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脇役令嬢に転生したので、原作の登場人物たちを徹底的に拝みます!〜私の幼馴染のビジュが良すぎる件についてもお話しさせて下さい〜

作者: 弥生 真

閲覧ありがとうございます!


私が転生したのは、原作で一ミリも登場する機会がない脇役令嬢。愛らしくて守ってあげたくなるような顔立ちのヒロインや、ぱっと目を引く美人な悪役令嬢とは違って、私の顔は『ザ!平凡!』を体現したようなもので。

当然、原作のストーリーに入る余地もない。攻略対象に認識される訳もない。

そんな私ができることと言えば。


――麗しい登場人物たちを遠くから拝むこと!!



―――――――――



「やばい、今日も美しすぎる……」


中庭のベンチに座るアーノルド様を見て、私は感嘆のため息をついた。

日の光を浴びて眩い程に輝く金髪に、サファイアのような瞳。あまりにも王子様すぎてつらい。いや、王子様なんだけども!

昨日学園で出された課題を徹夜でやった疲れが一気に吹き飛ぶ。やっぱりイケメンは癒しだわ。


木の影からその秀麗すぎる顔を拝んでいると、中庭に可愛らしい声が響く。


「アーノルド様!」

「リアナ」


名前を呼ばれたアーノルド様は、その顔をふわりと綻ばせた。うっ……心臓がやられる。

アーノルド様の隣に座ったのは、ヒロインであるリアナ様。2人は原作通りに結ばれたのだ。


リアナ様、今日も可愛い……あまりにも天使。顔立ちも仕草も何もかもが可愛いのだ。その可愛らしさもありつつ、結構意志が強いところもあって。ただ守ってもらうだけじゃなくて、アーノルド様にしっかり意見をするところも凄くいい。


会話は聞こえないけど、あまりにも絵になる2人を見てると自然と顔が緩む。

そうして2人の様子を眺めて暫くすると、学園の校舎の方から賑やかな声が聞こえた。


「もう知りませんわ!」

「誤解だよ、ネージュ!今のは不可抗力で……」


そっぽを向いて怒るのはネージュ様。それを必死に宥めるのがディラン様だ。

 

気の強いネージュ様は、最初アーノルド様の事が好きだった。それでヒロインであるリアナ様にきつく当たっていたけれど、今では無事仲直りして、今ではディラン様の事が気になっている。ディラン様は女遊びが激しかったけど、ネージュ様にバシッと言われたことで一目惚れしたんだっけ。


「推せる……」


あまりにも尊いカップルだ。今後の展開が楽しみすぎて夜も眠れない。

これで中庭に主要な登場人物が揃った。最高。

ネージュ様がお綺麗すぎてしんどい。ディラン様も軽薄そうに見えて一途なのが素晴らしすぎる。原作を生み出した作者様、そしてこの世界に私を転生して下さった神様に心から感謝致します……


「ビジュが良すぎる……もしかして私、今日命日?」

「何、ジュナ死んじゃうの?」

「わ!びっくりした……」


突然の声に肩を跳ねさせる。肩越しに振り返れば、幼馴染のキーランの姿があった。


「またあの人たちを見ていたんだ」

「推しだからね」

「……?押すの?何を?」

「ごめん、何でもない」


慌てて言葉を撤回する。この世界に「推しを拝む」なんて言葉はない。伝わらないのも当然だ。


「キーランは、どうしてここに?」

「ジュナの姿が見えたから」


そう言ってはにかむキーランの姿に、危うく心を持っていかれそうになる。

何故かって、あまりにも美しすぎるから。

艶々の黒髪に、アメジストのような瞳。完璧なパーツが完璧な位置に配置された、綺麗すぎる顔を持つキーランが人間から生まれたとか信じられない。アーノルド様やディラン様にも引けを取らないどころか、上回るくらいの勢いだ。……まあ、幼馴染贔屓も入っていると思うけど。それにしても美しい。ご飯三杯はいけます。


「あの人たちを見ていて楽しい?」

「もちろん!すごく幸せな気分になる。だってあんなに微笑ましい光景、他にないでしょ」

「ふーん……てっきり、アーノルド殿下かディランを横取りしたくて狙ってるのかと思ったよ」

「そんなわけ!!」


ぶんぶんと首を振った。それは神への冒涜すぎる。口に出すのも悍ましい。

そんなとんでも発言をした幼馴染は「良かった」と花の様な笑みを見せた。ええ、それは反則じゃない?今日1番癒されたかも。

恐ろしい発言を咎めようと思ったけど、この笑顔でチャラ!


