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ただの護衛で500万円

 あれから数日後、私たちはドラマティック・エデンから(ランク)アップの連絡を受けた。ディストピアメンバーの情報料である2億円も振り込まれていた。が、その程度の金では目標とは程遠い。


「空噛、今日はどうするの?」

「☆2になると、ドラマティック・エデンから金払いのいい仕事を任せてもらえるようになる。たとえば、ただの護衛で500万円とかな」

「500……!? なんでそんなに?」


 依頼の内容は、プレーヌ平野に生息するデスピュアクロウの討伐……ではなく、それを現地で観戦している空噛商事(そらかみしょうじ)重役とイタリアの外交官の護衛。

 参加可能人数は15人までであり、複数のパーティが参加する前提のミッションだ。


「まだ参加表明は出してないが、急いだ方が良いだろうな」

「べつにその依頼を受けてもいいとは思うけど、どうして急ぐの?」


 空噛に尋ねると、タブレットに表示された参加者数がいっきに10人まで跳ね上がった。残りの枠は5人。

 急な出来事に驚いていると、空噛は離れたテーブルに座るパーティに目を向ける。


 彼の視線の先には、大所帯で複数のテーブルを占拠する軍団。若い男から、無表情の者、屈強で背の高い青年もいれば、役に立たなそうな主婦も座っている。

 ただ人を集めただけの雑多なパーティではあるが、全員が全員、共通して首元にハートのイレズミが描かれている。大きさも、一見バラバラに見えて、首の長さから計算されたもののようだ。


 そして、彼らの取りまとめ役の女は、ハートのベネチアンマスクを着けて、扇を広げて口元を隠していた。

 まるでこれから仮面舞踏会にでもいくのではと思う程、派手なドレス。まるっきり背中が見えてしまっているが、あれもカスタムを加えたアーマーなのだろう。おそらく、私たちが着けているものよりも防御力は高いものだ。


