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集中しろ‼︎

「死神と遊ぼうぜ。ゴミクズ共」


 へらへらとした様子でスライムに突進すると、半透明の液体の中に浮かんだ魔石を両断する。


 あたりに液体が飛び散る。

 けれど水音は止まず、スライムの数は増すばかりだ。


「クリムゾンスライムか……。ちょっとヤバいな」


 通常の個体に比べて、酸性は弱まったものの、この劣悪な環境で火属性を獲得した特殊なスライムだ。怪しい紫色に輝く魔石の周囲は、燃え盛るように真っ赤な液体で満たされており、熱を帯びている。

 まだ少し距離があるというのに、十分に熱気は伝わってきていた。


 私のハンドガンが自分に向けられているのに気づくと、クリムゾンスライムは口内にエネルギーをチャージし始めた。


 通常個体とは違って、熱された液体を放出する技だ。


「今から避けるのは危険すぎる。だったら……‼︎」


 即座に弾倉を取り替えて、水の魔石を加工して作った水流弾(アクアバレット)をリロードする。

 単純な三すくみ。けれど、もとより当てるつもりはない。むしろ、私の腕では攻撃を防げるようなクリティカルヒットは難しいだろう。


「お姉ちゃん舐めんな。私だって、必死にやってるわよ」


 大きい目的のために覚悟を決めている二人に対しての、言葉にできない負い目のようなものを込めて引き金を引く。


 一瞬生まれた水の壁は、クリムゾンスライムの熱と視界を奪い、死神が切迫する隙を作った。

 真横から殴り抜けるようにナイフを振るう。


 仲間が殺された音を聞きつけて、奇妙な汚水たちが集まってくる。

 すでに臨戦態勢に入っているようで、それぞれ酸の塊や熱を帯びた液体を構えている。


 汚水の水溜りから柱が立ち昇り、一斉に射出される。


「いいね、ゴミクズども」


 それらを一身に受けると、痛みと快楽で身悶えして笑う。

 誰からも望まれない自罰を繰り返していると、不意に左腕を掲げた。約1ヶ月半もの間、彼の狂気を隣で眺めていた私には、その意味がわかってしまう。


 思わずため息をつくと、火炎弾(フレイムバレット)に取り替えたハンドガンを構える。


「ブレるから動かないでね」

「死神と燃えてみるか⁉︎」


 放った弾丸は空噛の左腕に直撃し炎をあげる。

 ごうごうと燃えるそれを纏ってスライムに叩きつけると、甲高い声で笑う。


 彼は、楽しんでいるのだ。死の瀬戸際で、わざわざ自分から危険に飛び込んでいく自分に酔っているのだ。エデンに身を置く中で狂ってしまったのだ。

 純粋さのかけらもない、濁った金瞳。さらにモンスターを呼び込むように大声をあげた。


「さぁ、もっとだ。ゲームはまだ始まったばかり、もっと楽しませろ。そして、俺を殺せ、ゴミクズ」


「すみません、この辺りには鉱石が無いようなので移動します‼︎」


 やってきたモンスターたちを迎え討とうと構えるが、背後からの呼びかけによって足が止まる。後ろを振り返る空噛ががっかりした表情を浮かべるが、本題はさゆりの護衛だ。

 彼女が移動すると言うのなら、私たちも合わせなくてはならない。


 未練がましく、モンスターたちを指差す空噛を引っ張って掘り抜いた岩壁の奥へと進む。

 エデンの地層は魔力の影響もあってめちゃくちゃになっているようで、様々な金属鉱石が織り混ざっていた。もちろんその中には、鉛や錫など危険な鉱石もある。


 興味がないので、詳しくはないが、少なくとも剥き出しの状態で岩場にあるような金属ではないはずだが?


