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村を出ました

宮田海里は夢見る少女だった。


ピンクやリボンといった女の子らしいものが好きだった。

中でも魔法少女物に関してはアニメやゲームはもちろん、昔やってた古い特撮なんかもレンタルして何度も見るほどだった。

ごく普通の女の子が可愛いマスコットと魔法の力で華麗に変身し、同じように集まった仲間達と力を合わせて巨大な悪に立ち向かう。

魔法の力で今までの自分とは全く違う自分に変身する、それは海里にとって文字通り夢のような世界だった。


幼い頃はよかった。

近所の女の子達とお人形遊びをしたり玩具の変身スティックでポーズをとったり必殺技を叫ぶことが出来た毎日は楽しかった。


変化があったのは小学校に上がった頃からだった。

女子であるにも関わらず他の子達よりも頭一つ分背の高く端正な顔立ちをしていた海里は女の子にモテモテになり、男の子からは「男女」と揶揄われるケンカ相手のようになった。

そうしているうちに海里が可愛いスカートを履いたり魔法少女が好きと言えば「似合わない」「イメージと違うからやめて」と言われるようになってしまった。


「それでもいいじゃん、私が好きなんだからほっといてよ!」

と言える度量は残念ながら海里にはなかった。


結果、こっそりと魔法少女のコスプレ衣装や3Dプリンターで魔法の杖を作るのが海里の休日の日課となっていった。

しかし身長170cmを超え、切れ長の瞳のせいでついに「男よりもカッコいい女」と呼ばれるようになってしまった海里にピンク色のフリルやリボンをふんだんに使った衣装を着る勇気もまた無く、タンスの肥やしを増やしていくことが精々だった。


そして海里は帰宅途中に車に撥ねられ、最後まで魔法少女になることが出来ないままその生涯を終えたのだった。


神様、もし生まれ変わるなら今度は小さくて可愛い女の子に、出来れば魔法がある世界で……。

そう願いながら宮田海里の意識は途切れたのだった。



※※※



目が覚めると石造りの天井だった。

二度寝がしたいのをグッと我慢して私はベッドからもぞもぞと這い出ると、部屋の隅に立てかけてある姿見の前に立った。


鏡にはピンクの髪にカーマインの瞳、真っ白い肌の美少女が映っていた。

鏡の中の少女は頭の寝癖を直すとお気に入りの白いネグリジェの裾を持ってくるりとターンをした。


「いやぁん、私ってば昨日も可愛いかったけど今日も超絶可愛い!」


鏡の中の少女、もとい私は両手をほっぺたに当てると腰をくねらせて身悶えた。

はい、前世では宮田海里だったリアン・アガレス13歳です。

どうやら私の願いは無事に神様に届いたようで、この剣と魔法のファンタジーといっていい世界に無事可愛い女の子に転生することが出来て早13年、毎朝鏡を見ては怪しくニヤニヤする危ない少女をやってます。

神様ありがとうございます!


え? 少女のうちは小さくて可愛いのは当たり前だって? まぁそれに関しては何の心配もないのです。

鏡に映る美少女は13歳にしては幼く小さい、前世で例えるなら7〜8歳くらいの幼女に見える。

これは私が転生した種族が人間ではなくドワーフだったからだ。

ドワーフといえばファンタジーのお約束種族の1つ、ちびっこで髭もじゃで手先が器用で大酒呑みで鍛冶作りが盛んな種族!

確かに小さい頃は両親を見てはなんだかちいさいなぁとか、外の鉱山からトロッコの音がしたり、やけに金属を打ち付ける音がうるさいなーとか思ってたんだけどね。

あ、ちなみに男の人は安定の髭もじゃだけど女の人は髭無いし、うちの母親は成人済みなのにどう見ても12歳くらいにしか見えないロリバ……、ゲフンゲフン超童顔種族だったのでこれも大満足!

だってこれでいくら大人になっても魔法少女が似合わない見た目になる心配はないんだしね。

知らなかった頃はうちの父親はロリコンなんだと思って軽蔑の目を日々向けてました。ごめんね父よ。


私が転生したのは何世代前に勇者の剣を打ったとかなんとかで有名な割と裕福な鍛冶屋の家の子供だった。

思えば台所でシェフが竃に魔法で火を付けているのを初めて目撃した時は、小躍りして喜んだものだったなぁ。


とにかくこの世界には魔法があるということが分かったので善は急げと私もその魔法を教えて欲しいと両親におねだりしてみたのだが、「もう少し大きくなったらね」と、あえなく却下。

……この時ばかりはちびっこの体が恨めしかったものです。


かといって大人しく大きくなるのを待っているリアンちゃんではなかったのです。

そこから数年間、魔法を使いたい私VS魔法をまだ使わせたくない両親プラス使用人の壮絶な戦いがあったとだけ言っておきます。


どうやらドワーフという種族は鍛冶を生業とする種族だからか火の魔法にかなりの素養があるために私はあっという間に火の魔法を使いこなし、練習と称しては村中を焦げだらけにし。

魔導具の研究と称して父の工房を占拠しては前世の知識を生かしてメルヘンチックな魔法の杖や魔導具を作製し、杖から炎を発射させては村中を焦げだらけにし。

母親の高価な織物でフリルとリボンたっぷりの魔法少女衣装を作っては炎の杖を振り回し村中を焦げだらけにした。


ちなみにドワーフ村は三方向を森に囲まれ、残りの一方向は鉱山という環境になっており、時折森から珍しい商品を売っては代わりに武器を仕入れていく人間の行商隊が来ていましたが、種族特性なのかどうやらドワーフは他の種族があまり好ましく思っていないようで、売買も業務的なやりとりしかしないようです。


しかし元人間であった私にはそんなものは関係ないのでここぞとばかり私はその商人さん達から外の世界について聞いていました。

何故かといえば私の目的は女の子に夢と希望を与える立派な魔法少女になることです。

では魔法少女になるに必要なものは何か? そう、困っている善良な一般人と敵となる相手です。

しかしながらこのドワーフの村には敵どころか困っている人がいないのです。生きていくのには困らないけどこれでは魔法少女になれない。

これは由々しき事態。


ですがここは剣と魔法のファンタジー世界(希望)なので創作物でお馴染みのモンスターや冒険者ギルドがあるはず! あってくださいお願いします(切望)


そんな訳で私は行商隊が来るたびに外の世界の話を行商人に聞いて回っていました。

その結果13歳を迎える頃には私はドワーフの村の中で立派な変わり者と呼ばれるようになっていました。


その頃には弟が生まれ、いい機会なので私は外の世界に旅に出たいことを両親に伝える事にしました。

ドワーフの成人は本来15歳なのですが、両親は二つ返事で了承してくれ金貨5枚の餞別まで渡してくれました。心なし喜んでいたように見えたのはきっと気のせいでしょう。手切れ金では……ないですよね?


さてそんな訳で私、リアンは魔法少女になるために数々の装備と魔導具を持って人間の町を目指して旅に出るのでした。

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