11.
通りは人でいっぱいだった。
一昨日も人が多かったが、今日はその比ではなかった。
これが収穫祭本番なんだと納得する。
「凄い人ね」
「はぐれるといけないからしっかり捕まってて」
リュートは腕を私の手に絡ませた。
腕組み⁉︎
驚いて手を離そうとするが
「ここでレティが迷子になったらフォルスター家は処罰されるよ。」
思わずぎゅっと腕にしがみついた。恥ずかしいなんて言ってられない。
脱走の前科があるので、ここで迷子になったら本当にフォルスター家が責任をとらされかねない。
「絶対、はぐれないから。」
がっちりリュートの腕を掴む。
その様子に苦笑されつつ、人混みの中に入っていく。
奥に進むにつれてまた人が増えてきた気がする。王都にこれだけの人がいるなんて驚きだ。
「メアリは大丈夫かしら」
「大丈夫、少し離れて付いてきてるよ」
後ろを振り向くが、人の波に紛れているのかメアリの姿は見えない。本当に大丈夫だろうか。少しでも手を緩めると私も人にのまれてはぐれてしまいそうだ。
少し不安になり、リュートを見上げるとリュートもそれに気づいて目があった。
眼鏡越しにみる大好きな青。
私はいつもその目を避けてきた。嫌われたくなくて、でも逃げたくて、手に入らないってわかってたから諦めてきた。
その目が今、私を見ている。
「離したらダメだよ。」
そう言って笑う。ドキドキした。でも、いつもみたいに逃げ出したい感じじゃない。胸がポカポカして自然と口の端が上がってくる。
腕を組んで街を歩く。なんだか、本当の恋人同士みたい。
「ふふっ」
「楽しい事でもあった?」
「うん。とっても!あ、あの店見たい!」
やっぱり、私はリュートの事が好きだ。嫌いにはどうしてもなれそうにない。
彼がどう思ってても、これからどうなっても、今だけはいいよね?これを思い出にしよう。
私はリュートに笑いかけた。
リュートを引っ張ってきたのは外国のアクセサリーを売るお店。おそらく東のドルセット帝国の物だろう。この国で見ない染め方をした生地が掛かっている。
もしかしたら王城に献上されてるかも。そんな事を思いながら店内を回る。独特な刺繍や染め物はずっと城に籠っていた私には新鮮だった。
「あ、これかわいい!」
それは硝子でできたビーズだった。透明な硝子玉にカラフルな装飾が施してあり、独特な文様が描かれていた。幾つかを組み合わせて自分好みのアクセサリーを作れるようになっていた。
「宝石じゃないけど?」
「宝石もいいけど、こういうのもかわいいわ」
青地に白の装飾がされたビーズを手のひらで転がして見せた。
前世の蜻蛉玉ににている。今日の服装にも合うだろう。
私はウキウキとビーズを並べた。色や模様、大きさもいろいろあるのでなかなか悩む。
他の宝飾品を見ていたリュートがたまに覗きにきたけど、気にせず、ビーズ選びに没頭した。
「出来た〜!」
たっぷり時間を使ってブレスレットを完成させた。白地を中心に青と緑の装飾が施されたビーズがならぶ。
「お疲れ様。気に入ったのが出来た?」
「ええ、自信作」
そう言って腕を見せる。出来たばかりのブレスレットが小さく揺れた。
「いいのが出来たね。」
「ええ。」
さりげなくリュートの色を入れていたのは気づいていただろう。それに関してはスルーしてくれた。
よかった。指摘されたら恥ずかしいものね。
「じゃあ次行こうか。」
さりげなく出された腕に捕まるが
―カチャ
聞きなれない音に気づく。
「これって」
見るとリュートの剣に先程にはなかった飾りが付いていた。
私の物より大きめの硝子ビーズ。色は赤地に緑の紋様で
「楽しそうだったから選んでみたんだ。レティの色は華やかで映えるね」
「リュ…」
何か言いたくて、でも言えない私ににっこり笑って答えた。
お店を出るとすぐ近くに屋台街があった。やはり外国のものが多いのだろうか。あまり嗅いだ事のないスパイシーな香りがして思わず食欲がかきたてられる。
「何かたべる?」
察してくれるのはありがたいが、そこは『食べよう』と誘って欲しい。乙女としては断りたいが、好奇心には逆らえない。
「あれ、食べたいわ」
私が指さしたのは串に刺さって焼かれている肉だった。前世の屋台で食べていたのを思い出す。ただ、リュートには意外だったのだろう。
あれ?というような視線を私に向けるが私は笑顔で頷いた。
「豪快だね」
「美味しそうじゃない。せっかくだし食べ歩きしてみたいわ」
串肉を受け取り、口をあけるがここで誤算がでた。今世でこんな食べ方をした事がないので目算を誤り口の周りにべったりタレがついてしまった。
「んー⁉︎」
「あー、やると思った。」
「何それ、失礼な!」
リュートがすぐにハンカチを出してくれたのでそれで押さえる。小さな子供みたいでかなり恥ずかしい。ちらっとリュートを見ると器用に汚す事なく食べている。リュートの方こそこんな屋台食べてるように見えないのに。納得できない。
口のまわりにつきそうになるのを悪戦苦闘しながら食べ切った。
口の周りを舐めとるなんてはしたないこと、今は出来ないからね。
「はい」
「あ、ありがと」
いつの間に買ったのか、リュートは飲み物を差し出してきた。この前のと少し違う果実水だ。すっきりする。
考えてみるとリュートはすごい気を使ってくれてる。いきなり連れ出されたが、私のやりたい事をさせてくれる。しかもそれがさりげない。
果実水を飲みながら整った横顔を見上げる。ありきたりな茶色のウィッグと眼鏡で隠しているが、その造形はため息が出るほど美しい。
そりゃモテるよね。物語でも王子様だし。
「どうしたの?」
「かっこいいなって思って」
「知ってると思ってた」
「そういうところは相変わらずね。」
さっきから女性からチラチラ見られてるの気づいてるよね?きっと。
「じゃ、次はどこ連れて行ってくれるのかしら」
周りに見せつけるようにリュートのうでを組んだ。




