好感度アップ作戦
森を抜けるとすっかり日が暮れていた。
そうだ村に入る前にしなければいけないことがあった。
「ユーリエさんちょっと待って元の服に着替えるから」
「え? どうしてですか? 今のお召し物はとっても素敵なのに」
「これだとちょっと目立っちゃうしね」
魔法少女の一番の見せ場はやはり変身してる時だとは思うけど、だからといって常時変身しているのは違うと思う。
普通の日常シーンがあってこそ魔法少女になった時の可愛さが引き立つのだからね。
そう、相手の手足を拘束して動けなくしてから必殺魔法を撃つ魔法少女も「平凡な小学3年生」を自称してたしね。
まぁ私は美少女ドワーフなのでどんな格好しててもちびっこ可愛いけどね。
「で、でも冒険者として活動するのでしたら目立つことは良いことですよ。自分の名前や名声が広まればそれだけランクや個人依頼も増えますし、他の冒険者からも一目置かれたりするんですよ」
ユーリエさんは納得出来ない様子。
冒険者として活動しているからこそ先輩としてアドバイスをしてくれてるみたいだ。
でもそれは必要はない。何故なら私は冒険者として上を目指している訳ではないのだから。
「冒険者登録はするけど魔法少女だからね。オンとオフは……えと、戦わない時は普通の女の子でいたいの」
「……戦わない時は普通の女の子で……確かに、そうですね。私も戦ってない時はただの普通ユーリエでいたいです」
ユーリエさんは何か思案していたようだったけど、やがて強く意思を感じる目をこちらに向けてきた。
こんな小柄で大人しそうなのに冒険者なんて職業をやってるくらいなので、もしかしたら『普通の女の子』という言葉に何か思うところがあったのかもしれない。
うん。それはきっと魔法少女になるためには大事なことのはず。流石私いいこと言った。
それにユーリエさんが仲間になってくれたあとに、常時2人してコスプレで魔法を打ちまくっていたらドワーフの村の二の舞だからね。
私は変身スティックから光のカーテンを出した。
どこからともなく聞こえてくる音楽と突然現れたカーテンにユーリエが釘付けになっている隙に元の服に着替える。
変身する時も変身解除する時も華麗で可憐な演出は忘れてませんよ。
「魔法少女って……着替え一つにこんなに」
「うん、服は女の子にとって武器の一つといっても過言じゃないよ」
「プリティリアンさんはすごいですね。私冒険者になっておしゃれに気を使う余裕なんてなくなってました」
「あ、この姿の時はリアンって呼んでね」
「分かりましたリアンさん。」
行きと同様にこっそりと村の中に戻ってきた。
周囲は暗いがどの家も軒下にランタンを掲げているので宿に戻るのは問題なさそうだった。
「それじゃあ宿にいく?」
「あ、ちょっと待ってください。薬草を買い取って貰います」
「買い取り?」
「はい、あんまり高くはないですけど雑貨屋で買い取ってくれるんで、これでご飯が食べれます」
「私も行っていい?」
「いいですが、特に変わったことはありませんよ?」
「いいのいいの」
外の世界、というかお金の相場についてもっと知りたいと思っていたところだった。
ユーリエさんに先導されてたどり着いたお店はこじんまりとしたお店だった。
店の中には沢山の棚の上に何かの薬や何かの道具が所狭しと置いてあった。
「ほっほっほ、いらっしゃい雑貨店に用事かの?」
カウンターには腰の曲がった小柄なおじいさんがいた。
「薬草の買い取りをお願いします」
ユーリエさんが机の上にさっき一緒に採取した薬草を置く。
その間に私は店内にある品物を見ていくが特に大したものは置いていない。
ドワーフの村にはなかったものが沢山あるけど、魔法少女の活躍に使えそうな物は特になさそうだった。
金の髪飾りなんてものもあったけど私の目でみればそれが金細工ではなく、メッキなことも見てとれた。
「グリーンハーブが全部で12本じゃな。それじゃとこんなもんだの」
