こいごころ
久しぶりの投稿です
朝日が昇り切っていない電車から見える空をじっと見つめる。
昨夜の熱がまだ冷めていない体を抱きしめるように、両手でスマートフォンを強く握り閉めた。
―ねえもしかして早川さん?
サークルの飲み会帰りに駅まで一人で歩いている時だった。後ろから聞き覚えのある声が耳に届き、思わず振り返える。そこに立っていた男性を見て後悔が胸を押し寄せた。ああ、振り返らなければ、無視したら良かった。それを顔に出さないように笑顔を作る。
―小西先輩ですか?お久しぶりですね!
出来るだけ高い声とテンションで言う。会いたくなかった。彼の顔をまっすぐと見ると、嬉しそうな顔があった。
―よかった!さっきあそこでサークルのメンバーに会ったからもしかしてと思って声をかけたんだ。久しぶりだな!
彼はそう言って私に近づいた。
甘い香りの香水と煙草がまじったような彼特有の香りが鼻をかすめる。それと共に大学時代の淡い恋心も胸に広がり、後悔の波が心に押し寄せた。
去年卒業したサークルの先輩。そして私の好きだった人。
会いたくなかった。
そんな心の声とは裏腹に私は先輩との話に花を咲かせ、そして近くの居酒屋に二人で入って、それから。
彼はベットの中でうずくまる私の頭を軽く撫で煙草に火をつけた。
悲しいような嬉しいようなよくわからない感情が心で暴れまわり泣きたくなった。
朝日を浴びながら電車が大きく揺れた。
ゆっくりと瞳を閉じて別れ際の彼の言葉を思い出す。
「また連絡するから。」
冷めた声色で張り付いたような笑顔だった。
この言葉のように私の想いも冷めてしまえばよかったのに。涙が零れ落ちるのを待つ。しかし涙たちは流れまいと必死のようだ。
自分の体から先輩の吸っていた煙草と香水の混じったようなにおいがふわりと香った。
まるで昨夜の行為を忘れることを許さぬようにと。