14.自由都市フリーデン
「見えてきたぞ、あれが自由都市フリーデンだ」
「あれが……」
馬車に揺られること5日。
眼前に広がる草原の向こう側に、壁で囲まれた町が見える。
周囲には櫓……見張り塔? のようなものが立っていて、外敵の侵入を防いでいるようだ。
フリーデンは西に位置していて、南には森、北には山があり、資源も豊富らしい。
森があるなら採取に行けるかも、と期待に胸を膨らませる。
でも、まずは中に入って色々な手続きを済ませないと。
……その前に。
「タイガさん、フリーデンに入る前に『成長促進』を使いたいのですが大丈夫ですか?」
「ああ、それなら街道から少し逸れた所に止まろう」
タイガさんは馬を誘導すると、街道の脇に馬車を止めてくれた。
「ツバキさん、薬草の種はどうすれば収穫できますか?」
「うむ、葉を取らずそのまま育てればよいぞ」
「葉を取らずに……? 少しもったいない気もしますが、やってみます」
「そうじゃの、やってみれば分かるぞ」
僕は土に肥料を蒔くと、そこに種を投入し、『成長促進』でCランクの作り方で薬草を育てる。
「リリー、鑑定をお願いできる?」
「はい……Cランクですね」
「ありがとう。それじゃ続きを……」
僕は再び魔力を注ぎ始めると、薬草がドロリと溶け始めた。
いったいなぜ!? と思いながらもツバキさんの言うとおりに魔力を注ぎ続ける。
すると、花のめしべ部分と思われる場所の下が膨らみ始める。
「うむ、もう良いぞ」
僕は魔力を注ぐのを止めると、ツバキさんは薬草を地面から引っこ抜いた。
そして膨らんだ場所をナイフで切り、種を取り出し始める。
「あの、さっき薬草が溶けていたのはどうしてなんです?」
「うむ、薬草は種を作る際に毒を出して外敵を追い払うのじゃよ」
「や、薬草が毒を!?」
「そうじゃ。しかしその毒は自身をも蝕む強い毒での。それから自身を守るために葉が回復力のあるものとなったのじゃ」
「なるほど、だから葉は付けたままでないとダメなんですね」
葉を取ってしまうと回復できなくなってしまい、そのまま枯れてしまうわけだ。
しかし、自分を守るために身につけた回復力のせいで、逆に人間に採取されるなんて……。
でも、そのおかげでどれだけの人の命が助かっているかと考えると、感謝するしかない。
「よし、終わったぞ。薬草は大量の種を持つからのう。これでしばらくは種に困るまい」
「ありがとうございます。リリー、種を鑑定してもらえる?」
「はいっ……Cランクです。これでCランクの薬草を量産できますね」
「ありがとうリリー。……それじゃタイガさん、これを持っていってください」
僕はリリーに鑑定してもらった種のうち、約半分の15粒を袋に入れてタイガさんに渡す。
「いいのか? シゲル」
「はい、今回の依頼のおまけとしてお納めください。ラスさんに育ててもらって役立ててもらえれば」
「ありがたく頂いておこう。……ラス、一度これを育ててみてくれ」
「分かりました隊長」
ラスさんは種を1粒受け取ると、地面に埋めて昨日僕が教えた通りの注ぎ方で魔力を注ぎ始める。
次第に薬草が育ち、葉が収穫できるようになる。
「ふぅ……すいませんリリーさん、鑑定をお願いできますか?」
「わかりました。……Cランクですね」
「……やったぁ!」
どうやら完全に注ぎ方をマスターできたようだ。
僕の『成長促進』と違いランク維持だけど、Cランクの薬草なら役に立てるだろう。
「よくやったなラス。これだけでもお前は充分な戦力になる。だから次からは一人で無理をしないようにな」
「はい、またシゲルさんの厄介にならないよう、周りの声に惑わされないようにします」
「うむ、それが聞けて安心した。……それではフリーデンに向かおう」
これでラスさんについては安心かな。
薬草以外のものも、ランクアップできる魔力の注ぎ方が分かったら教えてあげよう。
**********
「そこの馬車、止まってもらおう。名前と目的を」
「自分の名前は冒険者のタイガ、そしてパーティーメンバー3人と、商人のシゲル、リリー、ガーベラ、錬金術師のツバキの8人だ。目的はシゲルたちの護衛、シゲルたちはフリーデンでの商売を行うためこちらに来た」
「分かった。それでは全員馬車を降りてもらおう」
僕たちは全員馬車を降り、門番が僕たちの顔をチェックする。
「うむ、犯罪の刻印はないようだな。通ってよし!」
この世界では犯罪を犯すと顔にその犯罪に応じた刻印をされ、犯罪者であると分かるようにしているそうだ。
そういった者たちは町に入れなくなり、野盗や山賊になったり、討伐対象になったりするらしい。
