メタルアーマーMr.2
右側から牙を打ち鳴らすアントルが近づいてくる。即座に銃口を向けて引き金を引いたが、少しのけぞっただけで倒しきれない。
このタイミングでの弾切れ。
「セイッ!!」
噛みつこうとするアントルの首を切り落としたのは山田さんだった。
Dr.ヴォルキヒの提案を彼に話し、依頼を受けたことを伝えると、少し悲しそうに目を伏せて、「二人の命を最優先に考えてね。君たちにも親がいるんでしょう?」と形式だけのお説教をされた。
優しく諭すような彼の声には、感謝と心苦しさが混ざっていた。
私たちの勝手なおせっかいを拒むわけでもなく、ただあるがままに受け入れることもせず、あくまで大人の姿勢を貫いたのだ。
山田さんの言葉を受けて、空噛は私たちの装備を強化しようと言い出した。中でも、格段に生存率を上げてくれるのが、メタルアーマーMr.2の入手だ。
いま私たちが来ている軍服モドキよりも、格段に防御力が高いらしい。
軍服モドキ―メタルアーマーMr.1―は普通の軍服に魔力の含んだ金属製の針金を通してショック吸収機能を上げただけのシンプルな性能であるのに対して、Mr.2はアントルの甲殻などを含ませる。
「その防御力の差は、はっきり言って桁違いだ。本当ならもっと早く買うつもりだったが。まぁ、いろいろ事情があったからな」
Mr.1の値段は20万程度だが、Mr.2は50万以上だ。
さすがの空噛も、そこまでをそろえる余力はなかったらしい。だが、自分たちでアントルの素材を集めれば、素材代が浮いてMr.1と同じぐらいの値段で買えるという。
「こっちを下取りに出せば、15万ぐらいで買えるからな」
「下取りとかいうシステムあるんだ……」
途端にドラマティック・エデンが家電量販店のように思えてきた。
「そ、それよりまた別のアントルが!!」
「壁から、スライムが這い出てきてる。キモー」
余裕ぶってお喋りをしている余裕はなさそうだ。けれど、この群れを一掃してしまえば、目標の素材は集まる。
「もうひと頑張り!! お姉ちゃん舐めんな」
「死神に祈れ。ゴミクズ共が!!」
ナイフを構えた空噛は、首筋に刺した注射器を抜いて突進する。先頭を走るアントルに刃を走らせるが、弾かれた。
アントルの特性は、硬化。特に牙の部分は他の部位よりも硬い。
「霞一花、溶かせ!!」
「アンタが邪魔で撃てないわよ」
アントルの体重が空噛にのしかかり、軽くうめき声を上げる。
この狭い洞窟は、アントル達にとって絶好の狩場だ。壁を伝って一匹のアリが空噛の背後に回っていた。
「慧くん、伏せて!!」
山田さんの声に合わせてわざと圧し潰される。
その真上を刀が通っていき、半ばほどで止められた。それ以上入っていくことも戻すことも出来ないらしい。
しかし、動きが止まれば十分。
「ごめんね。これも家族のためだから!! 粘性弾丸」
「もう一発!! これも一緒に喰らいやがれ」
硬い甲殻が酸性に変化した魔力に侵され穴が開く。そこにナイフをねじ込んで殺すと、山田さんの刀を抑える力も弱まった。
だが、背後のアントルは激昂し、持っていた槍を振り回す。
「来いよ。死神を思い知らせてやるからさァ!!」
空噛の左手から、槍が生える。
深々と突き刺さったそれを受け止めたまま、アントルに近づいていった。狂人を前にモンスターは怯えることしかできない。
「首の関節。そこは硬くなれねぇだろ?」
アントルの体液を浴びた空噛は、続々と現れるモンスターを前に舌なめずりをする。エデンの存在は、彼の本性をあらわにできる唯一の場所だった。
洞窟に反響する水音と、空噛の狂った笑い声が交錯する。
「死神に誓ってみるか?」
「一花ちゃん、まだいける?」
「行けます。けど、どこかでリロードを挟むと思うのでお願いします」
「わかった。任せて」
刀を握る手を強めた山田さんが、壁を這いまわるアントルの背を突き刺す。
アリたちの動きはたいして早くない。けど、生き物を殺すことに躊躇いのある私達では、処理しきれていないのだ。
ただの虫とは違って、人間サイズのモンスター。
その凶悪なツラと相まって、恐怖を抱くのも仕方ないだろう。
「リロード入ります!!」
軍服のポケットから替えのマガジンを取り出して装填する。
複雑な扱いではないとはいえ、手元を見てゆっくり作業ができるわけではない以上、多少手間取ってしまう。
装填した弾丸は粘性の特殊弾。
アントルの甲殻に阻まれて炸裂した弾頭から非酸性の液体が飛散して体を絡めとった。壁に貼り付けにされて身動きが取れないでいるらしい。
山田さんの気迫のこもった声と共に、アントルの頭が落ちる。
洞窟の壁がアントルの体液に染まるのも構わずに、刀を振って汚れをはらった。元剣道部だったらしいので、様になっていた。
……もう数十年も前の事らしいが。
「テープを貼るのを忘れるなよ」
「わかってる。スライムは置いていく?」
アントルの甲殻の中でも、大きなものを優先してテープを貼っていく。
小さなものでも硬さは申し分ないし、装備以外にも有効活用できそうだ。自分たちが使わずとも売り払ってしまえばいい。
「一応スライムの体液も集めておいてくれ。しばらくは、使いそうだ」
私の弾薬にはもちろん、エレメンター対策には、スライムのモンスタードーピングが手っ取り早い。そのため、必要になるのだろう。
低レベルのモンスターであれば、十分に溶かせるからだ。
必要な素材を集め終えた私たちは、ドラマティック・エデンへと帰る。
メタルアーマーはMr.5まであります。
ただし、普通の服に針金を仕込んでいるだけという前提が変わらないため、そこまで防御力は高くないです。
いちおう、モンスターの素材で強化はしてるんですがね……。