「パーティとしては☆6程度。ここ半年で頭角を現してきた女、インペラトリーチェだ」

「この10人の参加者があの人たちってこと?」

「そういうことだ。こういう、金払いのいい仕事はアイツらが根こそぎ持っていっちまう。というわけで、もう申し込むぞ?」


 彼の目配せに頷いて答えると、参加申し込み完了のメッセージと共にミッション内容を表示していた画面がブラックアウトして、人数上限の表記に変わった。


 あらたに送られてきたメッセージには依頼の詳細が書かれている。お偉いさんの目的であるデスピュアクロウは☆3の依頼であり、私たちはあくまで護衛と雑魚処理。

 プレーヌ平野は☆1からでも行けるが、内容が内容だけに他のチームとの連携が重要になりそうだ。


「こういうのはたいてい、連絡役が必要になる。霞一花、行けるか?」

「え、私なの? 空噛が行っ……ごめん何でもない。私が行くね」

「おい、今失礼なこと考えただろ」


 何も考えてない……。

 空噛が行ったら、なるべくデスピュアクロウに近づくように誘導して、あわよくばそちらに突っ込もうとするはずだ。なんてこと、考えていない。


 いちいち高圧的で思わせぶりなこと言うから、向こうの人に怒られるかも。なんてことも考えていない。


「大丈夫、お姉ちゃんに任せておきなさい」

「お前、ぶっ飛ばすぞ!!」


 こんな軽口の応酬も、いつもなら山田さんが宥めてくれるのに……。

 零れかけた涙をのみ込むと、ウエイターの案内によって応接室まで向かう。


 高級そうな黒のソファには、すでに二人の男が座っていた。


 一人は2m近いのではというほどに背の高い男。投げ出すような体勢でいるが、余計に足が長く見える。その傍らには、彼の背丈と同じぐらいの長刀が立てかけられている。

 くしゃくしゃになった煙草を咥えているが、火はついていない。私の顔と恰好を見ると、一瞬苛立ったような表情を浮かべてライターと共に胸ポケットにしまう。


「あの、気にしないんで、吸ってもいいですよ?」

「……終わったら吸うから、いい。女子供の前では吸うなと言われてるんでな」


 細長い体からは想像もできない程低い声だった。まるで地獄から響いているような声音に驚いていると、黙って立ち上がって、もう一人の男の前に座りなおした。

 真っ黒に塗られたアーマーを着ていて、映画で見たスレンダーマンのような気味の悪い格好だが、根はやさしい人のようだ。


 空いたソファに座らせてもらうと、もう一人の男が懐から名刺を取り出した。


「初めまして、私、小鳥遊(たかなし)フーズ商品開発部の大谷 晴(おおたに はる)と申します。本日はよろしくお願いしますね」

「あ、霞一花です。よろしくお願いします」


 チラリと見てみれば、背の高い男のポケットにも、同じ名刺が入っていた。

 小鳥遊フーズといえば、空噛商事の子会社だったはずだ。


 大谷さんは、いかにも若手サラリーマンといったような爽やかな黒髪の青年だ。歳はそこまでは慣れていないように見えるが、迷彩服の上からでもわかるほど筋肉質だ。

 まさしく、健康的で一般的なサラリーマンと言った風貌である。


「自分は声がデカいのでよく営業部と間違えられます。今回も、得意そうだという偏見で連絡役になりましたが、主導権を握ったりするのは苦手なのでお二人にお任せします!!」


 あまりにもはっきりとした物言いに、思わず脱力する。

 私の緊張が解けたのを見ると、彼もクシャリと笑った。そして、その首元にはハートのイレズミが刻まれている。


「インペラトリーチェ……」

「ええ、そうです。自分はトリーチェ様のパーティに入れてもらってるんです」


 彼が言うには、今回の護衛ミッションにはインペラトリーチェ自身は参加しないらしい。というのも、イタリアの外交官をデスピュアクロウ討伐観戦に誘ったのは、彼女であるため、空噛商事の重役と共に接待に回るらしい。


 雑談も適当に切り上げると、長身の男がプレーヌ平野の地図と、依頼の詳細が書かれたタブレットを取り出す。


「じゃあとりあえず、そっちの10人はここから、この辺りを警備してくれ。で、お嬢ちゃんのパーティはここ。俺たちが遊撃に回る」

「お嬢ちゃんって……。っていうか、結構範囲が広いですね?」

「そうか? 別に交代してやってもいいんだが」


 けれど、空噛が遊撃をやってもろくなことにならないだろう。あのスリルジャンキーの事だから、戦わなくていいモンスターにまで向かっていく。


「私たちも警護チームでいいです。ただ範囲はここまでにして、そちらから一人送ってもらえませんか?」

「あーどうするかな。俺は遊撃向いてねぇし、行ってもいいんだが……」

「その辺りまでこっちがカバーすればいいんじゃないかな?」


 大谷さんのおかげで話もまとまったので、応接室から出ていき、空噛の下に戻る。


「……その長身の男、名前聞いてこなかったのか?」

「あ……。忘れてた!!」


 空噛がため息をつくと、ドラマティック・エデンの会場が暗転して、舞台の上にバトラー。

 スポットライトを一身に浴びた白スーツの男が声高らかに言う。


「皆様、お揃いでしょうか? 今日は遠き国からお客様がご覧になっています。よりドラマティックなゲームをお願いしますよ」


 キザなウィンクを合図に扉の解錠音が響いた。

 ウエイターに案内されて、プレーヌ平野と繋がる扉の前に立つ。


 初めての合同ミッションということもあり少し緊張していた。けれど、隣で凶悪な笑みを浮かべて髪をかき上げる空噛を見ていると、あまりにもいつも通りすぎて緊張がほぐれる。


 ハンドガンをなぞって扉をくぐった。

☆1の時は他のチームと被って揉めないようにとドラマティック・エデンが調整してくれます。

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