結果を確認するしか方法はなさそうだ。
「それでは普通に植えて育ててみます。ツバキさんには肥料を頼みたいのと、それと……」
「それと、なんじゃ?」
「ええ、ちょっと新商品の開発をと思いまして……」
「ほう、詳しく聞かせてもらおうか」
「……ということなんです」
「ふむ、店の開店に間に合わせたいわけじゃな。分かった、任せておけ。じゃがお主の言った通り……」
「はい、レシピはツバキさんが登録してもらって大丈夫です」
「うむ。では早速始めようかの」
「では材料の薬草と野菜はこちらに置いておきますので、よろしくお願いします」
僕は材料を置いてガーベラさんの家に帰る途中、裏庭で必死で弓の練習をしているリリーを見かけた。
頬を伝う汗も拭わず、一心不乱に的を狙って矢を放つその姿に、少しの間見惚れていた。
……リリーも頑張ってるんだ、僕も頑張らないとね。
僕は商品の在庫を増やすために『成長促進』を使いに畑に向かうのだった。