「ジュナには、俺がいるもんね」


そう言って笑う幼馴染が原作の登場人物じゃないことが、今の私の最大の疑問だ。



*****



私は、実は原作は途中までしか読めていない。全て読み終える前に死んでしまったのだ。

だからこの4人がいい感じの雰囲気になってきた今、ここからの展開は私も知らない。きっと危機が訪れたりしてなんやかんやあって愛を育むんだろう。

続きを生で見れるとか最高すぎる。学園は1日たりとも休めない。



「ジュナはさ、アーノルド殿下みたいな人が好きなの?ああ、それともディランみたいな人?」


登場人物を一人で遠巻きに眺めるという私の日課に、最近はキーランも一緒だ。

遠くで目の保養、近くで目の保養。最高の癒し。そのおかげか、最近の私はお肌の調子もいい。

……ん?というかキーラン、今なんて?


「えっと……?」

「どっちの方がタイプかってこと」


じっと見つめてくる幼馴染は今日も最高に格好いい。この美しさ、独り占めしたら罰当たりそうでちょっと怖いくらいだ。


「どっちがいいか……考えたことなかったなぁ」


金髪碧眼のアーノルド様も格好いいけど、ディラン様も格好いい。あのエメラルドの瞳で5秒見つめられたら死ぬ。

だけど……


「キーランが1番だよ」


キーランは顔もいいけど、性格もいい。ちょっと寂しがり屋なところがあって、小さい頃は私の後をちょこちょことついてきていた記憶がある。でも凄く優しくて、いざとなった時には頼りになる最高の幼馴染だ。


「……!嬉しい、俺もジュナが1番だよ」


キーランは本当に嬉しそうに微笑んだ。1番だなんてお世辞だと思うけど、言われてみると嬉しいものだ。私の幼馴染、大優勝。

 

……ん?ちょっと待って、キーラン完璧すぎない?

本当に私の幼馴染の枠に収まっちゃって大丈夫?

 

「キーランは、ご令嬢に人気があるよね」

「そうかな?気にしたことないけど」

「好きな人とかいないの?」

「いるけど」

「いるの!?どんな人!?」


我が幼馴染にも遂に春が!キーランほどの人ならどんな人でも絶対上手くいくと思う。


「今、アーノルド殿下とリアナ嬢を遠巻きに眺めて嬉しそうな顔をしてる人」

「私じゃん」

「そうだけど」


不思議そうに首を傾げるキーラン。多分、幼馴染としての好きだろう。私は自他共に認める脇役で、顔も成績も何もかも平凡。私よりいい人なんてこの学園には沢山いる。

いつか幼馴染にはいい人を見つけて幸せになって欲しい。……あ、そうだ。私が探すっていうのもアリかも。いや、お節介すぎるかな。


「……これでも伝わらないか……」

「ん?キーラン、何か言った?」

「いいや、何でもない」

「えー?気になるなあ」

「あ、今あそこでディランがネージュ嬢の手を握った」

「え!!どこどこ!?」


慌てて中庭を探すと、キーランが花壇の側を指差した。

本当だ。やば、尊い。

……え、ちょっと待って。お互いのお顔が近くないですか?まさか、まさかまさか?


「〜〜〜!今見た?唇!遂に!この時が!」

「ほんと、ジュナがこの中庭にいる人の中で1番幸せそうだなぁ」


脳内シャッターを切る私に、キーランは呆れたようにため息をつくのだった。



*****



そんな日々が続いたある日のこと。

私は資料を探しに図書室を訪れていた。そろそろ学園も卒業まであと一年。卒業論文の作成の為、生徒はこの時期にこぞって図書室にやってくるので、思いの外、人が多い。


本棚を一段一段丁寧に覗き込んでいると、よさそうな資料を見つけた。

それは1番上の段にある。爪先立ちになり必死に手を伸ばすも、届かない。仕方ない、どっかから脚立借りて取るしかないな。

と、すっと横から手が伸びて。


「これかな?君が取りたかったの」


え。まさか、この麗しいテノールボイスは。

恐る恐る顔を上げると、そこには本を手に取ったアーノルド様がいた。


「……っ」


お顔が、近い!

今まで遠くで見てたけど、近くで見てもやっぱり格好よすぎる。てか私が話して大丈夫?リアナ様に失礼じゃないかな?でも、せっかくの機会、推しを限界まで眺めたい!

