第32話《炎の転生=フレイムクラスチェンジ》
ニンフ…それは物語に登場する半神半人の事である…だが、そんな事実をナインクールが素直に信じる訳がなく
…
「ニンフ…ニンフだと…
ククク…何を言うかと思えば…」
。
こいつは、お笑いだと笑い声を浮かべて
…
「精霊は、あくまで霊体にすぎず…肉体など持たないんだぞ…。
それで、どうやって子供が生まれる…」
。
人間に取り憑いたとでも言うのか…と笑うナインクールに、シャルムは
…
「不治の病にかかった幼い娘がいた…」
。
そんな話しを始めて、それを聞いて…
「むっ…」
笑いを止めたナインクールの前で、さらに
…
「その幼い娘が、看取る母親の前で、最後の峠を迎えようとした時…母親の前に、銀の腕をした男が現れて…
その男は、セブンスソウルという本の中に宿った精霊の魂の一部を娘の魂に共有させた事で、
幼い娘の魂を人から精霊のものへと転生させて…娘の命を救った…
つまりシャリムは、精霊の魂と人の器を持った半神半人と言う事だ」
。
だからシャリムは、ハーフエルフ並の能力を持っているのだと、理由を話すと…そこから2メートルくらい離れた場所でナインクールは、
「なるほどな…」
言葉で頷いたあとで…さらに
、
「そういう意味でのニンフか…」
。
そう言って、そのあと…
「ところで…」
手の平を広げた右手をシャルムに突き出して
、
「お前は誰だ?」
聞きたかった事の本題に入ると…シャルムから
、
「誰だ…とは?」
予想通りの答えが返って来たので…そう言うと思っていたナインクールは
、
「ふざけるな…雰囲気も感じる魔力の大きさも…さっきとは、まるで別物だ」
。
静かな怒りを含んだ声で、そう言いながら頭の中で
、
(そうだ…確かにどこか似ているところがあったが…ただの他人のそら似だと思っていた。
だが…この感じは、まるで…)
。
そう考えているあいだに…右の手首を切ったシャルムが、
いつの間にか…そこから流れでる血を使って、自分の周囲に血の円を描き…
それから数秒も経たないうちに、その血の円から…ボシュッと、炎が燃え上がったので…
それで驚いたナインクールは、
「何!?」
。
シャルムに向けていた右手を下げてから…
タン!ターンと、2回バックジャンプすると…
シャルムを焼き尽くした炎の中から…
ナインクールと同じくらいの長身の男の人影が見え始める…
。
そして、その男の身体から発生した風で、周囲で燃え上がる炎が消し飛んで…男の姿が明らかになると…
バックジャンプして、穴の近くまで距離をとった…ナインクールの顔に
「バカな…」
動揺が走っていた…
。
シャルムと同じように少し長い銀の髪…
大きくなった黒いローブを着た長身の身体…
何より大人びたその顔が、ナインクールの知っている男と同じ顔だったのだ…
。
そして事実を受け入れた時…静かな怒りに震えていたナインクールのオーラが、大きな怒気を含んだ…まがまがしいものに変わり
…
「お前は…」
その言葉のあとに、ワナワナ…と怒りの表情で
、
「再びオレを裏切るために現れたと言うのか!ヘレルッ!!」
。
その魔法使いの男の名前を叫ぶと…
ヘレルは、それとは対象的に…冷静な表情で
、
「決着をつけよう…ナインクール…。
すべての戦いに終止符をうつために…」
。
そこから6メートルくらい離れた場所にいたナインクールにそう話し…
それを聞いて怒りに満ちたナインクールは、広げた右手の上に炎を…
左手の上に球状の小さな竜巻を出現させて…
ヘレルに向かって両手を突き出した事で、その炎と小さな竜巻を組み合わせて…そこから
…
「ふざけるなああ!!」
炎の竜巻をヘレルに向かって放つ
。
しかし…その直前にヘレルが突き出した右手のすぐ前に、2メートルくらいの光の縦線が出現して…
向かって来る炎を纏った螺旋状の風を真っ二つに切り裂くと、
2つに切り裂かれた炎の竜巻は、ヘレルを避けるように…斜め後ろの方に向かって行ったので…
それを見たナインクールは、
「魔法を受け流したのか…チッ…
相変わらず魔法というものを知り尽くしてやがる」
。
驚きの声をあげるが…だが驚いたのは、ヘレルも同様で
…
(バカな…前より魔法の威力が上がっている…)
。
一体どういう事だ…と、ショックを受けているあいだに…ナインクールから
…
「戦いの最中に考え事など…ふぬけたか!!ヘレルッ!」
。
30センチくらいの大きな火の球が放たれるが…
途中で縦に3つの…10センチくらいの火球に分かれて、ヘレルにせまって来たので
…
その直前にヘレルは、突き出した右手の前に…
青いガラスの色をした…頭のから膝の下まで守れる程の大きな壁を出現させて
…
「くっ…」
。
頭部。胸部。腹の下の方を狙ってきた3つの火球を、ドン!ドン!ドン!と、すべて防ぐが…手の平の前の青いガラス色の壁が消えた時…
その壁を作ったヘレルの右手に痺れが走る
…
ヘレル
(防御壁を広げた事で、魔法で受ける衝撃が強まったとはいえ…火球にこれほどの衝撃は受けなかったはずだ…。
至近距離で魔法をうけたからか…いや違う…
やはり前より魔法が強くなっているんだ…)
。
そしてヘレルが話す…
「手荒い歓迎のだな…」
。
その言葉を合図に…最後の戦いの幕があがるのだった…
。
《つづく…》