第一章 プロローグ
以前短編で投稿させていただいた物を再編集し、これを一話として連載を始めたいと思います。
頑張って続けていきたいと思いますので、皆さまに読んでもらえましたら嬉しく思います。
そこは深い森の中であった。
高々とした木々がそびえ立ち、その葉や枝の間から差し込む日の光や飛び立つ鳥達、苔むした石などが幻想的な光景を生み出している。
そんな森の中で俺は
「うぎゃああああああああ!」
巨大な熊の化け物に追い掛けられていた。
上半身が毛むくじゃらで鋭い牙と発達した腕を振り回す生物を、熊と呼ぶのであればあれは間違い無く熊なのであろう。
下半身がケンタウロスを鹿にした形をしていなければ……ではあるが。
「どうしたどうした? お主が腕試しの狩りに行きたいと言い出したゆえ、連れて来たというのに逃げ回っていては狩りにはならんぞ?」
そんな事を宣いながら、俺の隣を不細工なロバに跨ってチビッ子が並走しながら煽って来る。
「いやいや! 無理無理無理! あんな化け物にどうやって勝てっていうんだよ!」
「ブヒㇶィン!」
「なんだ情けない、あの程度の獣風情にそんな様子では立派な私の従者にはなれんぞ!」
「ブフィィン!」
「どうでも良いけどその不細工ロバ本気でうるせぇ! 気が散ってしょうがないし、さっきからちょくちょく俺を蹴って囮にしようとするの止めさせてくれ!」
やろう……この駄ロバは逃げ切ったら絶対ロバ刺しにしてやる。
しかし、このまま逃げていてもいずれ追い付かれるのは目に見えているし、埒が明かないというのは明らかだ。
ここらで起死回生の一手を打たなければ、こいつ等はともかく俺はあの化け物の腹の中にコンパクト収納されてしまう。
「ちくしょう! やってやる!」
覚悟を決めた俺は戦うのに適している開けた場所に飛び込むと、追って来た熊の化け物と相対する様に位置取ると先日自ら購入し腰に差していた大ぶりのナイフを抜いて向き合った。
「うむ! それでこそ私がこちらに召喚した旅のお供だ! 男を見せろ!」
先刻とは雰囲気の変わった俺達に一応の警戒の必要を見たのか、熊の化け物は一定の距離から窺う素振りを見せた。
いや、あれは逃走を諦めた獲物を甚振りますって態度だな、なんか涎を腕で何度も拭ってグフグフ言ってるし。
そんなやたらと人間臭い仕草の熊の化け物に、俺は利き手であるところの右手に構えたナイフを翻しながら裂帛の気合と共に切り掛かった。
「うぉおおお! 唸れデュランダル!」
相手の体長はケンタウロスの熊と鹿版なだけあって俺よりかなり大きい、そんな相手に真正面から切り付けたところで効果は薄いだろう。
どころか、振り回された奴のあの太い腕が少しでも俺に触れた瞬間に不出来なお肉のオブジェの出来上がりだ。
そんな最悪の未来を回避する為に俺が取れる行動は、少しでも奴の機動力を削ぎつつあの腕が届かない安全圏から攻撃する事のみ。
すなわち、奴のその下半身を重点的に痛めつけ勝てずとも逃走する為の布石にするという完璧な作戦を実行に移す。
決して熊の部分が怖いから少しでもマシな鹿の部分を狙った訳ではない。
「危っぶね! だけど……!」
まさか獲物が自ら飛び込んで来ると思わなかったのか、多少意表を突かれた化け物が滅茶苦茶に振り回した腕を間一髪で躱すと、奴の足元潜りこみ側面から前足に向かってナイフを振り抜く。
「もらったぁ!」
こちらの世界に来てから訓練を行い、多少引き締まった体に渾身の力を込めて放った一撃は
『パカンッ』
という何とも言えない音と共に、想像以上の硬度を持つ皮膚に阻まれて相棒のデュランダルを失うという結果に終わった。
「……」
「……」
「……ブㇷ」
鼻で笑いやがったなこの駄ロバ、後で絶対ミンチにしてやる。
そんな事を考えながら、相棒を失った悲しみに暮れる暇すら与えてくれない相手の攻撃を普段の自分からは考えられない様な動きで奇跡的に避け続ける。
「ああ、これはダメかもしれんなぁ」
「ブヒン」
「せめて安らかに眠れ異界の勇者(笑)よ、お前の事は決して忘れぬ」
「ブヒㇶン」
「いや、まだ! 死んでねぇから! お前も(笑)うな!」
「なんだ、そう言いながらもまだ死んでおらぬではないか」
「ぐお死ぬ! 今まさに死んでしまう! ってか見てないで助けてくれよ! わりとピンチなんだよ!」
その丸太の様な腕を振り回しビュンビュンと冗談みたいな音をさせながら迫る熊の化け物に対し、俺の抵抗手段は既に根本から失われてしまった。
ちくしょう! 誰だよこんな不良品を買ったのは!
まあ俺なのだが。
これが俗に言う万事休すというやつだ。
「そのわりには随分と余裕そうに避けているではないか、ほれ、まだまだ逝けるであろう」
「言い方! 今の絶対別の意味含んでたよね!?」
「やはり私の特訓のおかげじゃな、泣いて感謝するが良い」
くそったれ! こいつちっとも俺の言う事を聞いてねぇ! しかも特訓してくれてるのはお前じゃないだろ!