国宝級の顔面を凝視していると、アーノルド様は困ったように微笑む。


「えっと……この本じゃなかったかな?」

「あ、そうですね……その本の隣にあるやつが、取りたくて」


やばい、図々しかったかな。失礼じゃないかな?でも、お目当ての本はまだ本棚だし……

アーノルド様と会話している事実が、私の思考を益々混乱させていく。


「間違えてたか、ごめんね」と言ってアーノルド様の手がもう一度本棚に伸びかけた、その時。


「はい、ジュナ」


すっと本棚を取り、私の手に握らせてきたのはキーランだった。艶やかな黒髪がさらりと揺れる。細められたアメジストの瞳は鋭くアーノルド様を射抜いた。

アーノルド様はキーランの登場に明らかに狼狽えているようで、少し瞳を泳がせた。


「お久しぶりです、殿下」

「……ああ、キーランも元気そうだな」


2人の間には、微妙な空気が漂っている。

先に口を開いたのはキーランだった。


「彼女にだけは手を出さないで下さい。殿下は()()()()()正妻の子として生まれ、地位も権力も恋人も何もかも手に入れたんですから、もう充分でしょう?」


そう吐き捨て、唇を吊り上げて冷笑を浮かべるキーランは私の手を取る。「行こ、ジュナ」と言い手を引くキーランの手は驚くほど冷たい。

半ば引き摺られながらその場を後にする際、礼儀としてアーノルド様にぺこりとお辞儀をした。それを見たキーランは私の手をさらに強く握る。ちょっと痛い。


キーランはそのまま私の手を引いて図書室を出て、廊下をズンズンと進んでいく。着いたのはいつしかの中庭だった。

キーランが足を止めたのと同時に、私はばっと頭を下げた。


「ごめんなさい」


謝らなきゃいけなかった。冷静になった思考が、今の状況がどれだけ悪いかを知らせていた。


「キーランの事、気遣わなきゃいけなかったのに」


キーランは、表向きは伯爵令息だが、本当は王家の血を引く王族だ。

現国王と使用人との間に生まれた子供。王家は不貞の子であるキーランを伯爵家に内密に養子に出した。その事実を知る人は非常に少ない。私やアーノルド様はその内の1人だった。


「いや、いいよ。殿下にはああして言ったけど、俺自身はなんとも思ってないから」

「でも!」

「本当に気にしてないよ。そりゃ、小さい頃は気にしてたけど。それこそ、心を閉ざしてた俺に、温かい言葉をかけてくれたのはジュナでしょ?」


キーランは微笑み、私の頰に手を伸ばした。ぴたりとくっつけられた手は、さっきと違って温かい。


「嫉妬したんだよ」

「……えっと?」

「全然分からないって顔してるなぁ」


キーランは溜息をつく。その頰はほんのり色づいていて。細められた瞳がなんとも艶やかで、心臓がとくんと音を立てた。


「ジュナが好き」

「うん」

「愛してる」

「あ、あ、あい……!?」


え、待って待って?

『愛してる』?聞き間違い……ではないよね。ちゃんと聞こえたし。


「私以外に人いるかなーってキョロキョロするのも可愛いけど、残念ながらここに令嬢はジュナだけだよ」


思考が追いつかない。キーランが、私を愛してる?


「……良かった。ちょっとは意識してくれてるみたいで」


するりと頬を撫でられる。触れたところがちょっと熱い。鏡で見なくても分かる。多分、今の私は頬が真っ赤だ。


「ジュナは?俺のこと好き?」

「……えっと……」

「愛してる?」

「……分からない」


登場人物たちや、最高に格好いい幼馴染を眺めて満足するばっかりで。

まさかそんな素敵な幼馴染が、自分に好意を向けてくれるなんて思ってもみなかった。けれど、一つ言えるのは。


「ちょっと戸惑ったけど、それ以上に……嬉しかった」

「……そっか」


一歩前進かな、なんて嬉々として笑うキーランは、やっぱり1番格好よくて。この「格好いいな」って思う気持ちと愛が結びついているかは分からないけど。


「あ、ほらジュナ、見て。あそこにネージュ嬢がいるよ」

「え!どこ!?」

「ほら、あのベンチに座ってるでしょ」

「!ネージュ様は今日も美しすぎる……」


そうして普段通りを演じてみせるけど、未だにキーランに触れられたところが熱いし、キーランの目をまともに見れないままで。

少なくとも今日は、原作の登場人物をいつも通りに眺められなそうだ、なんて思うのだった。




―――原作で悪役に堕ち、ラスボスとなるキーランを救ったことを、ジュナは知る由もない。



ここまで読んで下さりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかのモブ、実は世界を救ってた…! でも、案外、救国の勇士ってそんなものなのかもしれないですね。 推しを推してる時は恋をする余裕もなかったり、なんか疲れてる時が多いけれど、自分が恋してる時…
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