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我儘魔女姫は運命に逆らいたい  作者: 片岡トム
10/59

9.

収穫祭初日


シュタートリア全土、また外国から多くの人や物が溢れ王都はその年一番のにぎわいを見せる。

もちろん王城も大勢の人が押し寄せ上から下まで大忙しになる。その筆頭の国王陛下や王太子殿下も朝から謁見やら何やらで休み暇はない。が、


「美味しい。さすがミルグ産の新茶は香りが違うわぁ」


柔らかい蜂蜜色の髪を清楚に結い上げのんびりお茶を啜るのは本来忙しいはずの王太子の婚約者、サラ様だ。

穏やかで優しいヘーゼルの瞳は外の喧騒など意に介していないようだ。


「そうですねぇ。甘い物がすすむ〜」


私もそれにのり、メアリが入れた甘くない紅茶に口をつける。


昨日の脱走の事もあり、私は部屋の中でほぼ軟禁状態だった。それを心配してサラ様は忙しい合間を縫って会いに来てくれた。おそらく、エイダンから頼まれたのだろうが。

初めはお互い気まずい空気だった。が、しばらく話すと意気投合し、2人でお茶会になっていた。来年には義姉になる人なので敬語はやめてもらった。というか王太子妃ですもんね。


「それにしてもまた壮観だわ。ジュリアス殿下にアイザック殿下、帝国のイーライ皇帝に、まぁ、魔術研究局のヒューゴ様まで?目の保養ねぇ。」


サラ様が見ているのは私宛てに送られてきた求婚の手紙に同封されていた絵姿だ。

あの後、部屋に届けられたので確認すると見事に美形揃い。リュートも美形だが、それとはまた違うタイプが並ぶとドキドキしてしまう。


「姫様は誰がお好み?」

「お好みと言われましても…素敵な方ばかりで。」

「そうねえ、誰を選んでも泣く女性は多そうね。でもやっぱり姫様はリュート様かしら?姫様、大好きですものね」

「は⁈」


心臓が止まったかと思った。いつもの癒し系な笑顔で爆弾落とさなかった?


「いつもは王女として振る舞ってるけど、お茶会でわざわざリュート様の好きな物を用意したり、さりげなくリュート様が褒めた格好したり、健気だなぁってみんな思ってたのよ。」

「さ、サラ様?えと、」


いろいろ待って。え、今、みんなって言った?健気ってどういう事?


「何かあったかはわからないけど、姫様、素直になった方がいいわよ。」

「スカーレット姫様は小心者なのでその一歩が踏み出せないのです。」

「まあ。こんな可愛いのにもったいない。」

「気が強いように見えるのは本当に見た目だけですから。」


サラ様の言葉に重傷を受けている上に、メアリが援護射撃してきている。私、今瀕死ですけど。


「ええ、強い魔力をお持ちですし、いつも毅然としてらっしゃるから私も誤解してましたけど、こんなに奥手だなんて、ふふ、学院にいる令嬢の方がよっぽど魔女だわ」

「世間一般にはヘタレと呼ぶそうです。姫様にピッタリです。」


メアリ、やっぱり怒ってるよね?謝って許してもらえるとは思ってないけど、いつもの5倍ぐらい優しくない。


「まあ!それじゃこれからそんな姫様をめぐる争奪戦が始まるのね!楽しみだわぁ。」

「サ、サラ様⁉︎」


殊更嬉しそうな声をあげるサラ様に悲鳴をあげる。

何が楽しみなの⁉︎

というか自分こそ王太子争奪戦の勝者じゃないんですか⁉︎


「ツッコミが追いかない。というか私、どんな人物になってるの⁉︎」

「どんなって」


サラ様は小首を、傾げ考えこむ。


「好きな人には素直になれない、最強魔女?かしら」

「小心者のヘタレ魔女です。」


メアリ、後で覚えておけ!というか我儘傲慢魔女ではないのね。


「もしかして、城のみんなそう思ってたりするの?」

「そうね、強い魔術が使えるから怖がってる人が多いみたいだけど、リュート様の事が好きなのはみんな知ってると思うわ。」


頭を抱える。みんなってどのレベル?城内の侍女レベル?下働きまでじゃないよね。まさか、リュートにはバレてないよね。


「これだけ見目の良い方を用意したってことはリュート様に対抗するためだと思うし、公然の事実として知れ渡ってるんじゃないかしら?」


何それ。死にたい。私の2年間の努力はどこいった?


サラ様の言葉に死にかけていると手紙が届いたと連絡がきた。


「フォルスター家からです。」


昨日兄様とメアリに怒られた後、私からお詫びの手紙を出していた。前世の事はもちろん伏せて。その返事がきたのだろうが、ずいぶん早い。


「リュート様も律儀ね。どうせパーティーで会うのに」


見慣れた手紙を開ける。

―話したいことがあるので、フォルスター家まで来ていただけませんか―


珍しい文面だった。私は基本、王城から出ることはない。出かける場合、護衛の必要もあるし付き添いの侍女も選ばなくてはならない。専属の侍がメアリしかいない私には面倒臭いのだ。

手紙ではすべてフォルスター家で準備するとのこと。迎えの馬車をよこすのでそれに乗ってきて欲しいと書いてあった。


遂にきたのね。


考えてみれば誰が見ているかわからない王城で婚約破棄なんていい出せないだろう。変な噂にならないよう、わざわざフォルスター家で伝えるつもりなのだろう。


深いため息をついて了承の手紙を出しておくようメアリに伝える。


「お誘いかしら?」

「きっと、そんな楽しいものじゃないわ。」


楽しそうなサラ様に肩をすくめ答える。


「きっとこの求婚の手紙の事はあちらの耳にも入っているわ。どんな事をしてくるかワクワクしちゃう。」


本当に楽しそうにしているサラ様には申し訳ないが、私とリュートはそんな甘い関係ではない。

苦笑いで答えた。












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