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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

覇痕腐瑠須斗檻居(ハートフルストーリー)‐史上最強の漢(15歳)と絶世の美人(14歳)‐

作者: ヘレン@暇つぶし用

この物語は、史上最強を我が物にした男が、新たなる頂きへと至る為の最初の物語である……

「聖ッ!!!破ッ!!!!!」


何処かの道場。

男の野太い声が響いている。

彼の名は涯前剛志(がいぜんたけし)

若干15歳にして天下一武道会優勝まで上り詰めた漢だ。


「ヌウゥゥゥ……。」


その肉体は強き事鋼の如し。

身長190cmを超える背丈を持ち、まるで鋼鉄のような堅さを持ちながらも尋常ならざる柔軟性を持ち合わせた天性の筋肉。

そして肉弾戦闘の真髄とまで謳われる天上天下唯我無双流を継承し、暗器術、隠密術、その他各種武芸にも通じる正しく世界最強の男だ。


しかしそんな彼を困らせる存在が居る。


「あ、たけし君!こんな所に居たんだね!」


それがこの人、愛野侑李(あいのゆうり)だ。


「……ム、ユーリか。」


その見た目は可憐で、儚く。しかし何処か凛としている。

髪は黒く、そして足元まで届くほど長く、しかして髪の毛一本の跳ねも無く綺麗に真っ直ぐに伸びている。

そう、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を地で行く人なのだ。

剛志とは全くもって正反対なその姿は正しく絶世の美人。

この世のどんな美貌を持つ女性も侑李に敵う事はないだろう。


「ほら、今日も特製おにぎり作って来たよ。一緒に食べよっ?」


そして侑李はいつも、道場で1人稽古をする剛志に差し入れを持ってくる。

とてもありがたいのだが、剛志はこの好意にいつも戸惑いを隠せないのだ。


「いつも有難いのだがユーリ、その、何故、我なのだ?」


「ん?それは、剛志くんだからだよ。」


「答えになっていないではないか……」


丸太のように太い腕を組み、剛志は考える。

しかし常に強者との闘いを求める剛志の脳に、侑李の好意の理由を理解するほどの力は無いのだ。


「まぁまぁ細かい事は良いからさ、早く食べよ?」


「ム、ムウ……」


そしていつも侑李に流されるまま一緒に食事する事になる。

2人は道場の床に座り、剛志は胡坐、侑李は女座りをする。

侑李の髪は長すぎる為、道場の床に綺麗に広がる。その様子は夜空に広がる星海のようで、一時の小宇宙を感じざるを得ない。


「はい、どうぞ。いっぱい食べてね。」


「……相分かった。」


そう言って剛志におにぎりを手渡す侑李。

天上天下唯我無双流の教訓には“弱者の願いを蔑ろにするなかれ”という物があり、剛志は継承者としてその教えに歯向かう事は許されない。

侑李は剛志の視点から見れば明らかに弱者である事は明白。

故にこのお食事会は必然のような物なのだ。

侑李もそれを理解しているのかしていないのか良く分からないのだが、こうして毎日おにぎりを届けてくれる。


剛志は手渡されたサッカーボール大のおにぎりの封を開け、大きな口を開けて食べる。

中には剛志の好きな昆布の佃煮が入っていて、とても美味だと感じながら毎日食べている。


「でね、隣のクラスの梨花ちゃんが事故でスマホ3階から落として壊しちゃって、ホント大変だったんだよ。クラスで修理費のカンパとかする羽目になってさ。」


侑李は剛志の横で一人喋り続けている。

剛志は食べながら適当に相槌を打っているだけなのだが、それで会話になっているのだから人間という生き物は分からない。


暫くそんな風にお食事会をしながら、夕日が差し込む道場の中で剛志はつい何時も思っていた事聞いてしまう。


「……なぁ、ユーリよ。」


「ん?なぁに?」


「……何故女装をしている。お前は男のハズだろう。」


実は、侑李と剛志は幼馴染なのだ。

その為剛志は小学生時代の侑李がどういう存在だったのかを知っている。

あの当時は剛志も武術を習い始めたばかりで師匠にボコボコにされ悔しがっていたものだが、それをいつも治療してくれたのが侑李なのだ。


「……それをたけし君が聞くの?」


菩薩のような心を緩ませる微笑みを浮かべながら侑李は剛志を見つめる。


「私はね、たけし君がいつも頑張ってる姿を一番近くで応援したくて、この道を選んだんだよ?」


「……たけし君が修羅道に落ちたら、他の誰でもない私が傍にいて助けてあげようって思って。」


剛志は闘争については非常によく分かるが、侑李のように自己犠牲を伴う感情は理解できないのだ。


「……しかしユーリ。お前の道も形は違えど修羅の道。その先に待つのは地獄のような鍛錬の日々だ。」


「その先に救いは無い。ただ己を高める為終わりの無い道を進み続けるだけだ。」


鍛錬の末一つの頂きに辿り着いた剛志だからこそ言える言葉。

