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匂わせるのはキミのせい  作者: 薪木燻
8/32

投稿その8

 真純くんとの会話は、朝の「SNSの話」だけで終わることがほとんどで、放課後までその一回だけの日もある。

 恒例の朝の会話以外は、残念ながら真純くんとではなく、女子の友達と楽しいおしゃべりをしている。

 あの~、言っておきますけど私、ボッチじゃないですよ。私にだって女子の友達ぐらいいるんですから!


 その日の休み時間も、授業が終わると同時に、いちばんの仲良しが私の席にやってきた。

「ねぇ、かおりん!昨日も「いいね」いっぱいだったね」

「花ちゃん!インスタ見てくれたんだ!ありがとう」

 花ちゃんはいつもニコニコしてて、黒目がクリクリしてて、ちっちゃくて、大好き。

「やっぱりかおりんって、スタイルいいよね~」

「みんなに見られるの、恥ずかしいんだけどね~」

 本当に見て欲しいのは一人だけなんだけど、花ちゃんも見てくれてるのは嬉しいな~。

「かおりんさんよ。それは贅沢な悩みだよ。スタイルいいから、わたしにも身長わけて欲しいぐらいだよ」

「私は花ちゃんみたいな、女子らしい、かわいい女子になりたかったなぁ」

「だったら二人を足して半分にしたら、ちょうどいいかもね~」

「そうだね」

 ……真純くんはあまり背が高い方じゃないから、私は、私の方が少し高いのがちょっと気になってるんだ。

 あんまり女の子らしさがないな~って。

 そもそも真純くんの好みのタイプを聞いたことがないから、わからないんだけどね。……でも、まだ怖くて聞けないなぁ。


 花ちゃんはいつものように、私の椅子に半分割り込むようにして座ってきた。

「相変わらず彼氏とは上手く行ってるみたいだね」

「う、うん、いい感じだよ」

「いいなぁ。羨ましいなぁ」

「ま、まぁね~」

 ――そうなんです。花ちゃんはまだ、私が本当に好きな人が誰か知らないんです。


 花ちゃんとは、高校生になってから友達になった。

 きっかけは私のインスタのフォロワーだったこと。

 それから一緒にいるようになったら楽しくなっちゃって、すごいスピードで仲良くなった。

 そんなこともあって、いつも私の「匂わせSNS」をチェックしてくれている。

「でもさ、かおりん、最近アピールすごいよね」

「えっ、そうかな?」

「インスタもツイッターも「カップル垢」みたいになってるよ」

「やっぱりそう見える?」

「うん、ラブ臭がすごいよ。わたしが焼きもち焼いちゃうぐらい」

「えっ!ホントに!?」

「うん、ジェラシー感じちゃうけど……って、どしたの急に?」

 私のテンションの上がりっぷりに花ちゃんが戸惑っている。そんな花ちゃんを見て、逆に私は安心していた。

「い、いや~普通に見たらそう見えるよね。よかった~」

「えっと……なんだかよくわかんないけど、上手く行ってるみたいでいいね。お幸せに」


 どうやら花ちゃんから見ると、私と彼氏(架空)の交際は順調らしい。傍から見るとそう見えることが確認できて良かった。

 つまりこれは、真純くんが私の恋愛に興味がないのか、真純くんが鈍感なのかの二択になったってことだ。

 この先、真純くんを攻略していくことを考えたら、後者であって欲しいんだけど、きっと実際は両者なんだろうなぁ。

 鈍感だったらまだ攻め甲斐があるけど、興味ないってところがスタート地点だと、先が遠すぎるよ。


 ――そんな絶望的な戦いでも、私はめげずに、今日も「匂わせインスタ」をアップする。


 部屋のテーブルにさりげなく花束を置いて。そこにコメントを添えて……。

「言葉もうれしいけど、花束もうれしいな。#毎日大好き」

 いつもと違って、私の姿は写さないで、花束とアロマキャンドルだけを写すことで、素敵な香りを匂わせ……って今の「匂わせ」は偶然だからね!


 【匂わせポイントその8】「言葉」も「花」もくれる彼氏から「愛」もいっぱいもらってるアピール。


 こんなに匂わせちゃったら、さすがの真純くんもジェラシー感じてくれるんじゃないかな。

 真純くんから「ボクなら言葉と花束だけじゃなくて、全てをあげるのに」なんて言われちゃったりして。

 もう!真純くんったら、全てってなんなの?……す、すご、すごすぎて想像が追いつかない!!


 翌朝、真っ先に真純くんに話しかけた。(今日もこの会話だけになるかもしれないけど)

「インスタ、アップしたの見てくれた?」

「うん、見たよ。でも、なんか昨日のインスタって、いつもと違う感じだったね」

「えっ?そう?」

 ん~?真純くんがこんなこと言うなんて珍しいぞ。何かやらかしちゃったかな?いつもみたいにちゃんと匂わせてたよね……。

「……ねぇ、ボクわかっちゃったよ」

「えっ?何?」

「昨日のコメント、彼氏さん宛てじゃないでしょ」

「えぇ!そ、そう……なの?」

「あの写真の花ってさ、花ちゃんさんにもらった花だよね。昨日花ちゃんさんがお花屋さんで花束買ってるの見たよ。きれいな花だったなぁ」

 ちょっと真純くん!「花」が多いよ!今まで「香織さん」って言った回数より、今「花」って言った回数の方が多くない?

 ……って、あれ?あれ?待って待って。もしかするとここって、重要な分岐ポイントじゃない。

 「花ちゃんからもらったことにする」か「彼氏からもらったことにする」か。

 どっちを選ぶべきか……。選択肢間違えたら大変だぞ~。うーん、うーん。

 ――よし決めた!こっちで行こう!

 「花ちゃんからもらった」ってことにしておけば「もう!真純くんったら、私だっていつも彼のことばっかりじゃないよ!」って流れになるでしょ。

 そしたら真純くんが「もしかしたらボクって、香織さんと彼氏さんのこと意識しすぎちゃってる?」な~んて自分の恋心に気付いちゃうかも。

 よし、これはいいぞ!

 ってことで、私はこう言いました。

「そうそう、そうなんだ。あれ花ちゃんからもらったんだ。カワイイでしょ」

「うん。花ちゃんさんみたいで、カワイイ花だね」

 ……なぬ?いま真純くん「花ちゃんみたいでカワイイ」って言った?

 「花ちゃんみたいでカワイイ」??

 花ちゃん、ごめん!私この先、花ちゃんのこと警戒しないといけなくなった!

 完全に選択肢間違えた!あぁ誰か、あの分岐の前からロードさせて~。


 ジェラシー度0%!匂わせ失敗!


 【反省点】思わぬライバル出現?!恋か友情かなんて選べないよ~。


 やっぱり真純くんって、私の恋にも興味ない上に、鈍感なのかな。

 あれ?でもちょっと待って。さっき真純くん「放課後に花ちゃんがお花屋さんで花束買ってるの見た」って言ったよね。

 ――『ちょっとカワイイと思ってる女の子が、放課後にお花屋さんで、カワイイ花束を買っている』

 これって画になりすぎじゃない!?私なんかよりよっぽど運命的な出会いしてるよね?

 真純くん花ちゃんと何か話したりしたのかな?そのまま一緒に帰ったとか?

 ……うぅ~、こ、これはちょっと本格的に探りを入れないとだね!メラメラ燃えてきた~!

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