嗤うポーカーフェイス
私は一人暮らしのサラリーマン。会社から自宅への帰り道、私はいつも近所の公園を横断して近道をしている。その晩も、いつものように暗い公園を歩いていた。
すると、近所でたまに見かける子供が、公園の砂場でスコップを持って立ち尽くしている。
子供の足元には、何やら大きめの穴を埋め戻したような痕跡がある。
その横を通り過ぎようとした時、子供が私に声を掛けてきた。
「おじさん、見てた?」
見た? 何を? 闇の中に浮かぶポーカーフェイス。愛想の無い子供だ。私は聞こえないふりをしてその場を立ち去った。
翌晩、私がその公園を歩いていると、数人の警察官が公園を捜索している。何かあったのですか? ご近所さんに詳しく話を聞くと、どうやら昨晩出逢った子供の弟が行方不明らしい。親が警察に捜索願いを出したのであろう。
ピンポーン。私が自宅で休んでいると、インターホンが鳴った。カメラにはあのポーカーフェイスが映っている。
「おじさん、しゃべった?」
薄気味の悪い子供だ。「今忙しいので」ドア越しにそう返事をして、私は子供の相手をしなかった。
更に翌晩。テレビを観ていたら、なんと、あの子供の弟が死体で発見されたというニュースが流れていた。犯人は捜索中だ。
ピンポーン。
「おじさん、ニュース観た?」
怒涛のような恐怖に襲われる。「帰れ!」 私は布団に潜り込んだ。
四日目の晩。恐怖で錯乱した私は、まるで吸い寄せられるように公園に向った。砂場では、子供が私を待っていた。手にした二つスコップの片方を私に無言で放り投げる。私は憑りつかれたように子供と一緒に砂場に穴を掘り始めた。
「弟ったらね、僕のゲーム機で無断で遊んだあげく、勝手に最終までクリアしちゃうんだ。ひどいよね。死に値するよね」
「私は何も見ていない。何もしゃべっていない。本当だ、頼む。信じてくれ」
私たちは噛み合わない会話を続けながら、砂場に巨大な穴を掘り上げた。
「気になるでしょう? いい加減に質問しなよ」
しばしの静寂。私は唾をごくりと呑み込んで尋ねた。
「……この穴はいったい」
次の瞬間、漆黒の闇に子供の咆哮が轟く。
「お前が入る穴だよ!」
子供がスコップで私の額を正面から殴打する。私は後方の穴の中にどうと転倒した。
穴の上から子供が私を見ている。
私がこの世で最後に見たのはあのポーカーフェイス。
子供が砂を埋め始める。
遠のく。意識が遠のく。
ゆがむ。視界がゆがむ。
嗤う。ゆがんだポーカーフェイスが私を嗤う。