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土曜のアン  作者:


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2/25

02 教室のアン

それは初めてアンと出会った、

土曜日の朝のことです。


職員室で先生に頼まれ、ビビは自分の教室まで

巨大な赤色のモップを案内していました。


アンの存在を疑って止まないビビは、

同じような人が教室にいてくれることを

強く願いました。


「サクラ。なんだそいつ。すげーな。」


ビビが教室に入ると後ろにいたアンを、

アクタという男子が目をつけました。


巨大なモップに背の高いアクタも見上げていて、

ビビはホッと胸をなでおろします。


アンをおかしな存在だと認識したからです。


ビビの後ろの席に座る長身の女の子、

スーと目が合いましたが彼女は顔を机に伏せ、

アンどころかビビさえ見ようともしていません。


ビビも出来ればスーのように、

アンと関わり合いたくないと思いました。


アクタは運動神経がよく、明朗快活な性格で、

頭の回転が早いのでクラス委員にも選ばれました。


それから生まれつきの金色の髪と

青い目をしていて、教室でひときわ目立ちます。


「デカ過ぎるだろ…。」


「なんだい? 小さいの。」


売り言葉に買い言葉。


すぐににらみ合いが始まりました。

ですがアンよりも背の大きな男子は

教室にはいません。


「この色、校則違反だろー!」


「やめろ。ひっぱるな。けがれる。」


長い長いアンの赤い毛をつまんで引っ張ります。


すると隣に立ったビビが、

はしゃぐアクタの顔を

じっと見つめてこう言いました。


「あんた、ひょっとして…アンのこと好きなの?」


それは男子を黙らせる魔法の言葉です。


「ちっげーよ! チビ!」


アクタにそう言われると、

学年で一番背の低いビビは

事実であってもムキになります。


「好きで背が低いわけじゃない。

 アクタはさっさとハゲちゃえ!」


「ハゲねーし! 地毛だし!」


「はいはい、不毛な争いはそこまでー。」


言い争いの原因となったはずのアンが

ふたりの間に割って入り、

頭をワシづかみにしました。


「痛い! いだい!」


「はなせよ! デカいの。」


「静かにしないと、キスさせちゃうぞ。」


ふたりの顔を無理やり近づけさせます。


ビビは小さな身体で力を振り絞って、

アクタの顔から離れようとしますが、

非力過ぎて距離は狭まる一方です。


「やめて、セクハラ。いやだぁ…。」


「いや、オレだってッ!」


涙目になって目をつむるビビのつぶやきに、

アクタが口を開けてショックを受けたのを見て、

アンはビビの頭から手を離しました。


反動でビビは尻もち。

お尻の痛さに涙がこぼれます。


アンはアクタの頭を掴んだまま

耳元でささやきました。


「これは、わがはいからの助言である。

 好きな子に嫌われること、

 言わない方がいい。」


「バッカ! ちげーよ!」


両手でアンを突き飛ばそうとしたのですが、

アクタ自身が弾き飛ばされてしまいました。


「あやまりな。

 ビビにあやまれば、わがはいは許す。

 ビビはわかんないけど、

 あやまれない男は女に嫌われるぞ。

 学校卒業しても嫌われたまま。

 後悔するのは貴様だぞ。」


アンはなおもささやき続けると、

アクタはコイのように口をぱくぱく、

顔色を変えてあわてふためきました。


「サクラ! チビって言ってスマン。」


小さく頭を下げるアクタですが、

その頭がビビの視線より上なのが気に食わず

彼女は無言で頭をひっぱたきました。


「なにすんだよ! あやまってやったのに!」


「頭皮刺激してあげたの。育毛そくしん。」


痴話喧嘩の絶えないふたりに、

アンはもう一度頭を抑えて顔を近づけさせた。


ふたりはその場限りの謝罪を繰り返して、

ようやく解放されました。


アンがやってきた土曜日を境に、

ビビの教室での立場も、少しばかり

変わったのかもしれません。


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