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意外と根性あるんだな

 前回のゲームから二日後。

 私たちはまたエデンゲームへと挑戦していた。私は弟たちの給食費の支払うため、山田さんは秘薬を買うために。


「今日こそ、エレメンターを倒しに行くぞ」


 前と同じ公民館の前で、空噛商事の送迎車両を待っていると、タブレットを操作していた空噛が言った。


「エレメンターの魔石は、お前が使うハンドガンの特殊弾の素材になる。それだけじゃねぇ。俺が使ってるドーピングでも必要だからな」

「ドーピングって、いつも刺してる注射のこと?」

「ああ、モンスターの魔力特性を抽出して身体構造を変化させる薬だ」


 その薬の副作用によって、瞳の色が濁っていき、あるモンスターのドーピングを打ってからは金色のまま変わらなくなってしまったという。


「なに、あるモンスターって? もったいぶらずに教えてよ」

「……死神だよ」


 一層輝く瞳で私を見下ろして送迎車に乗り込む。そのまま腕を組んで瞳を閉じたのでこれ以上を語るつもりはないのだろう。車内で、ウエイターからドリンクを受け取ると、会話もなくドラマティック・エデンに向かった。


「あ、一花ちゃん、慧君!! 遅かったね」


 ドラマティック・エデンではすでに山田さんが準備を済ませていた。

 前回ゲームを終えた時に互いに自己紹介は済ませており、連絡先も交換してある。


「今日こそ、エレメンターっていうのを倒しに行くんでしょ? 強いのかなぁ」

「それなりに強い。属性攻撃が基本だから厄介だ」


 エレメンターは元素と魔力が融合した生物。いや、生物というべきかは怪しいが。

 炎そのものや水、風、光に闇など、魔力の最も基本的な形に沿った姿で現れるらしい。大きさは人の胴体ほどだが、魔石の場所がわかりにくいらしい。


「ようこそドラマティック・エデンへ!!」


 前のゲームのことなぞ何も覚えていないかのようにバトラーがやってくる。相変わらずの真っ白なスーツに派手な赤ネクタイ。鮮やかに輝く嫌みったらしい金髪姿の男は仰々しい動きと共にモニターを呼び出した。


「さぁ、今宵のプレイヤーはこちら!! 素晴らしい方々ですねぇ~」


 降りてきたモニターを細目で眺めると、周囲のウエイターたちが壁際へと急いで異世界への扉を開く。


「さて、Are you ready to bet? もっとドラマティックに」


 キザったらしく呟くと、一斉に扉が開かれた。

 ウエイターに案内されるまま、異世界(エデン)へと向かう。今回のステージもケイブ洞窟である。


 換気口と握りつぶされていた松明(たいまつ)はきちんと修復されていて、扉の隣ではウエイターが控えている。

 ここで起きたホブゴブリンの惨劇の痕跡など微塵も残っていない。


「エレメンターは洞窟の奥にいたはずだ。面倒なやつらに絡まれる前に急ぐぞ」

「わかった」


 タブレットに示された地図を片手に洞窟を突き進んでいくと、少しずつ周囲が温かくなってくる。岩壁もだんだん黒っぽい色へと変わっている。

 スライムやアントルを倒した時はここまで奥まではこなかった。


「空噛、向こうにいるのって……」

「間違いない。火のエレメンターだ」


 魔力を己の熱エネルギーとして取り込むことによって生きている火のエレメンター。

 確かに大きさは、私の腕より少し長い程度。

 まるで油をしみこませた丸太を燃やしているかのようだ。


「ハハハ!! 死神を味わえ」


 炎という分かりやすい刺激(スリル)に引き込まれた空噛がナイフを抜刀することもなく突進していく。


 躊躇いなく左腕を突っ込むと魔石に直接触れたらしい。


「おお、苦しいか? 今楽にしてやるよ!!」


 ポンッと軽快な破裂音が鳴って、炎の勢いが弱まる。

 空噛の手には紫色の結晶。


「呆気ねぇなー。ツマンネ」

「慧君!! あっちからも……!!」


 山田さんが指さす方向からは、エレメンターの大群がやってくる。

 炎だけではない。色とりどりの魔力が私たちを押しつぶすためにと向かって来ていた。


「イイねイイね!! やっぱりエデンはこうでなくちゃ。実に、刺激的だ!!」


 髪をかき上げ凶悪な笑みを浮かべる。

 腰のあたりに注射器を刺してドーピングを行うと、馬が野原を駆け巡るかのような無邪気さでエレメンターの群れに突っこんだ。


「慧君危ない!!」


 わざわざ自分を追い込んでいく空噛を守ろうと、山田さんは刀を携えて走る。

 アーマーのおかげで身体能力が上がっているとはいえ、装着者はすでにおじさんと呼ばれるような年齢に差し掛かっており、そこまでの増強具合はない。


 しかし、刀の間合いに入れば単純な筋力で誤魔化せる。

 技術ではなく力任せに刀を振り回すが、揺らめくエレメンターをぶった斬っていく。

 刀の重さに体勢を崩すことはありつつも、刀を離さずにいるのでそれなりに戦えているらしい。


「やるじゃねえか、山田たかし」

「子供の時はチャンバラごっこに明け暮れてましてね!!」


 風を纏ったエレメンターと向き合い銃口を向ける。不可視の風の刃が私の頬を掠めて背後のたいまつが揺れる。流れる血を拭うこともなく引き金を引いた。


「私だって、ビビって何もしないわけにはいかないの!!」


 家族のために。と口先だけならば誰でも言える。

 わざわざ命を賭けてまでここに立っているのは覚悟を決めているからだ。いまさら異形のモンスターごときに挫けはしない。


「霞一花、下がれ。前に出すぎだ」

「ごめん、ありがとう!!」


 左方から射出された光線を、私の前に立った空噛がナイフで弾く。

 放射状の明かりを綺麗に丸めたような光のエレメンターの中心から刀が飛び出す。背後から山田さんが穿ったようだ。


「大切な人のためにというのは理解できるが、焦るなよ」

「うん。大丈夫」


 自傷を繰り返す狂人のわりに、彼は周りをよく見ている。

 ただの経験の差なのだろうか?


 一瞬の思考に囚われていると、壁面から酸性の液体が伸びてくる。エレメンターに紛れて接近していたようだ。

 焦ったような空噛の声。

 私を突き飛ばすように下げさせたせいで間に合わないのだろう。


 けれど、私の頭はひどく冷静だった。

 緩慢な動きで近づくドロドロとした無生物を前にハンドガンを構える。液体が触れるか触れないかというところで、引き金を引いた。


 独特な水音が弾けて、洞窟の周囲に液体が飛び散った。

 少し肌が焼けるような感覚はあるが、ほとんどのダメージはアーマーが吸収してくれているらしい。


「ふん。お姉ちゃん舐めんな」

「お前、意外と根性あるんだな。本当に()()()で面白い」

質問コーナー

~慧くんはマゾですか?~

違います。自分で自分を傷つけるのが好きなメンヘラです。

感情が動くハードルが人より高く、退屈を感じやすい性格なだけです。

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