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素敵な殿方を2人も独占している

 狂った高笑いが頭に響くが、なんだか、それすらも心地よく感じてくる。

 炎が爆ぜる音を背景に、歪んだ笑みを浮かべる二人が私の下へとやってきた。崩れ去ったスケルトンの死体と、肩で息をしている私の姿を見てだいたいの状況を理解すると、腰に引っ掛けたポーチから回復薬を取り出す。


「生きてるか、霞一花」

「たぶんね。けど、もうすぐ死ぬわ」

「冗談が言えるのなら余裕そうですね。ミニアラクネ、討伐終わりましたよ」


 焼夷弾と火属性のドーピング剤で辺り一面を燃やし尽くし、害虫駆除のようにミニアラクネたちを討伐したようだ。ただ、射出された糸のせいで炎が予想より燃え広がっているが……。


「で、どうして空噛の左腕は黒焦げなの?」

「私がクロスボウで撃った焼夷弾に自ら手を差し出したんです」

「いや、このままだと順調に終わりそうだったから、1匹ぐらいは自分で殺したいなと思って」


 さゆりが言うには、炎の中で暴れまわるミニアラクネめがけて単身突っ込んでいったらしい。それはもう、ドン引きしてしまうような満面の笑みで。

 ……ペナルティを喰らっても危険依存(スリルジャンキー)は治らなかったようだ。


 ある程度ミニアラクネも片づけを済ませたし、あとは壁際や岩陰に仕掛けられた監視カメラを軽く拭いていけば扉の鍵も開いて帰れるようになるだろう。リタイアが許されないペナルティミッションとはいえ、討伐目標を済ませて、あまつさえ掃除まですれば、さすがに認められるはずだ。


「バトラー? ミニアラクネ、倒し終わったよ~?」

「無駄だ。ドラマティック・エデンの監視カメラは音を拾わない。音波系の精神操作を避けるためにな」


 音が聞こえないとなると不便ではないだろうか?

 それに、どこにでもあるような監視カメラで―事実、空噛商事が販売している製品―エデンの異常を察知なんてできるとは思えない。


「普通に考えれば、カメラ以外にも特殊な検知方法があるのでしょう。そしてそれを、ドラマティック・エデンが秘匿にしている」

「大正解だ。お前も勘がいいのか?」

「だとすれば、たぶん隠しているのは兵器じゃないかな。エデンの生物相手に私達だけじゃ戦力として弱いもんね」

「ずいぶんと頭が回るようで……。その(ランク)で自力で気付くのは特殊例だろ……」


 ()()()()()()()というのが、どういったものなのかはさすがの空噛も知らないらしい。少なくとも、エデンの技術を利用したものであるとは思う。


 ラヴィーヌ谷は1本道であり、ここから扉までの間に接敵はなかった。つまり、帰り道は安全であるということ。本来ならば警戒すべき背後からの奇襲(バックアタック)も、サイコパス2人が炎で道を塞いできてくれたおかげで、無警戒で帰れる。


 無傷のさゆりと自傷ダメージのみの空噛はともかく、私はアーマーが壊れていて、回復薬も使ってしまっている。これ以上の戦闘が無いのは純粋に嬉しい。

 退屈そうに前髪を弄るさゆりにはため息をつかざるを得なかった。


「さて、扉の前に着いたな」

「焦らさないでよ。早く開けて戻ろう……」


 ガチャリ。


 ドアノブは回った。鍵は掛かっていない。ミニアラクネ5体の討伐をバトラーたちが確認して扉を開けたらしい。これでペナルティミッションはクリアだ。


「よかったー!!」

「なにもよくありませんよ。今回は全て無報酬ですから。アイテムの消費がある分、損をしています」


 傷の手当代や壊れたアーマーの修理代。

 私が無駄打ちしたキャノンの弾や、クロスボウのメンテナンス、ナイフの刃零れ防止の処理。数え始めたらきりがないほどの金がかかっている。


 今回は、一切の補填がない。完全な大赤字だ。


「いやはや、おめでとうございます。皆様なら必ずクリアできると信じておりましたよ!!」


 パチパチと手を鳴らし、薄気味悪い笑顔を浮かべながらバトラーがやってくる。

 後ろに控えているウエイターたちが真っ黒の燕尾服だが、バトラーだけが、金のラメ装飾を施した純白のスーツ姿に、爽やかなナチュラルマッシュであり、No1ホストのコスプレをしているようだった。


「信じていた? 何かの冗談か嫌みにしか聞こえないぞ」

「いえいえ、滅相もございません。死体の処理は面倒ですので、手間が省けてラッキーだと思っています。それに、今後の期待もできますしね」


 含みのある笑み。

 大げさな身振り手振りを加えて、モニターを表示すると私たちの名前が大きく映る。済と書かれた丸いハンコが画面に浮かび上がると、パーティー会場から祝福のファンファーレが響いた。