「これが金属なのか? ただの変色した石にしか見えないんだが」

「ええ、金属を内包している岩石のようです。これを加工して金属として使えるようにするんですよ」


 私たちと違って頭のいいさゆりは知っていたようだ。

 多分、この岩石を精錬とかをするのだろう。興味はないが、そのくらいは知っている。


「この機械では、最低限の不純物を取り除いてくれるようです」


 ちょっと削れていびつな形になった岩石は、さゆりが背負っているバッグに入れている。

 アーマーと同じく特殊な作り方をしているため重さを軽減できる。


「ちょっと待て。なんか聞こえるな」

「採掘音じゃなくて? あ、本当だ。これって」


「さっきのモンスターども、わざわざ追ってきやがったのか‼︎」


 危険な状況だと言うのに、空噛の声は弾んでいる。

 正直わかりきっていたことだが、この男は、どうしようもないロクデナシの自殺志願者のようだ。金の為だと言い聞かせて恐怖を消しとばす。


「さゆり、焦らなくていいから。しっかりね」

「一花さんこそ、無理はしないでください。同じ穴の(むじな)同士、上手くやりましょう」


 どこか含みのある言い方にゾクリとしながらも、空噛の後ろを走る。

 私とさゆりが同じ? 家族を守ろうとしている私と、家族を憎んでいるさゆり。全く違うじゃないか。


「霞一花、集中しろ‼︎」


 ボーッと走っていると、目の前でアントルの剣が振り下ろされた。

 なんとか腕で防いだが、アーマーに裂傷が入る。

 すぐ目の前には、ギチギチと牙を打ち鳴らすアントル。


小手先だけの銃(ミニマムピストル)、ブッ飛べ」


 私の指先を覆う茶色の軍手の先端から、小さな弾丸が飛び出す。人差し指につけられた濃縮エネルギーを弾丸として射出する特性の銃だ。

 一発撃てば衝撃で指の骨が折れる。弾丸もその指からは出なくなる為、リスクばかりが大きい必死の一撃だ。


「クッソ、ここで使うなんて」

「大丈夫か。一応回復薬を飲んでおけ」

「ありがとう。ちょっと下がるね」


 緑の液体を口に含むと、だんだん指先が痺れ始めてくる。

 衝撃で折れた骨は正しい形へと戻って、鎮痛作用が働いて痛みが薄まっていく。


「俺に会いにきたのか? ご苦労なことだな。死神の歓待を見せてやるよ」


 不敵な笑みを浮かべる空噛に、アントルたちは叫び声で威嚇する。


 地面を蹴って一気に走り出し、自分の体躯と同じほどのアントルの首にナイフを振るう。

 甲殻の隙間を狙って攻撃を繰り出したが、咄嗟のところで阻まれた。

 アーマーの素材になるほど硬い甲殻は、傷一つつかなかった。


「モンスタードーピン……ガハァ‼︎」


 自分の左腕に注射器を差し込もうとするが、足元からのアントルの突進によってバランスを崩した。倒れた空噛に対して、いくつもの槍が突かれる。


「キャノン‼︎」


 背中の砲台を構えてアントルたちの頭上に炸裂させる。

 爆炎と轟音が鉱山を揺らす。


「キシャァァ」

「コールスネーク……‼︎」


 アントルたちを押しつぶした岩石の隙間から、真っ黒な蛇が飛び出す。

 石炭を餌として、全身に煤をまとった赤目の蛇。

 鋭く尖った牙は、炭で汚れており、噛まれれば血管の中に煤が入ることになる。まさしく、鉱山の猛毒を直接打ち込まれているようなものだろう。


「距離を取っても油断できない。飛びかかりが一番の攻撃……」

「ああ、クソッタレ。あんなゴミクズ、俺だけでもなんとか出来たよ」


 瓦礫の中から這いずるようにして現れた空噛は、実に愉快そうに笑っていた。


 リスクや危険、死の間際すら楽しむ彼ならば、突然砲撃が始まって岩石の雨が振ろうとも喜んで生き延びると信じていた。むしろ、彼を興奮させたのか、複数のドーピング剤を打って準備万端のようだ。