まあ確かに、訓練のおかげで辛うじて避けられてはいるのだが。
そんなアホな事を言い合ってる間にどんどん体力が無くなっていく、このままでは本格的に不味い。
しかし……一向に変化の無い状況に焦れているのは相手も同じだったのか、突如としてその標的を俺から暢気に眺めてその場から動かない存在に変えて襲い掛かる。
「ほう? 意外と知恵が回る奴であったか」
「しまった! 早く逃げろ!」
あいつは偉そうにしているが本人に戦う力は皆無だ。
いまだ逃げる様子のない標的の元に辿り着くと、熊の化け物が大きく腕を振り上げる。
気付けば俺は咄嗟にその間に飛び出すと、振り下ろされる腕から少しでも身を護ろうと両腕で顔を庇う様にして目を閉じた。
(あぁ……凄く痛いんだろうな、それも死ぬほど)
そんな暢気な事を考えながら、来るであろう激しい衝撃に備える。
しかし、覚悟していた瞬間が一向にやって来ない事を不思議に思い、ゆっくりと目を開けると何時のまにやら俺の目の前に移動していたチビッ子が声を掛けて来た。
「ふむ……まあ、ギリギリ合格点といった所だな」
不思議に思い辺りを見渡す。
すると頭から大量の血を流し生気を失った眼で横たわる熊の化け物と、その前に灰色で艶のある髪をボブカットにして手には大きなボウガンと呼ばれる武器を携えたメイド服の若い女性が立っていた。
「た、助かったぁ」
そう心からの言葉をこぼすと、俺は全身の力が抜けてる感覚に身を任せドサッとその場で仰向けに倒れこんだ。
今回は本気で死ぬかと思った……次からはあまり迂闊な事を口にしない様にしよう。
そんな事をぼんやり考えていると、この度の元凶からありがたい言葉が降ってくる。
「今回は辛うじて合格点ではあるが、決してこれに満足せず私の従者として励むが良い」
「へいへい、ありがたいお言葉に涙が出ますよ」
「そうかそうか、そんなに嬉しいか」
「明らかな皮肉だろうが! それくらい気付けよ!」
そんな事を言い合っていると、何時の間にやら仕留めた熊の化け物の処理を終わらせたメイドさんがこちらにやって来る。
それに気付いた俺達の前で、見事なカーテシーを披露して事後処理の報告を行う。
「主様、今回仕留めたのは『食い散らかす者』と呼称されている個体の模様です」
「おお、それは重畳! 『名付き』とは意外と大物だったのだな」
「はい。この周辺を縄張りに近隣の村々にそれなりの被害を与えていたらしく、街で手配書の存在を確認しております」
「そうか、これでしばらくはこの辺りも安全という事だな」
「現在は解体と部位の分別を終えておりますが、いかがされますか?」
「では証明部位と可食部を残して……」
あの熊の化け物そんな大層な名前で呼ばれてたのか。
しかし、メイドさんはあの大きなボウガンをどこに仕舞ったのだろう等と二人の会話を半分上の空で聞いていた俺であったが、途中から自分に声が掛かっている事に気付き少し慌ててしまう。
「ほれ、何をぼんやりしている。今日はもう帰るぞ、あまりのんびりしていると日が暮れる」
「分かりましたよっ……と、まったく人使いの粗い事で」
その言葉を聞いた俺は、いつもの憎まれ口叩きつつまだ痛む体を無理やり起こし現在拠点としている街への帰路に就く。
チビッ子の跨るこの世の終わりの様な酷い面をしたロバの隣に並ぶと、待っていましたとばかりに本日の俺へのダメ出しが飛んで来た。
「しかし、とりあえず合格点は出したが、お主の弱さは少々いただけん」
「それは認めるけど、なんだよ藪から棒に?」
「しかも振るう得物まで鈍とは本当に救いようが無いな」
「俺もまさかあんな不良品とは思わなかったよ。まあ店頭で投げ売りしていた安物だったからな」
「そのわりには嬉しそうにニヤニヤ眺めておったではないか、しかもご丁寧に『デュランダル』などと名前まで付けて」
「うっ……止めてくれ、あの時は非常時でテンションが可笑しな事になっていたんだ」
あんなのは本当の俺では無い、はずだ。
「いかにも自信ありげに見せびらかすものだから、どんな業物なのかと思っていればあの醜態。あきれて物も言えんな」
「ちくしょう! 返す言葉もねぇ!」
「まあそれは兎も角、次から護身用具を揃える時は私や他の者も一緒に行くとしよう。まだお主はこちらの世界に慣れていないのだからな」
ただの野生動物の狩りだと甘く見て準備を怠り、死に掛けたという事実が自分の元の世界や環境では無いのだと改めて認識させられた。
今回は運よくメイドさんに助けてもらえたが、いつもそうとは限らない。
いまだ不確かな自分の足取りに、改めて気合を入れ直すとしっかり地面を踏みしめる。
一歩ずつ確かめる様にこの世界を俺も歩いて行こう。
「ところで主様、先程ツカサ様が無様に叫んでおられました『デュランダル』とは一体何の事なのでしょうか? 私共はお恥ずかしながら存じませんで、今後の情報共有の為にもお伺いしておきたいのですが」
「ふむ、我が従者達が興味を示すとは珍しいな」
「えっ?」
「私も気になっておった所だ、ここは一つ口にした本人から教えてもらおうではないか」
「あ~、それは、だな」
この後俺は少し前の自分を恨みに思いながら、説明が進むにつれて徐々に生暖かい物になっていく二人分の眼差しに耐えながら詳しく説明したのであった。
間を置いて以前の自分の文章を読み返すと、色々な誤字脱字もそうですが可笑しな文章になっている事などに気付きます。
改めまして精進して行きますので、彼らの冒険を見守ってやってください。