薬草の査定が終わったのか、おじいさんは数枚の硬貨を机の上に置いた。
しかしユーリエはそこに待ったをかけた。
「ちょっと待ってください。こっちは確かにグリーンハーブですけど、これはブルーハーブです。それに今採取してきたばかりですので乾燥物に比べて品質は良いと思います」
今までの大人しそうだったユーリエはどこに行ったのか、機敏な動作で無造作に1まとめにされていたハーブを手際よく選別し間違ったところを指摘していった。
確かによく見ると微妙な色の違いがある。探している時は薄暗かったこともあったけど形で判断していたので色の違いまでは気がつかなかった。
ユーリエの言葉におじいさんは一瞬視線を彷徨わせ。
「すまんすまん、お嬢さんの言う通りじゃったわい。近頃老眼が悪化してのぉ」
おじいさんはそそくさと更に数枚の硬貨を追加した。
「いいえ、大丈夫です。買い取りありがとうございます。これはリアンさんの分です」
ユーリエは半分を私に渡そうとして来たが私は首を振った。
私の手持ち資金も多くはないけど薬草の報酬はそこまで多くなかった。
報酬を受け取ろうとしない私にユーリエさんは複雑そうな顔を向けた。
「リアンさん、これは正当な報酬なので受け取って貰わないと私も冒険者としてのプライドが……」
そこまで言ったところで突然『ゴギュルルルル』という地響きのような音が鳴り。
途端にユーリエさんの顔が真っ赤になった。
ユーリエさんまさかの腹ペコキャラ。クッ、なんという可愛さアピール。
「じゃあとりあえずご飯を奢ってくれればいいよ、それでもしも同じ部屋に泊まるのに追加料金がいるって言われたらそこから出してくれればいいよ」
「リアンさん……」
こうやって少しづつ恩を売っていって返しきれないくらいの恩になったところで魔法少女に勧誘すれば成功率も上がるだろうしね。
宿屋に戻ってきた私達は、受付のお姉さんに事情を話し「本当はダメなんだけど同じベッドで寝るのよね? なら構わないわよ」と許可も貰えた。
そして今は宿屋の食堂で約束通りユーリエさんに奢って貰って一緒に夕食を食べている。
本当にお腹が空いていたようでユーリエさんは大盛りの夕食を3人前頼んでいた。
うん、まるで子育てがテーマのプリ○ュアの某アンドロイドキャラのようにいい食べっぷりだ。
「それにしてもさっきのユーリエさんすごかったね」
「え? さっきの……ですか?」
おかわり自由のパンの3度目を追加注文し終えたユーリエさんはコトリと首をかしげた。
うん、可愛い仕草だ。私の次に可愛い。
「雑貨屋のおじいさんにズバズバ指摘していったところね、私だったら薬草の違いなんかわからなかったからきっと言い値で納得しちゃってたはずだよ」
「あ、あれはその……違うんです。小さい頃から商品の細かな違いについて教えられてたのでつい……」
「小さい頃?」
「私の家は代々続く商家だったんです」
「確かに冒険者ってよりはそっちの方がイメージ出来るかも、じゃあなんで冒険者をしてるの?」
最初に会った時からどことなく育ちの良さそうなお嬢様という印象があった。金髪の髪もあのキャラのようにくるくる巻き髪にしたいくらい。
そういえば二足歩行の狼……ワイルドウルフに襲われていた時も腰の短剣を抜いていた様子すらなかったっけ。
「父が急に病気を患ってしまって店に借金が出来てしまったので、それを少しでも返済しようと冒険者になったのですが、中々上手くいかず……」
「そっか、苦労してたんだね。あ、これもよかったら食べる?」
「いいんですか? ありがとうございますリアンさん」
ユーリエさんの不憫エピソードを聞くたびにあのキャラの衣装を着せたくなるから困る。
5度目のおかわり自由のスープを飲み終え、追加注文をしようとしたユーリエに半分残っていた自分の夕食を差し出した。
あれだけあった料理をほぼ全て完食してしまった。小柄な体の一体どこに入ったのか、胸か胸なのか……。
もしかしてユーリエの家の借金って食費が原因じゃないよね?