1.非戦闘スキルなので追い出されました
今回はスローライフ……のんびりと更新予定です。
「これは路銀だ。あとは好きに生きるんだな」
「あ、は……はい」
僕は鎧で武装した兵士から銀貨が100枚入った袋を受け取った。
好きに生きろと言われても、この銀貨の価値すら知らないんだけど……。
しかし、質問をしようとしても無下に扱われるだけだろう。
なにせ僕は彼らの必要としていた「戦闘スキル」持ちではない召喚者なのだから。
僕の名前は草木茂。
ある日突然、他の日本人たちと共に異世界に召喚されたただの高校生だ。
召喚された目的は「魔王の討伐」という、よくあるものだった。
しかし、僕の持っていたスキルは『成長促進』という、非戦闘スキル。
しかもこのスキルは「植物の成長を促進する」だけのものだと鑑定された。
僕が「薬草などのアイテムを作って後方支援ができるはずです」と進言しても、お城にはそういうものを育てる人員はもう充分であると突き放された。どうも珍しいスキルでもなんでもなかったらしい。
だから、こうやって路銀を持たされ、追い出されてしまったのだ。
「はぁ……これからどうしよう……言葉は通じるけど文字は分からないし、貨幣の価値も分からない。お金の稼ぎ方も知らないし、寝泊りできる場所さえない……」
これ、完全に詰んでる気がする。
もらった銀貨が底をついたら、あとは死……。
などと考えていると、ぐぅとお腹の虫が鳴った。
色々あって忘れてたけど、ちょうどお昼前に召喚されたんだっけ。
とりあえずお腹を満たそうと、歩き回って市場のようなところを探しに出ることにした。
**********
「いらっしゃい、何にする?」
「えーと……ではそこの串焼きを2本でお願いします」
「あいよ! お代は銅貨30枚だ」
「それじゃこれで……」
僕は代金として銀貨を渡すと、お釣りとして銅貨が70枚返ってきた。
串焼きの代金が1本150円とすると、だいたい銅貨1枚が10円、銀貨1枚が1000円ってところかな?
しかし、元々100枚銀貨があったところに更に70枚も銅貨が入ってきたのだから荷物が重たくなる。
運動部に所属してたことがないし、体育の成績も普通だから、この重さは結構厳しいぞ……。
それはおいおいどうにかするとして、まずは減ったお腹をどうにかしないと……ということで、近くに座って食べられそうなところを探していると……。
「あのっ、薬草は入荷していませんか?」
「ああ、入荷するなり冒険者連中がこぞって買っていってな……他の店でもおおかた売り切れだろうよ。薬草の種ならあるんだがな……」
「そうですか……ありがとうございました……」
お店の人と、金髪の女の子の会話が耳に入ってきた。
どうやら女の子は薬草を探しているらしい。薬草と聞くとやっぱりここはファンタジー世界なんだなと思い知らされる。
それにしてもあの女の子、やたらと表情が暗かったけど何かあったんだろうか。
僕が何か力になれればいいんだけど……ん? 薬草の種……?
「すみません! 薬草の種をください!」
「はいよ、1袋銅貨50枚になるぜ」
「ありがとうございます!」
僕は銅貨50枚を渡すと薬草の種の袋を受け取り、市場の外に向かってとぼとぼと歩いて行った女の子を追いかけた。
「突然すみません! さっき薬草を探していた方ですか!?」
「えっ!? あ、は……はい、そうですけど……」
女の子は突然見知らぬ男に呼び止められて困惑の表情を隠せなかった。
でも、見捨ててしまったら絶対後悔する、そう思ったから話しかけたんだ。
「僕、『成長促進』のスキルが使えます。だから、もしかしたらこの薬草の種を成長させられるかもしれません」
僕はさっき買った薬草の種の袋を女の子に見せる。
すると、女の子の表情から少しだけ陰がなくなったように感じた。
「ほ、本当ですか……?」
「はい、今日鑑定をしてもらって『成長促進』のスキルを持っていると分かりました。ただ、スキルの使い方までは教えてもらえなかったので、使い方を模索しながらになると思うのですが……」
「そ、それなら私の『鑑定』のスキルと同じ使い方かもしれませんので、試してみませんか……? 私の家に畑があるので、ご案内します」
「分かりました。……ところで、どうして薬草を探していたのですか?」
「はい、それは……」
彼女の話によると、母親は道具屋をやっていて、扱っている道具の材料の採取のため町の外に出たそうだ。
母親は元冒険者という事もありその辺のモンスターには後れを取ることはないらしい。
しかし、運悪く普段では出現しないような強いモンスターに出遭ってしまい、命からがら逃げだせたものの、深手を負ってしまう。
その治療のために薬草が必要なのだが、冒険者たちが買い占めてしまってどうしても薬草が手に入らなかったとのことだ。
「となると、事は急を要しますね。薬草が作れるようにがんばります」
「はい、よろしくお願いします……」
彼女は僕に向かって深々と頭を下げる。
絶対にこの期待に応えないと……!
