第4戦《星幽体の十字剣》
「降り注げ!!フォオリィルァイッ!」
。
カッ!!
、
ホーリーライトのまばゆい光で…思わず目を閉じたシャルム達が目を開くと
…
プスプスッ…と、ホーリーライトが直撃したところの周辺が薄い煙のようなものに包まれて…
どんどん薄くなっていく煙の中から…
やがて…暗闇の中で黄緑色の光を放つライトボーンの姿が浮かび上がってくる
…
地面に突き刺した刀の持ち手に両手をかけて
ホーリーライトに耐えきった、その姿を見て…シャルムは
、
「そんな…ホーリーライトは、アンデットに最も有効な…魔法の1つのはず…
それに耐えきるなんて」
…
思わず右足を一歩踏み出すと…
そのサンダルを履いた右足のつま先に、何か当たっている事に気づき
…
「入れ物?」
、
一度しゃがんで、その小さな瓶の入れ物を右手に取って
瓶に貼り付けてある紙の部分を見ると…
そこには、聖なる光止めクリームと書かれている
…
そう…日焼け止めが紫外線から肌を守るように…実は、ライトボーンは、このクリームを骨だらけの身体に塗っていたのだ…
。
(瓶の状態から見ると…使ってから、まだそんなに日が経ってないようだけど…
それまで冷凍とか…何らかの方法で、保湿とかされていた…と考えると…まさか…
誰かが魔法使いと戦う事を予想していた?)
…
そうでなければ日焼け止めでさえ…先進的な物である、この時代に…
こんなものを使うなんて考えられない…と、シャルムが思っているところで…
うしろにいたシュナウゼンが
、
「見ろ!ライトボーンの足元が…」
。
そう言われて、シャルムがその周辺の地面に目を向けると…
なんと!シャリムの描いた血の円いっぱいに光が広がっているではないか!
、
そこで、しゃがんでから…右手に持っていた小さな瓶を地面に置いて、
立ち上がったシャルムは
、
突き刺さった刀を、左手で地面から抜いて、シャリムのいる方に身体を向けたものの…
刀を持った左手が上がらず…
まるで全身が痺れたかのように…光の円の上で、一切動けない…
今、シャルム達に背中を向けている…ライトボーンの様子を見て
・・・・・・
空中に浮かんだシャリムが左手に持った剣で、ライトボーンの刀と打ち合いながら…
右手を動かした時の事を思い出し
…
(そうか…シャリムの目的は、ホーリーライトで敵を倒すのではなく…)
。
煙のようなものが晴れる前に何があったのか想像していた
…
―――――――――――――――
10秒前…
ライトボーンのまわりで、まだ煙のようなものが濃かった時…
突き刺さった刀から両手を離したライトボーンの
周りに広がる血の円の上に幾つもの光の文字が浮かび上がり
…
それをライトボーンの4メートル以上うしろから見ていた…シャリムは
、
(そう…わたしは…メタルグリーンを倒して…ここが魔法禁止区域になった時
ここに対魔法使い用の対策が、いくつかたててある事に気づいていた…)
。
だから…ホーリーライトが効かない事も、ある程度、予測していたシャリムは、ライトボーンの周りを飛びまわっていた時の事を思い出して
…
(だから…あの時わたしは、ホーリーライトの強力なエネルギーを地面に描いた血の円に吸収させて…
そのエネルギーを使って、別の魔法に作り変えるための術式を、右手の人差し指と中指の指先で描いていたんだ…)
。
そして…ライトボーンの周囲に円形に並んでいた、光の文字が、フッ…と消えてから…
ライトボーンが突き刺さった刀を抜いて
シャリムの方に向かおうとした時
…
すでに左足の膝を上げていたシャリムは、
右手のチョキの形で立てた2本の指先を額に近づけて、何かを念じながら…
ダン!…と、その左足で強く地面を踏むと
…
それに呼応するかのように…ライトボーンの足元の地面が、血の円いっぱいに光だして…
再利用されたホーリーライトのエネルギーが見えない力となって
その光の円の上に立つライトボーンの身体を縛る
…
―――――――――――――――
・・・・・・
それらの出来事を想像したシャルムの頭の中に
…
【そうです。わたしは、考えてました…ライトボーンさんを倒すのではなく…
ライトボーンさんの魂を、呪われた思念から切り離す方法を…】
。
…伝えられる…シャリムの言葉と共に…
4メートル以上先の方で、シャリムと向き合っている…ライトボーンの背後に、ライトボーンと同じ大きさの人影のようなものが出現して
、
シャリムは、目の前に突き刺さっていた剣の持ち手に左手をかけて…それを引き抜くと…
その剣を持った左手を下げたまま…スッ…と、その紫色に変えた目を閉じる
…
すると、どうだろう…
そこで立ち止まったシャリムの前に…
目を開けた、もう一人のシャリムが現れ
…
左手に持った剣を、いつでも振れるように身体の左側に構えて…
ライトボーンに突っ込むように…地面の上を滑って行くではないか
…
そして、そのまま滑るように突き進んで…ライトボーンの骨だらけの身体をすり抜けた瞬間!
