花占いなんかいらない
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き」
私には小さい頃から好きな人がいる。でも、彼がどう思っているかは知らない。
仲は悪くないと思う。でも、幼なじみだからという理由だけかもしれない。
告白してそれまでの仲が壊れたらどうしようと思うと一歩が踏み出せない。
ある春の日の高校からの帰り道、悶々とした気持ちにため息をつきながら、私は散り落ちた桜の花びらで柄にもなく花占いをしてみる。
「莉子、何してんだ?」
占いだったらいい結果なんだけどなぁ…とボーッとしていた私に背後から声をかけてきたのは、幼なじみの翔太。
私の初恋の相手だ。
「ん、花占いをちょっとね」
「無意味なことを…らしくもないな」
「どういう事よ。私の恋は叶わないとでも言いたいの?」
「そんなソメイヨシノみたいなぱっと見で花びらの数が分かる花でやっても意味ないだろ」
「ソメイヨシノだってね、木によっては4枚しか花びらのない花が咲くこともあるんだからね」
「それなら嫌いから始めれば問題ないな」
「それ、ズルじゃん」
翔太はいつもこうだ。
彼は勉強は学年でも上位、顔も中の上くらいでスタイルも悪くないんだけど、決定的に女心の機微が分からないようで、女子人気はあまりない。
でも私は彼のことが好き。
小さい頃は、しょうがないなぁと言っては宿題を一緒に解いてくれたり、私の両親が仕事で帰りの遅い日には「ウチで晩飯食べていけよ」と両親が帰ってくるまで一緒にいてくれたりと、私には優しかった。
もしかして私のことが好きなのかと思う事もある一方で、恋愛感情的な素振りは見せないので、幼なじみとしての気遣いなのだと落胆する事も多かった。
だからこそあと一歩が踏み出せないでいる。
「花占いに信憑性を持たせるなら、八重桜とかシロツメクサみたいな枚数が判別出来ない花でやるべきだな」
翔太が身も蓋もないことを言う。
「花占いに信憑性を持たせてどうすんのよ。これは気持ちの問題、ホントにアンタは女心が分かんないのね」
「そんなことねぇよ、少なくとも莉子の気持ちは分かるぜ」
「どういうことよ?」
「だって莉子が花占いをする花は、どの花びらにも『好き』しか書いてないんだ。占う必要ないだろ」
お読み頂きありがとうございました。