最終戦《戦いの果てにあるもの…》
まるで子供用から大人用に変わるように…刃や持ち手のところが大きくなった両翼の剣をヘレルが右手に取った時…ヘレルの頭の中に…
「ん?」
《ここにいては危険だ》と、頭の中に危険信号が走り…右側の方にジャンプすると…その直後に身体の左側を光速の魔法弾がすり抜けたので
…
(そういえば…この姿になってから頭の中が冴えている気がするな…)
。
そんな自分に驚いていると…また多重音声のあの声がヘレルの頭の中に
…
《それはあの子が貴方が元に戻ったら…あなたの潜在能力を最大限に高めるように仕組んだのでしょう》
。
シャリムが…シャルムからヘレルへと戻った時に…このような状況になっているの事を予想していたのではないかと伝え…さらに
、
《そして…まだ酸素などの元素が貴方の方に集まっている事で…今の戦況は限りなく貴方に有利に働いているのです》
。
だからケムダーは、そう何度も魔法を使えない事が…ヘレル頭の中に伝わってくるので…ヘレルは
、
(そうか…ケムダーのところには、魔法を使用する為に必要な元素が少ない…
それに復活直後のために、身体の回復が本来のものではないらしいし…)
。
倒すなら今しかないと、ヘレルは思ったが…
だがケムダーのうしろに生えている二対の黒い翼を見て
、
(だがあの黒い羽で逃げられたらどうする?
その有利な条件もすべてが終わりだ…)
。
だがそんなヘレルの考えを見通すかのように…多重音声の声で伝わる意思の
。
《大丈夫です》
…という励ましと共に、美しい歌声がヘレルの耳に聞こえてくる…
やがてその歌声は部屋中に響き渡り…
その部屋中に響き渡る歌声に召喚された風が竜巻となってケムダーの周りを包み込んでいた…
。
そしてその竜巻によってケムダーの身体が…ズタズタに切り裂かれている光景を見て
、
「精霊語による詠唱歌だと!?」
…
(しかも遠隔なのにこの効果とは…
なるほど…これ程の力ならシャルムだった私がヘレルになった瞬間に情報として頭の中に入ってきたシャリムのメッセージも理解できる…)
。
精霊の呼び出した竜巻に包み込まれたケムダーの二対の黒い翼は、いくつもの黒い羽となって千切れ…その身体にいくつもの切り傷が走っていく…
しかし…その時ケムダーが胸の前で両方の腕を交差させた瞬間。
ケムダーの周りに漂っていた黒いオーラがケムダーをかばうように…ケムダーの身体を覆っていき
…
そしてケムダーの身体を覆った、その黒いオーラが竜巻による斬撃を防ぐ光景を7メートル離れた場所から見て
…
「オーラがシールドになっただと!」
驚きを隠せないヘレルに、多重音声から…だんだん美しい声にまとまっていく精霊の声から
…
【ですが…防御に集中している今こそチャンスです。10秒後…ケムダーにかけた魔法を解きますから…貴方は、そのタイミングをはかってケムダーの元に駆けよりなさい】
。
そう伝えられ…ヘレルは
「分かった」
。
6…5…4…3…とタイミングをはかり…残り2秒となった時に
右手に持った剣の刃を左肩の近くに構えながら…ケムダーとの7メートルの距離を一気に縮めるが…竜巻が収まった時…
なんとそれを予想していたかのように…突っ込んでくるヘレルの方に右手を向けていたケムダーが、
その右手の人差し指と中指の指先から光速の魔法弾を放つ
。
だがヘレルもその攻撃を予想していたのか…
至近距離から撃ってきた光速の弾を…それまでに身体の前に七重に張った青いバリアで防ぐ。
しかしケムダーの突き出した右手の2本の指先から放った魔法弾は…
ヘレルの張った青いバリアをバリンバリンと突き破っていき…6つ目のバリアを破った後の最後のバリアのところで、やっと魔法弾を相殺する事が出来たが
…
なんとケムダーは、その間に左手までもヘレルの前に突き出していて…
突き出した右手を引っ込めると同時に左手の2本の指先から光速の魔法弾を放ち…その攻撃がヘレルの頭を貫く…
しかし走って来たヘレルの頭からその魔法弾はすり抜け…さらにヘレルは、そこからケムダーの身体までもすり抜けていく…
。
そしてケムダーをすり抜けた直後に、そのヘレルが幻となって消えた時
