第21話《シャリムの推理》
《20話の続き…》
…
ポチが、行き止まりだったはずの壁を通りすぎていくと…
そこに見えるのは、横幅10メートルに高さは、7メートルはあろうか…
その先からは…先程洞窟の空洞より、はるかに広い空洞になっていた…
。
ポチは、その先で待っていたシュナウゼンと子供達のところに行って
…
ポチ
「けっきょくどういう意味だったんだ?
あの文字は…」
、
膝上までしかない丈の短い白いローブを着た少女に、壁に刻まれた文字の事を聞くと
…
シャリム
「あれは、実は…わたし達の目に壁が見えるせいで、行き止まりの壁があると思いこんでいるけど…
あの壁は、本当はただの幻覚で…いつでも通りすぎる事が出来るんだよ…っていう意味なんですよ」
。
そのためのヒントが、壁に刻まれた文字の中に隠されていた事を話し…
それに対してシャルムが、紙に書かれた3つ目の制約の事を持ち出して
…
「でも…あの紙に書かれた制約は、かなり前に書かれたものに思えるけど…
そんなに長く幻覚の魔法って…維持できるものなのかなあ…」
。
魔法の効力がそんなに持たない事を話すと…シャリムは
、
「まずは、歩きましょう…」
。
このまま立ち話をしていても仕方がない…とばかりにシャルムと一緒に前列を歩き
…
シャリム
「これはあくまでわたしの仮説ですが…シュナウゼンさん」
。
シュナウゼン
「ん?」
ポチと一緒に
後列を黒い靴で歩くシュナウゼンに
、
シャリム
「今までこの洞窟ですごしていて…何か不思議な事はありませんでした?
例えば知らないうちに、あの文字の刻まれた壁の近くにいたとか…」
。
そんな事を聞いてくるので…シュナウゼンは、
そのままシャリムのうしろを歩きながらも…何かを思い出すように…
顎の方に、右手の曲げた人差し指を近づけて…
、
「そういえば…ときどき目に見えない力に操られていたような…
催眠術にでもかかっていたのかな?」
。
そう言って…顎の方から右手を離すと…
その前を歩くシャリムは
、
「?…おそらく誰かが…シュナウゼンさんがあの場所で、定期的に幻覚の魔法を使って幻の壁を作るように…催眠術をかけたのでしょう…。
だからシュナウゼンさんは、火球の魔法以外にも幻覚の魔法が使えるはず…
違いますか?シュナウゼンさん…」
。
そうシュナウゼンに聞いて…うしろから…
「その通りだ。」
…とシュナウゼンの答えが返ってくるので
、
シャリムの隣で歩いていたシャルムが、
「そうか…
そういう理由なら確かに納得できるもんね…」
そう話しているうちに
…
シャルム
「うっ…なんだ?この臭いは…」
。
自分の鼻に、肉が腐ったような臭いがかかっている事に気づき…
、
それは隣を歩くシャリムも…
「ん。」
、
後列を歩くシュナウゼンも…
「うっ…」
。
コボルトであるポチに至っては…強烈に…
「ふごっ!ふごおお!」
、
その臭いに苦しんでいたので…
シャルムが、この臭いの元がなんなのか…周りを調べてみると
……
シャルム
「大鼠の死体か…」
、
洞窟の壁の近く等に…
60センチくらいある大鼠の皮や肉が、食い破られ…
内蔵などが出ているのを発見する。
…
しかも、そんなふうに骨などが飛び出た大鼠が…その周りにも5、6匹くらい倒れていた…
。
シャリム
「共食いのようですね。
たぶん…自分達が食べる食料がなくなったから…
こうするしかなかったのでしょう…」
。
それを聞いたシャルムは
、
「だけど他にもあちこち、こういう死体があるのが見えるし…
息を止めて歩き続ける事なんてできないから…」
。
なんとかしてくれ…と、隣を歩くシャリムに頼むと
…
シャリム
「仕方ないですね…。
みなさん止まって下さい。」
…
そう言って…白いローブを着た少女は、足を止めた者達を一ヶ所に集めると…
集まった3人と向かい合って
…
シャリム
「我が周囲に散らばる香りの欠片よ。
我が心に描く母のぬくもりを清浄なる流れに乗せて…我が周囲に広めよ…」
。
上に向かって、かかげた右の手の平に、シュワシュワ…と光を集め
…
「ビナーフローレ!」
右手の手の平に集めた光は、シャリムの掛け声と共に…数えきれないほどの光の粒となって、分散し…
それらの光の粒は、まるで風で舞い散る花吹雪のように…シャリムと、
シャリムと向かい合うポチ達3人の周りをバニラのような香りと一緒に包み込む…
。
そしてシャリムは上げた右手を下ろしたあと…みんなに
、
「一定時間、わたし達の周りを、バニラのニオイが包み込むようにしました。
これでしばらくは、ニオイの事もあまり気にならないはずです…」
。
そう言ってから…右手に光の球を持ったシャルムと一緒に先頭を歩き…
子供達の後列をポチとシュナイゼンが歩く事で…少し先に進むと
…
周りに見えていた大鼠の死体が…だんだん見えなくなって来たので
…
子供達のうしろを…シュナウゼンと一緒に歩いていたポチが…
一息ついても良いかな…と思った時
…
シャリム
「何か来ます。」
…と、シャリムが言うので…隣を歩くシャルムが、右手に持った光の球で…ずっと前を見ようとすると
……
10メートルくらい前の方に…ものすごく大きな鼠がいるのを発見して
…
シャルム
「このくらいの距離で、あのぐらい大きく見えるって事は、やっぱり…」
、
そう言って、立ち止まると…隣にいるシャリムも
…
「2メートルは、あるんじゃないでしょうか」
…
そう答えて、立ち止まり…そして前列の二人が立ち止まったせいで…
後列のポチとシュナウゼンも立ち止まって、様子を見るのだった…
。
…はたしてポチ達は、このピンチを切りぬける事が、出来るのだろうか
・・・・・・
?
《22話へ続く…》