「こっちを見ろよ。ほら、噛みついてみてくれ」


 片腕だけアーマーを脱いでいて、コールスネークの前に見せびらかしている。


 警戒しているのか、舌をチロチロ覗かせるばかりで、飛び掛かろうとはしていない。けれどせっかくだから、遊ばせてあげたほうがいいだろう。


「空噛、撃つよ」

「は?」


 私に背を向ける蛇の尻尾を撃つと、驚いた拍子に空噛の腕目掛けてかぶりつく。

 期せずして目の前にスリルの塊が飛び込んできたことに驚くが、コールスネークの鋭い牙を見つめて目を輝かせる。笑顔のまま苦痛の声を漏らすと、かまれた腕から風が巻き起こった。


「切り裂け、風死神の左腕(ウィンドハンド)


 空噛の腕から発生した風の刃はコールスネークの体をズタズタにした。

 そのまま流れるように壁へ叩きつけ。


「面白いことするじゃねぇか‼︎」


 感激しながら、頭上から降り注いだスライムにナイフを突き立てる。

 ボコボコに開いた鉱山路からは溢れるほどにモンスターが押し寄せてきている。多分、場所を移動したときについてきた数よりも多い。


 アントルの槍を躱して、ハンドガンを向ける。ガンと鈍い音が響いたが、甲殻がほんの少しヘコんだ程度だった。

 巨大なありを目の前に立ちすくむが、家族の顔が浮かんだ。


「お姉ちゃん舐めんなよ……」


 何度目か分からぬただの意地で自分を奮い立たせる。

 エデンで金を稼ぎたかったら、私も狂うしかない。狂わなければ、死ぬだけだ。あの人(山田さん)のように。


「家族のためにも、私は死ねないのよ」


 アントルの牙を撃ち抜くと、かすかに動揺が見える。

 叫び声に怯まぬように叫びかえしながら、連続で引き金を引く。

 弾倉が空になった瞬間には2丁目のハンドガンを構えていた。


「甲殻ブチ破ってやる‼︎」


 フルオート式のハンドガン。

 反動が大きく、強化した肉体でも制御しきれない。


 両方を撃ち切った事に気づくと、アントルは叫び声をあげて槍を構える。

 左腕に突き刺さって血がこぼれたが、あくまで不敵な笑みは崩さずに切迫。狙うべきは、首元の隙間。


「ハンドキャノン」


 BANG


 アントルの頭は面白いように吹っ飛んでいき、あたりに昆虫の臭いが漂った。

 安堵するのもつかの間、私の首元にはコールスネークが噛み付く。

 力技で引き剥がしたが、首の肉がえぐられた。


 痛みと怒りで意識が朦朧としながらも、手早くリロードを済ませて狙うこともなく撃つ。


火炎弾(フレイムバレット)

「バカ、それはマズイ」


 何も考えずに、距離を取るためだけに撃った弾丸は、コールスネークの煤を燃やし始めた。直後に大爆炎を引き起こし、鉱山の中が火の海へと変わる。


 コールスネークの魔力に反応して、炎のエネルギーが高まりすぎたせいだ。


「クッソ。完全に分断された。そっちにモンスターは居るか?」

「ごめん空噛。コールスネークが何体か残ってる」

「一花さん、大丈夫ですか?」


 モンスターと近すぎた空噛は、炎の向こう側に行ってしまったようだ。

 採掘マシンを止めたさゆりのバックから回復薬をもらい、口に含む。傷がだんだんとふさがっていくにつれて、自分の軽率な判断を呪った。


 コールスネークは石炭を餌にしているが、本質は魔石を持った生物。

 火炎弾(フレイムバレット)は実際に火を放っているわけではなく、炎の魔力が詰まっているだけにすぎない。つまり、ただ石炭に火を点けたよりも強く燃え盛るのだ。


 さゆりに飛び掛かろうとするコールスネークを踏み潰す。

 炎と岩壁の狭間から、突如として影が立ち上がった。

エデンでは常識的な地質は通用しません。

資源はほぼ無限と言えるほどにありますが、分布は偏っていたり均一だったりぐちゃぐちゃです。それもこれもすべて魔力と言う異質な力のせいですね。

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