 私達相手にずいぶんな歓迎だと疑っていると、バトラーの目が2階の観客席に向いているのに気づく。

 どうやら、私たちのペナルティミッションですらドラマティックに彩り、悪趣味な連中に向けた娯楽とされていたらしい。


 ――()()()()()って言うのは、そういう意味か……。


 ()でふんぞり返る連中に、さゆりが冷たい目を向けた。唇から血が零れるほどに強く噛みしめて、自分を抑えているようだが、かすかに手が震えている。

 一歩間違えれば、彼女はあそこにいる連中のオモチャになっていたのだ。

 それを考えて怒りを抑えきれないのだろう。


「さて、まだ帰ってきていないパーティーがありまして、よろしければ見ていきます?」

「それが私たちと何の関係が……?」

「シスター様、ゴリアテ様、ヴァルカン様でございます」


 聞きなじみのある名前に体が跳ねる。私の友人という立場でもあるが、それ以上に空噛との因縁が深い三人組だ。

 とくにシスターは、空噛のお姉さんの力を奪ったかもしれない疑惑がある。

 真実が定かではないとはいえ、唯一の手掛かりであり、空噛が殺したがっている相手だ。


「ほら、噂をすれば帰ってきたようですよ」


 向こう側の扉が開くと、神々しい光と共にシスターが現れる。

 流れるようなブロンドの髪、死神の力を示す金色の瞳は微かに涙にぬれており、黒と白の混ざった修道服にはべったりと血が付いていた。


「嵐龍・テンペストの討伐終わりましたよ」

「ええ、お待ちしておりました、シスター様!! おめでとうございます」


 大げさに頭を下げてへらへらと笑う。シスターが軽く涙を拭うと、ゴリアテたちと共にテーブルに着いた。バトラーが報酬金を用意するのを待っているらしい。


「一花さん、アレは!?」


 さゆりがいつになく興奮した様子で話しかけてくる。

 それにたして、空噛がまっすぐシスターを見据えながら声低く答えた。


「アレが暗殺対象のシスターだ。修道服に大鎌を背負った女だ」

「そうではなくて!! あの筋肉質な2人の殿方は!?」


 殿方って……。


「ゴリアテとヴァルカンのこと? シスターの義兄だよ」

「……それはつまり、あの女は素敵な殿方を2人も独占しているということですか!?」

「へ……?」


 興奮した様子でまくしたてるさゆりに対し、驚きが隠せない。

 雪のような色白の肌は紅潮しており、まさに恋する乙女と形容するのが正しいだろう。


「とても憎たらし……いえ、羨ましいですね。素敵なお兄さんがいるようで……」


 その瞳は嫉妬の炎に包まれており、こうも感情をむき出しにするさゆりは初めて見た。少なくとも、普段の学校生活では冷静な性格で、めったに声を荒げることすらなかった。

 ドラマティック・エデンに来てから、サイコパスになったり筋肉フェチに目覚めたり大忙しだ。


「……あ、一回だけあったか。ボクシングの世界大会が全国中継されてた時!!」


 去年の秋ごろ、有名な選手同士の戦いで少し盛り上がっていた時期があった。その時は、毎日のようにボクサーの魅力について熱く語っていた。

 逆に言えば、それ以外では熱くなることなんてほとんどなかったのだ。


「やはり男性は、筋肉質の方が良いですね。ブタみたいに醜く肥えた男や、口ばかりの頭でっかちモヤシ男は人じゃありません!!」

「どう考えても言いすぎだと思うよ!? 男の魅力って他にもあると思うな……」


 さゆりの的外れな主張に、思わず空噛も笑いだした。

 先ほどまで鋭い視線でシスターを睨んでいたのが嘘のように口を開けて笑うと、髪をかき上げ直し、さゆりに冗談めかして問いかける。


「どうだ、俺に協力する気になったか?」

「ええ、俄然やる気が湧いてきました」


 実に嫌なやる気の出し方だが、空噛的にはそれで満足らしい。

 まぁ、当人が納得しているならいいのだろう……。いや、いいのか!?




 場所は変わり、空噛商事本社の社長室にて。

 ホスト風の白スーツから、ぴっしりとしたお堅いスーツに着替えたバトラーが数枚の書類を持って、空噛商事社長、空噛定への定期報告に来ていた。

 もちろん、スーツの色が白であることに変わりはない。


 小動物を射殺すような鋭い目つきをした壮年の男は無表情でバトラーの報告を聞く。


「……纏めますと、収集・買取したアイテムの予想利益は30億、死者数が7名。そして、エデンギャンブルによる利潤が130億となっております」

「ふむ、すこしギャンブルの収益が大きいが……おおむねいつも通りだな。他に報告事項が無ければ下がっていいぞ」

「はい。それでは失礼したします」


 険しい表情で伝える定に最敬礼。

 ロボットのようにカクカクとしたぎこちない動きで社長室を出て行こうとして、何かを思い出したかのように振り返った。


「そういえば、ご子息……K様がペナルティミッションをクリアしましたよ。ONEとリリィの格性も促してくれました。実にドラマティックです」

「……私に息子は居ない。アレは単なる駒だ」


 鋭利に研ぎ澄まされた眼光がバトラーを硬直させる。

 目の前にいるのはただの人間であるはずなのに、まるで飛竜と対峙した時のような恐怖を感じた。


空噛(そらかみ)の一族は選ばれた人間だ。私の父、(かい)は未来を見通す能力を持っているし、私は運命を見通せる。そして私の娘、(とうと)は死を見ることができる。だが、アイツには何もない。アレを同じ空噛の人間としてみるな。単なる書類上の関係に過ぎない」


 鈍く低い声。

 殺気と威圧感がたっぷりと籠った言葉にバトラーは頷くことしかできなかった。


さゆりがつかう焼夷弾は、火炎弾と違って、燃やすことに重きを置いています。何が違うかと言えば、原料となるモンスターの魔石が違います。

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