しかし侑李はそれを理解した上で告げる。


「……だって、置いていかれたくなかったんだもん。」


「私にはたけし君みたいな力も、強さも無い。だからせめて、違う形で同じ道を進むって決めたんだ。」


「道は違えど近い道。それなら、傍に寄り添っても誰も文句を言えないでしょ?」


「ムゥ……」


剛志は侑李の覚悟した瞳を見てそれ以上の言葉を止める。

幾人もの修羅や武神と戦った剛志だからこそ分かる瞳。

あれは己の信念を命を賭して貫き通すと決めた者の瞳だ。

誰かに辞めろと言われた所で辞められる訳がない。既に進んでしまっているのだから。


「……だから、我儘になっちゃうんだけど。」


「いつでもたけし君の傍に居させて欲しい。私の願いはただそれだけ。」


「……その意思、そしてその覚悟。我も理解した。もう止めようとはしない。」


諦めたように目を瞑る剛志。


「だが、ユーリも我と同じく修羅の道を進むのなら、決して後ろを振り向いてはならぬ。」


「お前の後ろにはお前に敗れた者達の願いや、吐き気を催すほどの鍛錬の積み重ねが存在している。」


「それを全て背負いきらねば、先に進めん。」


その言葉に侑李も聞き入っている。


「……ただ、もしお前に追い縋ろうと踠き、這いつくばっても立ち上がろうとする者が居るなら、全霊を持って相手をする事だ。」


「その者は強くなる。そして何度でもお前の前に立ち塞がり、乗り越えるべき障壁となるだろう。」


剛志はそう言い切り、残ったおにぎりを纏めて口に入れる。


「……相変わらずたけし君は戦う事しか考えてないね。」


侑李は剛志の言葉を心に仕舞いながら外を見る。

道場の格子戸から見える景色は赤く染まり、今がもう夕刻だという事を告げる。


「もう夕方だね、たけし君。」


「承知している。」


「明日もここで鍛錬してる?」


「……明日は授業に出ねばならぬ。鍛錬は少し遅い時間になるだろう。」


「じゃあ、それくらいの時間にまた持ってくるよ。」


侑李はバスケットを持って立ち上がり、剛志に向き直る。

長い髪がふわりと揺れ、仄かに甘く、幽玄な香りがする。


「また明日。」


侑李はしとしとと歩き、道場の外へと去っていった。

剛志はおにぎりの包みを自身の握力と摩擦熱で完全燃焼して消滅させ、鍛錬に戻る。


ユーリ。

何故我の傍に居たいのだろうか。

その答えが出ないまま剛志は拳を握り、空を突く。


しかし、そんな剛志にも1つ分かる事はある。

侑李もまた、剛志と同じく修羅の道を進む一人の猛者だという事だ。


そして侑李に対する雑念は何故か剛志の心を燃やし、昂らせる。

これが世間一般で言う所の恋という物なのだろうか。

剛志は次第に早くなる動きを更に極限まで高める為に侑李に対する思考を続ける。


ユーリ、お前は何故、俺を。


虚空に向かい放った蹴りは音速を超え、物々しい音を立てて空気を斬る。

どんどん研ぎ澄まされていく動き。

しかして広がり続ける雑念。

剛志は疑問に思いながらもその実力を一瞬、また一瞬の内に増していく。


いつの日か答えが出る時。

その時こそ剛志が真の頂きへと辿り着くだろう。

鍛錬の最後に放った拳は破裂音と共に、遥か遠くに在った壁を衝撃波で穿つ。


「フゥゥゥ……」


息を抜き、正座をして精神を研ぎ澄ます。

雑念を抜き、ただ己がすべき事を成す。

ただそれだけ。

その精神統一はまさしく悟りの境地に至った者のみがたどり着ける物。

その世界に色は無く、音も無く、何もない。

其の筈なのに、心の中には侑李の姿が離れない。

しかし、悪い気分では無かった。

剛志はそのまま、誰にも心の内を知られずに正座を続ける。


その様子を帰ったハズの侑李は隠れてみている。


「……たけし君、いつか私を女性として、見てくれるよね。」


暫くして門限が近づいてきた事を思い出し、侑李は足まで届く黒くて長い綺麗な髪とスカートを靡かせながら石階段を降りていく。


「私が虐められて泣いていた時、どんな事があっても俺が傍にいて守ってやるって言ってくれたのは、たけし君なんだけどなぁ。」


「男なら、約束守って欲しいな。」


そう言いながら去る侑李のその姿は、朱色に染まる世界に残る一筋の月。

いつの日か剛志がその約束に思い出してくれるまで、侑李のお節介は終わらないのだ。

久しぶりにやりたい放題できてすっきり

長く小説書いてると設定固まって来ちゃって自由度が無くなるのが辛み。


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― 新着の感想 ―
[一言]  暑い夏の昼に食べる、美味しい冷やしうどんのようにツルツルと、つっかえることなく最後まで読めました。  剛志くん、漢らしいです。  侑李たん、性別を超越して可愛いです。  BLものとのことで…
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