第5話《文殊の知恵》
二人の子供が、軟禁されていた部屋の居間で、
ポチは、円形のテーブルの周囲にある…3つの椅子の1つに腰かけていた…
。
ポチ
「他に仲間は、いないのか?」
。
ポチの質問に、向かいの席に座るシャリムは、
いいえ…と、一度、残念そうに首を横に振り
…
「前から少しずつ…このパンテオンの中を探索してみたのですが…見つけられたのは、ポチさんだけでした…」
。
もう処分されたのかもしれない…と話す、シャリムの表情は暗い…
。
ポチ
(俺の事にしても、大した戦力にならないから…
子供達に教えたのかもしれないし…)
、
それを思うと、ポチは
…
「しかしなあー…
お前達が、いくら強大な力を持っていたとしても…
たった3人で何が出来るというんだ…」
。
2人の子供の考えが…あまりに無謀に思えて仕方なかったが
…
そこで、シャリムの隣に座る銀の髪の少年が
、
「だからだよ。」
…と、その青い両目にポチの姿を映し
…
「普通の人達なら…たった3人で何が出来るって、油断すると思うんだ」
。
そこにつけいる隙があると…シャルムは言うけど
…
ポチ
「逆転の発想だな。」
…
その事は、ポチも考えていた事だ。
しかし…考える事と実行する事では、意味が違ってくる…
いくら相手が油断すると言っても…それは、可能性の問題で…
実際に、そうなる保証は、どこにもないし…
もしかしたら連中の中には…三人で行動を起こす事を予想している者もいるかもしれないのだ。
…
ポチ
(これは…間違いなく、命がけになるな…)
。
この黒いローブを着た少年は、命が惜しくないのか?…と内心、驚きもするが…
そんな事を考えるポチの左肩に、ポン…と、誰かの手が触れる…
。
気がつくと…いつの間にか…向かいの席に座っていたはずの
白いローブを着た少女が、ポチのうしろに立っていた。
…そして
…
シャリム
「大丈夫ですよ。ポチさん…」
。
ポチが、顔をうしろに向けて…少し見上げると…
背後に立つ…金の髪の少女は、両目を閉じて…ニコリと、微笑み…
そのあと、すぐに閉じていた、両目を開くと…
シャリムは、ポチの左肩に置いた左手を離し…
。
「それに脱出方法については、ある程度…わたしの頭の中で、出来上がってるんです。」
…そう言うと…隣からシャルムが
、
「そういえば、シャリムは、ちょくちょく部屋の外に出ては、
ここの構造を、調べていたもんね。」
…そう言ってから
…
うしろに向いた犬のような顔を、正面に戻したポチと…
そのうしろに立つシャリムに向かって
、
シャルム
「あとは、どう実行するか…三人で考えていこう…。」
…
言葉を続けるように、そう話し…
それを聞いたシャリムも
「3人集まれば文殊の知恵ですね…。」
…
そう言ったあと、近くの棚の方に向かうと…
そこから…紙を丸めたものを持って来て…
それから…それをテーブルの上に、広げると…そこには…
シャリムが見てまわった…神殿の構造を書き記したものが、広げられ
…
それを見たポチは、
「こいつは、すごい…」
…と、素直に驚く
。
ポチが驚くのも無理はない…
その時、見たり聞いたりしたものを…細かく書き記されたその地図のようなものは…
とても、幼年記の少女が書いたものには、見えなかった…
。
そして、テーブルの上に広げられた地図のようなものの一点に…
「この場所…」
シャリムの左の人差し指の指先が当たる
…
「神殿の地下にある…この部屋には、
昔…他の世界に行くために使った、秘密の通路があるらしいんです」
。
シャリムは、その話をしたあと
…
「たぶん地下通路は、暗いから…
たいまつのようなもので、通路を明るくする必要があるでしょうね…」
。
そんな事を話すので…
ポチは、
「どうするつもりだ?」
…と、聞いてみると
…
それまで、シャリムとポチの話を聞いていたシャルムが
、
「棚の中に置いてある水晶球の一つに…僕が、ライトの魔法をつめ込んでみるよ。
それが出来れば…長時間、発光できるから…安心だと思う。」
…
それに…もし暗闇の中で、たいまつの炎をつけた時に出来る、明かりの範囲を考えると…
たいまつが三人分、必要になり…
3人全員が、片手を使用できなくなる
…
それでは、もし…怪物と戦闘になった場合に…不利な状況に追い込まれてしまう…
。
ポチ
(それに対して、シャルムの言う…光の球が完成すれば…
それを持つ者の手は、ふさがるけど…
他の二人は、何も持たずにすむ。)
…
その利点は、大きいな…と、ポチが考えていると
…
シャルム
「ただ、そのためには
発光量と使用時間の長さが問題となってくる…」
。
そのためには、かなりの光の量と、その調整が必要となってくるため…
しばらく時間がかかりそうだ…と、考えたシャルムは、椅子から立ち上がると
…
「よし!これから僕は、光の水晶球の製作に入る!
シャリムは、長旅に備えて、
出来るだけ多くの携帯食を作ってよ。」
、
シャリムにもそう話し…
それに対して、シャリムは、
「分かりました。」
…と、頷くと…すぐに台所の方へ向かったので
…
そのあと、水晶球を取りに…棚に向かおうとする、シャルムに…今度は
、
ポチ
「俺は、どうすればいい?」
…と、茶色い服装をした、ポチが聞くと…
シャルムは、ポチの方へ振り向き
…
「ポチは、居間の中にあるものを…
光の球を作るのに、邪魔にならないように…
部屋の端にでも寄せておいてよ」
。
ポチ
「分かった。」
…
シャルム
「あと、それが終わったら…
僕が指示したものを持ってきて…
それも終わったら、本でも読んでていいよ。
作るのに、けっこう時間が、かかりそうだからさ」
…
そう言ってから、棚の方に向かって…水晶球を取りに行くシャルムを見て…
ポチは、
(これでは、どちらが子供か分からないな。)
…と、頭の中で笑うのだった
・・・・・・
。
《第6話へ続く…》