…
「うおおおおおお!」
ケムダーの頭上まで飛び上がっていた…ヘレルの両手に持った剣の刃が振り下ろされて…
ケムダーとなったナインクールの頭から股間の下まで身体を引き裂くようにに光の線を描く…
そう…それはシャリムが鎧の剣士を倒す時に使った垂直斬りの一撃だった…
。
そしてそのまま刃が地面に激突した双翼の剣が役目を果たしたように…ヘレルの手元から…フッと消えた時…
ナインクールの正中線走った光は、その光の線からナインクールの傷だらけの身体にどんどん広がって…
ナインクールの身体を覆っていた黒いオーラは、まるで蒸気が昇るかのように浄化され…
しだいに身体を覆いつくすほどの光となった浄化の光は、ヘレルが青い目を閉じるほどのまばゆい光となる…
そしてヘレルが閉じた目を開いた時…ナインクールの姿はそこになく…
支えを失い崩れ落ちた人間の骨がそこにあるだけだった…。
そう…いくら凄腕の魔法使いといっても、こんな地下の奥深くで長いあいだ生きていける訳がない
…
とっくにくちはてていたナインクールを生かしていたのは、欲望という化物に与えられた…かりそめの命だったのだ…
。
そしてそれを見届けたヘレルの身体もまた…役目を果たしたかのように浄化の光に包まれていく…。
そしてヘレルは、今まで自分を支えてくれた精霊に向かって
…
「ありがとう…君のおかげで友達を本当の姿に戻す事が出来たよ。」
…とお礼を言って、もはや女性的な美しい声となった精霊の声が
…
【そうですか…私の正体にも気づいたのですね】
。
ヘレルの頭の中に語りかける通り…ヘレルは
、
「ああ…セブンスソウルの7番目に記された歌の精霊…」
(そしてキミはシャリムの…)
精霊の声が聞こえた時からシャリムが傍にいるような安心感があったのは、そのためだったのだと確信し
…
「これから私はどうなる…」
。
精霊の声を聞こうとに意思を傾けると
…
【これから貴方は生まれ変わるのです。
そこにある魂と一緒に】
…
そう頭の中に聞こえたとしてもヘレルには
、
「そこに…って言われても何もないぞ…」
。
目の前にはナインクールだった者の骨があるだけだ…。
しかしヘレルの頭の中に響く精霊の声が
…
【ならよく気を傾けて感じなさい…
それは貴方の傍に確かにあるはずです】
。
そう伝えてくるので…伝わるまま目を閉じて…魔法を使う時のように精神を集中させると…
自分の胸の方に何やらぽかぽかとあたたかいものを感じたので…そこで閉じた目を開くと…
なんとヘレルの胸の前に小さな光が輝いているではないか…
「これは…」
浄化の光に包まれた自分の前に突然現れた光に戸惑うヘレルに…精霊の声は
、
【それは…ナインクールの魂…
この後…貴方とナインクールの魂は共に浄化され…1つの存在となるのです】
。
そうヘレルの頭の中に精霊の声が伝わり…
胸の前にあるナインクールの魂の光をいたわるように…そっと両の手の平の間に包み込んだヘレルの
、
「つまり私とナインクールは一人の存在となって生まれ変わるという事か…」
。
その言葉通り…精霊の声は、
【そうです。
もしかしたらその時…またもう一人の私に会うかも知れませんね…】
。
その時はよろしくお願いしますね…と強くなった身体の周りの浄化の光によって今にも昇華しそうなヘレルに伝えて…ヘレルの
「ありがとう…」
。
その言葉を最後に…浄化の光によって昇華されたヘレルとナインクールは、二対の光の龍となって絡みあいながら天井へと駆け昇り…
やがてその姿が薄くなっていきながらも天井近くまで駆け昇った二対の龍の光は…フッと、この世界から消えるのだった…
。
―――――――――――――――
。
歌が聞こえる…
セブンスソウルという魔法の本に封じられた七番目の精霊は輪廻転生を司り…
その歌声は、あらゆる者の魂を清めるという…
精霊の歌声によって清められ…無垢な魂となった2つの魂は…
やがて1つの魂となって、いつかシャリムとポチの前に現れるのだろうか…
それが十年先の話となるか…百年の先の話となるか…まだ誰にも分からない…
。
《最終話へ…》