マスコットキャラ
魔法少女になるべくドワーフの村を出た私は、行商隊のおじさんから聞いておいた乗合馬車に乗って2日ほど先にあるウエルズピークという名前の商業都市を目指します。
馬車の運賃は1日銀貨3枚で2日で銀貨6枚。
馬車に乗ると中には親子と思われる3人と冒険者風の30代くらいの男の人、同じく冒険者っぽい10代後半くらいの女の子が乗っている。
小さい女の子の1人旅なのは珍しいのか周囲の視線が一斉に集まります。
私の格好は、お気に入りのピンクのワンピースに雨よけにもなる外装を羽織り、肩からは少し大きめの鞄を下げています。
ちなみにこの世界には俗に言うマジックバックと呼ばれる、中の重さを感じない容量無限の鞄は存在していなかったので、自分で魔道具の鞄として作ってみました。
ただし私が作れたのは中に入れた物を出来る限り圧縮するという物で、重量は実はそのままだったりします。
なのでこの鞄は私が今までに作った魔道具を全て詰め込んでいるおかげでかなり重いはずなのですが、怪力自慢のドワーフという種族のおかげで全然重くありません。
そんなどう見てもごく一般的な普通の女の子です。
魔法少女は普段は普通のごく一般的な女の子に擬態するのがお約束。
例に漏れず私もどこからどうみても普通の女の子にしか見えないはず。
しかし馬車の人達の視線は馬車が走り出しても一向に外れません。
視線は主に私の左手に注がれています。
なんでしょう、きっと私が可愛いから見ているのでしょうか。困りますね。
「おいおい、みんな見てやがるぜ、全然擬態出来てねぇじゃねぇか」
「あっ、ちょっと人前では喋らないって約束でしょ、誰のせいだと思ってるの」
現実逃避をしていた私の耳に左手から少し低音の小声がします。その声に小声で反論します。
そう私の左手には口がパクパクする白と黒の色をした妖精の姿のパペット人形がはめられています。目には黒いサングラスをしているソレはお世辞にも可愛いとは言えないデザインです。
それがひとりでに喋っているのです。
うぅ、どうしてこうなった……。
※※※
事の起こりは今から1週間前。
旅立ちを決意し一通りの魔道具を作り終えた私は、最後に一つの魔道具を作ることにしました。
そう、あれです。
魔法少女といえば不可欠なのがお供になる小さくて可愛いマスコットキャラです。
本来であれば魔法少女(希望的観測)である私の前には、何らかのパートナーとして相応しい妖精や動物が来なければおかしいはずなのですが、転生して13年、私の前にはついにそれらしい存在は現れませんでした。
苦肉の策として私が考えたのは精霊でした。
稀に才能あるドワーフの打った武器の中には、精霊が宿る武器が出来ることがあります。そう何世代前に勇者の剣を打ったうちにはその精霊が宿る武器が1本あったのです。
何度も父が自慢しているのを聞いて育ちましたからね。
早速私はうちの地下室に厳重に保管されていた宝箱を開けると真っ赤なビロードの上に1本のどこにでもありそうな剣が入っていた。
「これが精霊の宿る武器?」
剣をひょいと持ち上げるとどこからともなく威厳ある重厚な声が響いた。
「……矮小なるドワーフの娘よ。我、偉大なるグランリベルオン様に何様だ……返答によっては無事では……」
それは手にした剣から聞こえて来るものだった。
「シャベッタァァァアア!
……あぁ、でも……もしかして、ブツブツ」
「……あの、我の話を聞いておるか?」
「……うん、これだわ」
「お主目が怖……
待て、何だその手に持っている物は……ちょっ、いや待って俺が悪かった!
だから、お願いだから待っ、あ……あぁーっ!!」
どうやら威厳あるキャラを演じていたらしい剣に宿っていた精霊を工房に運び、文字通りバラバラにしドワーフの精錬技術で糸状にすると、前世の裁縫の知識を活かして1体のパペットを作り上げた。
誤算だったのは本当は音楽をモチーフにしたプリ○ュアの可愛いネコチャン型の妖精のぬいぐるみにするつもりだったのだけど、
「おい待て何だそれ、嫌だぁぁあ! そんな物に入られるくらいなら死ぬぅぅうう!」
と、頑なにデザインを譲らない精霊にぬいぐるみの何度もリトライを命じられて、1週間かけて出来上がったのは白と黒の姿に背中には妖精の羽を生やした目にはサングラスを付けた謎のパペット人形だった。
全然可愛くないし全然魔法少女っぽくもないけどこれじゃないと嫌だと言われれば納得するしかなかった。
ついでに私と一緒に旅に来てくれることも了承してくれた。
「何十年も使われない剣のまま錆るのをただ箱の中でただ待つだけだったからな。
それに比べりゃどんな姿だろうが旅に出れるのは願ってもねぇが、入る物くらいは俺が決める」
ちなみに家宝の精霊の宿る武器をそんな姿に変えられたことを知った父は卒倒して自慢の髭が抜け落ちてしまうほどだったようだけど、元剣に宿っていた精霊がパペットで旅に出ることに納得していることで渋々了承してくれたようだった。
「こんな見た目のマスコットなんて……くっ、この際、逆にギャップ萌えってことにするわ。
よろしくグラさん。でも人前では余り喋らないでね」
「ちょっと待てリアンっつったか、なんだその『グラさん』ってのは、俺の名前は『グランリベルオン』だぞ」
「だって長いし、いいじゃんサングラスかけてるんだから」
こうして私は不本意ながらも念願(?)の魔法少女のマスコットキャラを手に入れたのだった。