第30話《魔術師の目に映るもの》
―――《30話の続き…》――――
…
背中に当てた左手から…シャリムが少し震えているのを感じとったポチは
、
「ん?どうした?シャリム…」
。
声をかけたシャリムから
…
「どうやら…ポチさんの聞いた足音は、ナインクールさんのもののようです」
…
その事を聞いたポチは、最悪の状況になった事を知って
…
「な…なななナインクールだって!」
大ピンチじゃないですかーと…
閉じていた目を開きそうになったところに、シャリムから
…
「落ち着いてください、ポチさん。
まだ手はあります…」
。
そう言われて、
「本当か?」
…と聞き返すポチに、シャリムは
、
「はい。だからそのまま目を閉じて…心に映る目で、わたしのやる事を見守っていてください…」
。
そう言って、落ち着かせて…それを聞いて
、
「わかった。」
ポチが頭の中に浮かぶ映像を見ている中で…
シャリムが、魔法をかけるための意識を集中させると…
ポチ達のいるところから…入り口の近くに向かって、たくさんの光の文字が流れていき…
流れていった、たくさんの光の文字が…やがて3メートルくらいの円周を形作っていく
…
そして円周状に並ぶ、その多くの光の文字がある所に…
さらにシャリムの方から流れてくる…たくさんの光の文字が加わる事で、
その場所にある…多くの光の文字で出来た円周が、2段3段と積み重なり
…
そこからさらに…その文字だらけの円周が積み重なっていくところを…
頭の中に浮かぶ映像で見ていたポチは
、
(まるで文章で出来た塔だ…)
。
これが魔法をかける時に、シャリムが見ている世界か…と、驚いていた…
。
だが、のんびりしている暇はない…
とうとう、多くの光の文字で出来た円周を完成させたシャリムは、
どんどん近づいてくる…ナインクールの気配を感じとって…
その左手で、ポチの右手を握ると
…
「行きますよ!!ポチさん!」
。
近くにある、橋のような足場までに走って…
それに驚いて、目を開いたポチが
、
「お…おい?」
行くって、どこへ?と…聞こうとする中…
その手を繋いだポチを、引っ張って走った…シャリムは
、
「あの魔法陣がある中心部まで行きます!」
。
橋のような足場を利用して…魔法陣のある場所まで、一気に進むと…
そこで、入り口がある方に身体を向けてから…ポチにまず
…
「わたしの後ろに下がってください。」
…そう言って、
それを聞いたポチが…
「うぉふ。
じゃあ俺は、うしろの方で、応援してるからな」
。
そう答えてから…シャリムのうしろに下がると…
シャリムは、
「ありがとうございます。じゃあ頑張っちゃいますね…」
。
じゃんけんのチョキのように…右手の人差し指と中指を立てて、
その2本の指先を、額の前に近づけながら…集中していると…
なんか、うしろの方で立っていたポチが暇そうだったので…シャリムは
、
「ポチさん。目を閉じて、わたしの肩に手を置いて下さい…」
。
ポチに声をかけて、それでポチが言われた通り…目を閉じながら…
前にいるシャリムの右肩に、右手を置くと
…
「うおっ!なんか俺達のまわりにも、たくさんの光の文字が…」
。
ポチの言う通り…シャリムが、入り口の近くに作った文字だけで出来た円柱が…ポチとシャリムのまわりにも作られていき…しかも
…
ポチ
「円柱の周りに、もう一つの円柱が…」
。
ポチの言葉通り…それは…ポチとシャリムのまわりに作られていく…文字だらけの円柱の周りに…
さらに、円周に並ぶ文字が積み重なっていく…
。
その文字だけで作られていく…二重構造の円柱を、まるで立体映像のように…頭の中で見せられたポチは、この事について
…
「こんなに結界みたいなものを作って…
いったい何をする気なんだ?」
。
前にいるシャリムに聞くと…シャリムは
、
「外側にあるものは…
ポチさんの言う通り…防御するための結界みたいなものですが…
内側にあるものについては…隠し玉に関係する事なので、今は…話す事は出来ません」
。
そう話して…そのあとポチが…
「隠し玉?」
、
重要そうなキーワードを繰り返すと…シャリムは、二重構造になっている2つの円柱を作りながら
…
「そうです…
それの秘密をナインクールが知ったら…すべてが終わります。
だから…今は話す事ができないんです」
。
敵を騙すには、まず味方からという、ことわざがあるように…
より安全にシャリムの計画を実行するため…今、ポチには話せないのだと言う
…
その事から…ポチは、
(俺から秘密が漏れるのを防ぐためか…)
。
それだけシャリムが必死になっている事を知って、目を開くと…
「わかった。
俺も、それ以上は何も聞かない…」
。
何しろ相手は、あのナインクール…何があるのか分からないので…ポチは
、
「フレーフレー!シャ・リ・ム!頑張れ頑張れ!シャ・リ・ム」
。
ナインクールの方まで声が届かないように…少し控え目に、シャリムを応援すると…
それを聞いたシャリムも
…
「あ…ありがとうございます」
。
頬を染めながら…二重構造の円柱を完成させて
、
(そう…頭の中の情報処理を倍速にしたのは、魔法を短い時間で完成させるためでもあるんだ…)
。
だから…と、わずかな時間を利用して…隠し玉の準備に入るのだった…
。
―――――――――――――――
そして・・・
その11秒後に…この建物の入り口に入ったナインクールが、入り口を通りすぎた時…
額の近くに、右手の2本指を立てたシャリムが、すかさず
…
「えいっ!」
。
烈破の気合いを入れると…さっきシャリムが仕掛けた魔術文字のトラップが発動して…
目に見えない円柱の中に入った、ナインクールの身体に
…
「何!」
ドシン!と…ものすごい重力がかかる…
その音を、離れていたところから聞いてたポチが
、
「出オチか!」
…と叫び声をあげると…
その前で集中していたシャリムは、それを聞いて思わず
…
「もぉ…先制攻撃と言ってください!」
。
ポチに答える緊張感のない中で…戦いの火ぶたは、切って落とされた…
。
《つづく…》