4.
―あれからリュートとは2ヶ月会わなかった。
私が色々理由をつけて避けていたからだ。
一度、リュートが突然来たこともあったが、図書館に籠って会わなかった。
ただ、それからもずっと避けているわけにもいかず、数ヶ月に1度、お茶会を開催していた。
それでも私はリュートを様付けで呼び、敬語で話した。
嫌われるのは辛いが、私が主人公に勝てる気はしない。ならはじめから好かれない方がいいし、私も恋心を忘れる事ができる。
リュートも私の態度に呆れたのか何も言わなくなった。もうレティと呼ぶ事もない。
そんな関係が2年ほど続いた。
リュートは魔術学院の2年になり会う機会がさらに減っていた。
私も来年同じ学院に入る。
「どうしよう!」
「どうしようもないでしょう。観念して謝って告白すればいいでしょう。」
「それは無理!」
頭を抱える私に侍女のメアリが冷たく言い放つ。
私はリュートにあれだけの態度をとっておきながらまだリュートの事が好きなままだった。
お茶会やパーティーで顔を合わせても鉄壁の仮面で当たり障りのない事を話したりしているが、実際には事あるごとにリュートを目で追ってしまっている。
パーティーでリュートが他の令嬢と仲良くしているのを見て落ち込み、何処かの令嬢と恋仲との噂を聞くと部屋で号泣していた。恋仲の噂は何故かすぐに消えたていたが。
「いつも通り、仮面かぶれじゃいいじゃないですか。」
「だって、いくらリュート様でも王城のお茶会で私に変な態度とれないでしょう!素の状態でなんだこいつみたいな目で見られたら…」
「姫様は相変わらず小心者ですね。」
「うぅっ」
もう死ぬ。主人公に殺される前に心が死んでしまう。今だってズタボロなのに。
というか、噂は全く聞かないけど主人公にきっともう会ってるよね。婚約者がいるから誰にもバレないように会ってるのかな。内容は思い出せないのに、微笑ましく付き合う2人の姿が頭に浮かぶ。
駄目だ。
2人が好きあっているのがわかったらすぐこちらから婚約破棄して姿を消そうと思っていたのに、このままじゃ物語の通り嫌がらせとかしてしまう。
「王立行きたい。」
「駄目に決まってるでしょう。」
全然やさしくないメアリは2年程前から私付きになった侍女だ。普段から私に冷たすぎる発言をしてくるがその仕事ぶりは完璧で今も私の好きなお菓子でご機嫌をとってくれる。
本来私付きの侍女は数名いてもおかしくないが悲しい事になりたがる人がいない。
それにメアリ1人で全てまかなえてしまうので、ずっと彼女だけが私についてくれていた。
「病弱で通えない事にしよう。」
「お菓子下げますね。」
「いじわる。」
学年も違うし、勉強する為に行くのだと思っても駄目だ。身構えてないといきなり会った時、何をしでかすかわからない。
考え抜いて私が出した答えは逃げる事だった。
図書室に籠るのは私の日課になっていた。使う人が少ないので1人でいれる。少し前からついた護衛も中まで入っては来なかった。
その時に見つけてしまったのだ。
図書室は地下1階から地上2階ぐらいまでの吹き抜けで壁に沿って大量の書籍が並んでいる。その足元近くに不自然な本がある。その本の奥本棚に隠されている石に魔力を注ぐと本棚の一部に小さな扉がでてくるのだ。
見つけたのは偶然だが、発見した時は興奮した。
私は人目を盗んで隠し通路に入り、中を調べるようになった。
通路の出口は城から少しにある小さな公園ににある魔術師の石碑の裏に繋がっていた。公園と言っても木が生い茂り人が来る様には見えない。
緊急の脱出経路として使うにしては城から近すぎるし通路も人1人がやっと通れる程狭い。
「逃げ出したい私にぴったりね。」
少し離れたところにある王城を見ながらつぶやいた。
その日はそれで帰った。
それから何度か隠し通路を使って外に出たが、王城を少し眺めまた帰るを繰り返していた。
この15年、王城の中だけで生きてきたのだ。そう簡単にはいかない。
だがもう無理だ。物語は始まっているのか知らないが、このままでは私はいろんな意味で死んでしまう。
リュートのいないところへ行こう。
一国の姫が恋煩いで家出なんてふざけているが私は本気だ。
だがいきなり逃げ出してもすぐに捕まるのは分かりきっている。
私は街の暮らしを調べ、逃げ出す準備を始めた。
メアリに気付かれたら監禁されかねない。
数少ない、私に怯えた態度をとらない、昔無茶振りしまくったシェフのやメイドにお願いして変装用の服を用意してもらう。
「一応、街にも慣れておかないと。」
今まで木陰から王城を眺めることしかしてこなかったが、その前に王都も見ておきたい。
話でしか聞いたことのない、かわいい店や有名店のケーキなどメイドや令嬢から聞く話をいつも羨ましく思っていた。
普段は城で作ったものしか口にできないし。
考えるとワクワクしてきた。
ということで、練習も兼ねて一度、王都まで行ってみる事にした。