「それでは行こうか」
門番が5メートルほどある大きな門を開けると、門の向こうには町並みが広がっていた。
タイガさんは門のすぐ近くにある家に寄り、馬車をその家の横に停車させ、鍵をかけた。
そして馬をすぐ近くにある馬小屋に連れていき、僕たちの元へと帰ってきた。
なるほど、旅人のための馬車を預かるサービスをやってるんだ。
元の世界で言う駐車場みたいなものかな。
「まずは土地の確保じゃのう。それから商人ギルドへの登録か」
「自分はここに何度か来たことがありますし、案内しますよツバキの姐さん」
「うむ、よろしく頼むぞタイガよ」
僕たちはタイガさんの案内で土地を管理している、元の世界で言う不動産屋に行き、ガーベラさんの家とツバキさんの家が収まる土地を購入した。
人が多い町の中心部に近い土地はほぼ売れているか、狭いところしか残っていなくて、郊外に近いところしか該当する土地はなかったものの、薬草などを育てる都合上、土地の広い郊外の方がありがたい。
後々多く作れるように畑を広げていきたいし、ちょうどいい土地が見つかった感じだ。
次に商人ギルドに行き、販売許可をもらうことに。
「いらっしゃい、新規の登録ですかな?」
「はい、こちらのガーベラさんと……」
「いいえ、あの店の店主はシゲルくんよ」
「ぼ、僕ですか?」
「ええ、商品はシゲルくんが作っているんだもの。ここでなら表立って店主を名乗っていいと思うわ」
確かに王都ではスキルが知られることを恐れて裏方に徹していたけど……あの家はガーベラさんのものだし……。
「ふふふ、実はもうあの家を買い取れるぐらいの利益は出ているのよ。だから大丈夫」
「わ、分かりました……それでは僕とツバキさんで登録をします」
「うむ、錬金術師のツバキじゃ。よろしく頼む」
「それでは商人のシゲルさん、錬金術師のツバキさんでそれぞれ審査させて頂きます」
「審査……ですか」
「はい、どのような商品を扱うかですね。たまに違法なものを売ろうとする人がいましてね……一応審査をすることになっているのです。ご了承ください」
「分かりました、それでは商品を用意して待機しておきます」
その後、僕たちはギルドマスターの部屋に通されることに。
ギルドマスター直々に判断するなんて、よほど違法商品に悩まされているんだろうな。
「ようこそ、我々は新しい商人たちを歓迎しております。どうぞおかけになってください」
「で、では失礼します」
僕たちは椅子に腰かけ、目の前にある大きなテーブルに商品を広げる。
「こちらの薬草や解毒草、解熱草、それに野菜がシゲルさんの商品ですね?」
「はい、これからも採取で商品の種類を増やす予定ですが、今はこれらのみとなっています」
「……ほう! まさかCランクの薬草とは……! それに解毒草や解熱草、野菜もすべてDランク……! 商品の出所の詮索はしませんが、これを定期的に販売する予定ですか?」
「はい、ある程度の在庫も持っていますし、畑で栽培もしていきます」
「なるほど、これだけの品質を保てればすぐにでも人気店となるでしょう。営業の許可を出しておきましょう」
「ありがとうございます!」
その後、ツバキさんもCランクのポーションなどを提出し、ギルドマスターに驚かれながらも営業を許可された。
どうやらこの町で出回っているポーションもDランク以下がほとんどらしく、Cランク以上のものは貴重品扱いされているようだ。
僕たちは営業許可証をもらうと、郊外の土地へ行き、家を設置した。
オープンまで準備することは色々あるけど、ここから僕の道具屋生活が始まるんだ……!
そう思うと気が引き締ま……。
「師匠! 準備も終わりましたし、約束通り魔法をご教授ください!」
「ええい、旅が終わったばかりだから少しぐらい休ませんか!」
「……しばらくこの町に留まるんだ。機会ならいくらでもあるだろう」
相変わらずだなあ、魔法使いの人。
ちなみにタイガさんたちは暫くこの町に留まり、依頼をこなしていくらしい。
それなら僕も薬草の栽培などでサポートしてあげたいし、採取に行くときには依頼をしたい。
長旅で疲れたのはツバキさんだけでなく僕たちもだから、今日はゆっくり休んで、明日以降いろいろとしていきたい。
特に町の構造を把握しておきたいし、他のお店の商品も見てみたいとリリーやガーベラさんに伝えると、明日は3人で町を見て回ることになった。
ツバキさんには「両手に花じゃのう」とからかわれたけど、いつもお世話になっている2人にいろいろと買ってあげたいのはあるし、スルーしておいたのだった。




