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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いちごミルク

作者: Sen

「それ、毎日飲んでるけどおいしいの?」


 屋上で昼食を取っていたら、隣に座っている黒髪の彼女がそう聞いてきた。私は手に持ったいちごミルクの紙パックを少し眺めて、半分ほどになったそれをカラカラと振った。


「普通においしいけど……どうかしたの?」

「いや、よくもまぁ毎日それで飽きないなぁって」

「そっちだって毎日コーヒーじゃん」


 私が彼女の指摘に対抗して、押し潰されたコーヒーミルクの紙パックを指した。彼女はあーと間伸びした声を出して少し考えた後こう言った。


「私のはただのカフェイン補給だし。別に美味しいから飲んでるわけじゃないよ」


 もっともなことを言っているようだけど、彼女がコーヒー好きというのは長い付き合いで知っているので言い訳にしか聞こえない。けれどそこを問い詰めてもつまらないので彼女の話題に乗ってあげることにした。


「私はおいしいから飲んでるよ」

「いくら好きでも限度あるでしょ。改めて味わってみ?そんなにおいしく感じないかもよ」


 ほう、その発想はなかった。自分の好物を改めて味わう……なかなか面白い試みかもしれない。というわけで改めていちごミルクを一口飲んでみた。ふむ……クリーミーで……いちごの風味がして……かといってしつこい味でもなく……


「普通においしい」


 なんともまぁ面白くない結果だ。彼女もあてが外れたようで、ため息をついて昼食のサンドイッチの最後の一口を食べた。ふむ、ここで会話が終わってしまうのも口惜しい。少し趣向を変えてみよう。


「飲んでみる?」

「えっ?」


 私の問いに彼女はギョッとした。そんなにおかしな質問だったろうか。


「私の好物を布教したいなーって」


 そんな感じで理由を説明しても、彼女は困惑したままだ。もうすぐ昼休みが終わってしまうので早く済ませようとおもむろに彼女にいちごミルクを突き出した。


「ほら、飲んで」

「いや、それって……」


 彼女は忙しなく綺麗な黒髪をいじっている。そんなにしちゃったら髪が台無しになっちゃうよ。しかしまぁ、何をそんなに躊躇っているのか。そんなに甘いもの苦手だっけ?


「はーやーくー。授業遅れちゃうよ」

「っ……!もう分かったわよ!」


 私の押しに負けて、彼女は勢いよくストローに噛み付いた。そんな力強くしなくていいのに。彼女はストローからいちごミルクを吸い上げて飲んでいる。それが動物の赤ちゃんにミルクをあげているみたいで、目の前の少女がいつもより可愛らしく見えた。


「かわいい」


 私の心から漏れた声を聞いて彼女は肩をピクリと震わせた。そのまま彼女はストローから口を離した。


「……甘すぎ」


 何故か顔を背けながらそう呟いた彼女は、荷物をまとめて急いで屋上から出て行った。どうやら不評だったみたいだ。好きを共有できなかったことを残念に思いつつ、ほんの少し残った甘ったるいいちごミルクを飲み干した。

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