第28話《始まりの物語》
ナインクールの魔法に…お腹を貫かれたシャリムが、その傷を塞ぐために…
目を閉じて、自然回復に専念していると…
「ハッ…」
。
目を開けた時…ポチが自分を背負って、歩いていたので
…
―――――――――――――――
【ポチ!早くシャリムを連れて!ここから離れるんだ!」
…
―――――――――――――――
…
そういえばあの時、シャルムに…
自分をおんぶするように伝えられたポチが…
暗闇の中で、ずっと自分をおんぶして歩いていてくれた事に気づく…
。
すると、背負っていたポチは、シャリムが目覚めた事に気づいて
…
「気がついたか…」
。
優しく声をかけるが…なぜか?返事が変えって来ないので…ポチは
、
(疲れているのかな…)
。
だけど…なぜか?小声で何か言ってるシャリムを放っておいて…そのまま歩くと…
その少しあとに…シャリムから
…
「ごめんなさい…ポチさん…さっきは、思考速度を速めるための魔法を使っていたので…答えられなかったんです」
。
そう言ってきたので…ポチは
、
「思考速度を速める魔法?」
…
それが何なのか?聞いてみると…シャリムは
、
「この魔法を使うと…集中や詠唱といった魔法を使うために必要なものを、
いろいろ短縮できるんです。」
…
つまり頭の中《脳》の機能を高める魔法らしい
…
それを聞いたポチが、
なぜ?そんなものを…と聞こうとした時に…シャリムから
…
「おそらく…シャルムでは、ナインクールさんを
そんなに足止め出来ないでしょう…」
。
だから…いつでも不足の事態に備えられるように…早めに手を打っておきたいんです…と言われたので…ポチも
…
「そ…そうか…悪かったな、邪魔して」
。
そう言って、会話を終わらせようとしたのだが…シャリムが
、
「いいえ…せっかくの機会ですし…お話ししましょ。ポチさん」
…
そう言うので…ポチは
、
「で…でも…お前…お腹の傷が…」
。
そもそも無事か…どうか…確認したかっただけなので…
長話は、身体に響くんじゃないか…と思ったのだが…シャリムから…
「平気です。
自然治癒は、会話しながらでも出来ますから…」
。
そう言われたので、ポチも…
「わかった。
シャリムがそこまで言うなら…話そう。」
…その話に乗って、
ポチの返事を聞いて…
「やった。」
…と喜ぶ、シャリムと話す事になった
・・・・・・
まず質問したのは、シャリムだった
…
「ポチさんは、もしここを無事に脱出できたら…故郷へ帰るんですか?」
。
それは、ポチの心を…少しでも明るくしようという…シャリムの思いやりだったのだが…
ポチの答えは、意外にも
…
「いや…帰れない…
家族に、少しでも裕福な生活をさせてやりたくて…都会に来たのに…
お金を稼げないどころか…こんなコボルトの姿になって…
恥ずかしくて…家族にも、村のみんなにも…会わせる顔がないよ…」
。
後悔の言葉ばかりで…そのあとも
…
「本当…これから、どう生きていけばいいんだろうな…」
。
迷っている事を、口にしていたので…シャリムは
、
「じゃ…じゃあ
わたしのために生きてください。」
…そう言って…それを聞いて、
「はっ?」
足を止めて、振り向くポチに
…
「その変わり…わたしが、ポチさんがいつか村に帰った時…胸をはれるような…立派な男の人になれるように…支えますから…
…ダメですか?」
。
そこまで言うので…ポチは、顔を前に戻して、歩きながら
…
「いや…だ…駄目じゃないけど…」
…そう答えると…
今度はポチが、シャリムに聞く番だった…
。
「な…なあ、お前…どうして…俺に、そこまでしてくれるんだ…」
。
今ふり返れば…シャリムは、最初からポチに親切だった…。
しかも…何となくだが…ポチの事を知っていたような…素振りを見せる事があった…
。
だからだろうか…ポチの背中で、シャリムは、洞窟の天井を見上げて
…
「昔…罪を犯した精霊がいました…」
。
はるか昔の物語を語り始めた…
。
「その精霊は、ここより…ずっと深い地の底に…閉じ込められていて…
顔以外の身体は、すべて氷に覆われていたので…身動きすらできなかったんです…。
でもある日…そこに、一人の人が、精霊の前に現れました。
そして…精霊の前に現れた人は…ずっと閉じ込められた精霊を可哀想に思って、百以上もの物語を精霊に話してくれました。
だけど…111番目の物語を語ってくれた時…
何も食べていなかった…その人は、風邪をこじらせて倒れ…
その風邪の悪化が元で、死んでしまいました…。
そして…その死を看取った精霊は、思いました…。
きっと…この人は、いつか生まれ変わる…。
だから…自分の罪が許されて…この身体が自由に動けるようになったら…
この人に会いに行こう…
そしてもし…その人が困っているようだったら…今度は、自分が助けてやろう…と…」
。
そして…その人間は、ポチの故郷の番犬族の村の人だった…と、話すシャリムにポチは
、
「もしかして…その精霊がお前で…人間が俺って、話じゃないだろうな…」
。
話を聞いてから…ずっと気になっていた事を聞くと…シャリムは、ポチの左肩に、自分の左の頬をすりつけて
…
「さあ…どうでしょう?
どう見ても…わたしは、人間の女の子ですよ。ポチさん…」
。
そう言うので…ポチは
、
「まあ、そりゃそうだが…」
。
でも…うまくごまかされたなあ…と思ったが
…
(でも、こんな軽い身体で、よく頑張ってくれてるよ…ホント)
。
そう思ったポチが…
「シャルム…大丈夫だよな…」
。
そう…シャリムに声をかけて、それに対してシャリムが
、
「いざとなれば逃げるように…念話で話してありますし…大丈夫です」
。
ポチを安心させようと…声をかけた時…そのシャリムの緑の目に
…
「あれは…」
。
なんと洞窟の通路の奥から…かすかな光が見えるではないか!
そんな、背中のシャリムの変化を感じて…ポチが
、
「どうした?」
…と声をかけると…シャリムが
、
「奥の方から、明かりが…」
。
そう言うので…ポチが、
「急ごう」
そう言って、足を速めると…シャリムから
…
「大丈夫ですか?疲れていませんか?」
、
小鳥のような可愛い声で、体調を気づかわれたので…ポチは
、
「心配するな。
俺は、負け犬と呼ばれるほど…部族の中でも逃げ足に定評のあった男だぜ。
ナインクールからだって、お前を背負って逃げてやるさ…」
、
犬のような口から見える犬歯を…どこかのマンガのように、輝かせると…
背中から…シャリムが、
(ど…どうしよう…
すごく格好いい風に言ってるけど…
言ってる内容が、ものすごく変…)
。
まるでどこかの親父ギャグを聞いた時のような…寒さを感じるのだった…
。
はたして…そんなシャリムとポチが明かりの奥で見たものとは
・・・・・・。
《30話へ続く…》