**********
「ここが私の家の畑になります」
彼女が指し示した畑には色とりどりの野菜が植えられており、出費を抑えるために自給自足をしていることが伺える。
「そしてこれが私が薬草の種を植えた区画になります……でも、全然育たなくて……」
彼女も薬草が買えないなら種から育てようと思ったのだろう。
しかし、見る限り芽すら出ていない。よほど育てるのが難しいのだろうか。それとも成長が著しく遅いのか。
少し不安になってきたけど、彼女にそれを悟られないように振る舞う。
「では空いている所に種を蒔いても大丈夫ですか?」
「はい、よろしくおねがいします」
僕は土を少し掘り返して種を蒔き、再び土を被せて少量の水をかける。
「さて、それじゃスキルの使い方をお願いしたいんですが……」
「えっと……魔力を送る感じで手をかざして、スキル名を心の中で唱えてみてください」
「分かりました」
僕は言われたように蒔いた種のある土に向かい手をかざした。
(……『成長促進』!)
すると、身体の中から何かが吸われていく感じがした。
そして、それと同時に土がもぞもぞと動き始め、芽が土から顔を出す。
「すごい……こんなに早く……」
女の子が驚きの声をあげる。僕も同じ気持ちだけど、芽の方に集中しなければ。
相変わらず身体から何かが吸われる感覚があるが、これは恐らく魔力を吸われていて、魔力が植物の成長を促進しているのかな……?
しばらくスキルを使い続けると、薬草はどんどん成長していき、立派な花を咲かせた。
「こ、これで大丈夫です、スキルを止めてください!」
「わ、分かりました……!」
僕は手をかざすのを止めると、一気に疲れが襲いかかってきてその場に尻もちをついてしまう。
「だ、大丈夫ですか……?」
「え、ええ……なぜか一気に疲れてしまって……」
「魔力切れが近いのかもしれませんね……すみません、無理をさせてしまったようで……」
「いえ、少し休めば大丈夫ですよ。それより早く薬草をお母さんへ……」
「ありがとうございます……すぐに戻りますから!」
女の子は薬草の葉を摘み取ると、急ぎお母さんの元へと駆け出した。
……王宮の人たちには不必要なスキルだったけど、こうやって誰かの役に立てたのなら嬉しいな。
ぐぅ。
そして気が抜けてから気づいた。さっきの串焼きをまだ食べていないことに。
薬草を使うのにも時間がかかるだろうし、疲れてここから動けないから、お行儀が悪いけどここで食べさせてもらおう……。
僕はすっかり冷え切った串焼きを頬張ると、雲一つない清々しい青空を見上げた。
もし、戦闘スキルを持っていたら彼女の母親を襲ったような、危険なモンスターと戦う事になっていただろう。
いつも命の危険に晒されるような環境より、こうやって『成長促進』スキルで植物を育て、それを売ってのんびりと生活していく方が性に合っているから、僕にとってこのスキルは当たりなのかもしれない。
まだこの世界がどんなところかは分からないけど、さっきの女の子のような困っている人たちを助けられる存在になれるといいな。
そう考えながら、暖かな陽だまりの中、目を閉じてゆったりとした時間を過ごしたのだった。