第27話《三者三様》
まがまがしいほどの赤いオーラを纏った…ナインクールが
、
「覚悟はいいな…ベンチュウ…」
。
仰向けに倒れているシャルムの後ろで、待ち受けていると
…
そこから6メートル離れた場所で…
後ろの2本足だけで立っていたベンチュウが
、
「魔法を使う暇は、与えないチュウ」
!
鼠の本来のスタイルである…4つ足となって、特攻をかける
!
そこで、ナインクールは、うしろに、1回2回3回…と、バックステップして、距離をとりながら…右の手の平を、
突進するベンチュウの頭部に向けて、光弾を放つが
…
頭部に直撃しても、ベンチュウの突進は止まらず…
ナインクールとの距離も、縮んでいくばかりだが…
(だが光弾が直撃した時…ベンチュウの勢いが確実に鈍った…)
。
あと一発で確実に倒せる…と、ナインクールが考えていると…
「何!?」
、
さっきナインクールがいた場所で、ベンチュウが急に足を止めて…
そこで仰向けに倒れているシャルムの黒いローブを、口に加えると…
それを着ているシャルムごと天井へと放り投げる
。
そして、宙に浮かんでいるあいだに…シャルムの身体が反転して、
仰向けから…うつ伏せの状態に変わると
…
その下で待っていたベンチュウが、
その状態のまま…空から落ちてくる、シャルムの身体を…背中で受け止めてから…
そのまま逆走して、ナインクールから逃げ出したので…
ナインクールにとって、予想外の展開となったが…
(まあいい…
どのみち奴は、もう長くはない…
それより今は…)
。
反対側の方に身体をむけて…コボルトや少女がいた場所に目をやると…
そこには…壁に背中が寄りかかったままのポチの姿と…
その前で、うつ伏せて倒れているシャリムの姿があったが…
ナインクールが、その周辺の地面の方に目をやると…かすかだが…奥の方まで、ポタリポタリと続く血の跡があった…
。
(なるほど…幻影の世界では、すでに先に行っているように見せかけたせいで…現実世界に戻って、その姿があると…
つい…そこにいるものだと思ってしまう…。
周りが暗い事も手伝って、確認する事も…おろそかになるからな…。
うまく人の心理を利用したものだ…)
。
少女は、おそらく…ここに来る前に、作戦をたてていたのだろう…
。
(そして、おそらく…オレと会話しているあいだも…あの少女は魔法を使って、少年の頭の中に指示を送っていた…)
。
それほどの少女だから…長く放っておけば…厄介な存在になると、ナインクールは
、
(しかし…あのダメージなら…いくらあの少女でも、回復するまでに時間がかかるはずだ…)
。
だから…シャリムが回復しないうちに叩くために…
シャリムとポチの後を追って…洞窟の奥へと進むのだった…
。
一方…ナインクールが行く方向から…逆の方向へ走っていたベンチュウは
、
(やっぱり…ただでは、すまなかったチュウ…)
。
首の右側に、氷の矢が刺さって…そこから血が流れていくせいで…
身体中から力が抜けていくのを感じていた…
。
(あの時かチュウ…)
。
そう…ベンチュウがシャルムのローブを、口に加えて、宙に放り投げた時に…
ナインクールが氷の矢を放って…それがベンチュウの首に刺さったのだった…
。
(だけど…休んでいる暇はないチュウ…
なんとか…この少年だけでも助けないと…)
。
ナインクールが自分達を追って来ない事など…
必死に逃げているベンチュウには、知る由もなかった…
。
だが氷の矢で、首から流れ出る血が…無情にも、
シャルムを乗せて走るベンチュウから、体力を奪っていく…
。
(わずかな距離しか走ってないのに…長い時間を走っているようだチュウ…)
。
だから、せめて…もう少しだけでも走りたかった…
多くの仲間達が待つ…あの場所へ…
。
そして…周囲の壁の色が、銅で出来たような金属の色から…
土や石ばかりある…洞窟の色に戻った時
…
首に刺さっていた氷の矢が溶けたせいで…大量の血液を失っていた…ベンチュウは、
シャルムも背中に乗せている事もあり…
もはや走る体力もなくなり…歩くようになると…
重くなった4つの足取りで、一歩…二歩…三歩…と、必死に歩いて…少し進んだところで
…
「…チュウ…」
。
ドスン…と、力尽きたように…横に倒れた…
。
(…あとは…一人で…頑張るチュウ…よ…)
。
横になった自分の背中の方で…仰向けになっているシャルムに…
頭の中で話しかけるベンチュウ…
…
せめて、多くの仲間達が逝く…この場所で眠る事が…救いだろうか…
。
―――――――――――――――
…
一方…その話しかけられた、シャルムの意識の中では異変が起こっていた…
…
【…目覚めよ…】
…誰かの声が聞こえる…
。
それは、意識の中でシャルムが
…
「だから!誰なんだ君は!」
苛立ったとしても…
【…目覚めよ…】
。
そう告げるばかりで…何も変わらなかったが…シャルムが
、
(待てよ…)
。
【彼】について考えた時…異変が起こった…
。
シャルムが【彼】について思い出そうとすると…
驚くべき事に、確かに【彼】の記憶がシャルムには、あった…
。
いや…正しくは【彼】の記憶の中にこそ…
本当のシャルムがいた…というべきか…
、
(…そうか…僕…いや私は…)
そして【彼】は、すべてを思い出した
…
・・・・・・
目を覚ますと…
側に、大きな鼠の死体があった…
。
立ち上がって、横たわった鼠の身体を、右手で触れると…
まだかすかに、暖かみが残っている…
どうやら死んでから…そんなに時間がたってないらしい…
。
この姿には、見覚えがある…
シャルムが魔法禁止区域となった場所を元に戻す時…力を貸してくれた大きな鼠だ…
。
「ありがとう…
ナインクールは、私が倒す。
だから今は、安らかに眠れ…」
。
ここまで自分を運んでくれた鼠に礼を言って、
【彼】は、ナインクールのいる洞窟の奥を目指す…
その先に待つ…宿命の戦いに決着をつけるために…
。
《28話へ続く…》