ライトボーンの背後にいる人影に向かって
シャリムは、その時、振り上げていた左手の剣を、目にも止まらぬ速さで十字に振って
その人影をすり抜けると
…
すり抜けたシャリムの姿がスゥッ…と消えて…
そのシャリムが振った剣の刃の軌跡は…
ライトボーンの後ろの人影に十字の光を残す
…
そして、その十字の光から…影を喰いつくすかのように…ジワジワと光が広がって…
その広がっていく光が人影すべてをおおい尽くすと…その人影だった大きな光は…
まるで風で舞い散る桜の花びらのように…
たくさんの小さな光に姿を変えて飛び散った…
。
そして、血の円いっぱいに広がっていた光が、フッ…と消えて…
黄緑色の骨の身体だった…ライトボーンが、ただの白骨となり…
糸の切れたマリオネットのように…前の方に倒れると…
。
アストラル体を自分の身体から出すため…
右手同様に、剣を持った左手を下げたまま…ずっと目を閉じていたシャリムも
…
左手に持った双翼の剣が…役目を終えて、フッ…と消えた途端に…
力尽きたように仰向け倒れた
…
ポチが右手に持つ光の球の光によって…それに気づいたシャルムは、10メートル以上離れた場所から
…
「シャリム!」
、
駆け出して…
シャリムの前で両足の膝をついてから…
シャリムの頭の後ろに右手をかけて、助け起こすと
…
(使い果たした魔力を自動回復するために眠りに入ったんだね…)
。
そんな事を思いながら…シャルムが
シャリムが目覚めるのを待っているあいだに
…
そこから10メートル以上離れたところで…
シュナウゼンがポチの隣に行って
…
「この先に捜し物があるんだ…
手伝ってくれないか?」
。
そう言って、誘いをかけてきたので…
ポチは、シュナウゼンがシャリムと話していた時の事を…そこで思い出して
…
「ひょっとして…希望の箱の事ですか?」
、
そう言うと…シュナウゼンは、少し不思議そうな顔で、ポチの方を見て
…
「聞こえていたのか?」
…と、ポチに聞くと
ポチは、
「コボルトだから…耳と鼻は、いいんです」
。
丁寧に、そう答えたあと…シュナウゼンに
…
「ひょっとして…記憶が戻ったんですか?」
…
そんな事を聞くので…シュナウゼンは、少し小声で
、
「ああ…だんだん思い出してきたんだ…
だから、子供達が休んでいるあいだに…希望の箱を見つけて…
あの子達をビックリさせてやろう…」
。
そう言って、顔をシャルム達の方を向けると
…
「そう言う事なら…早く行きましょう…」
。
右手に光の球を持って、歩き出すポチと一緒に
子供達のいるところを追い越して…
さらに奥へと進んで行くのだった…
。
《25話へ続く…》