第1話《明けの明星と宵の明星》
―――――《惑星エル》――――
。
地球の7分の1くらいの大きさであるこの星では、マーズ帝国と呼ばれる、軍事国が世界の大半を支配していた…
。
そして、パンテオン《万神殿》と呼ばれる建物の地下の一室の中で、檻に閉じ込められた、コボルトがいる…
。
人間のような体格に身体をおおう茶色の毛並…そして雑種の犬を思わせる犬の顔…
、
だが…このコボルトは、かつて人間だった…
。
ガブ=イノザ…
人間だった時の彼の名前
・・・・・・
かつて、人間として生きた記憶は、今も残っている…。
しかし・・・
現在は、生きた実験材料として…檻の中に、閉じ込められていた
…
―――――――――――――――
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部屋の大きさは…周囲8メートル四方…
高さは、3メートルくらいは、あろうか
・・・・・・
その中にある檻の大きさは、周囲4メートル四方で…
高さが2メートルちょっとと、いったところだ…
。
鉄格子で、出来た檻の入り口のところには…
皿の上に盛ったシチューが置いてある…
。
コボルトは、檻の入り口のところへ行って…あぐらをかくと…
その毛深い両手に持って、そのままペロリとシチューを平らげる…
。
すると…そのあと皿を床に戻して…
ハァーと、ため息を吐いた…
。
実験動物として、このまま一生を終えるのか…
そんな考えが…薄暗い部屋の、檻の中にいる彼の頭を支配する。
…しかし
・・・・・・
ガチャリ
。
部屋の入り口の扉を開ける音と共に、彼の新たな人生が始まった
…
―――――――――――
。
薄暗い部屋の入り口が開いた音と共に光が差し込む
…
そのおかげで、灰色だったコボルトの視界が、少し明るくなったようだ…。
…それから
…
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???
「あっ、いたいた。
シャルム。コボルトさんがいました。」
…少女の声が聞こえる…
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。
???
「そう…やっぱりここに、閉じ込められていたんだね。」
続いて聞こえてくる少年の声…
。
コボルトが視線を、部屋の入り口の方へ向けると…
そこには、少年と少女が立っていた…
。
あぐらをかいていたコボルトは
…
(これは、また…ずいぶんと幼い二人組だ…)
。
そんな事を思いながら…目の前に現れた二人の子供の姿を見てみると
…
―――――――――――――――
。
少女
「ん?コボルトさん、こっちを見ています」
。
少女は、肩まで届くようなフワリとした金の髪と、
エメラルドのような大きな緑の瞳が印象的で…
白いローブを着たその姿は、まるで陶磁で出来た人形のようである
。
少年
「やっぱり…僕らが、ここに来た理由が、まだ分からないようだね…」
。
それに答える少年は…
耳の前の、もみあげの髪が肩にまでとどき、男の子にしては、多少伸びている銀の髪と…
大きな青い瞳が印象的で、少女と見まごうばかりの美しい容姿をしていた…
。
そして…その少年は、白い肌をした少女と違い…日に焼けたような肌の色をしていて
…
胸の上の所に、青い宝石の飾りがついた、黒いローブに身体を包んでいた
…
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。
コボルト
(服装から見ると、どうやら…裕福な家に生まれた子供達のようだ…)
。
それが二人を見て…コボルトが最初に思った印象だった…
。
少女
「檻の中に閉じ込められていたんですね…。可哀想に…」
。
いつの間にか…檻の入り口のところに立っていた少女が…
その入り口の扉の鍵を差し込む所に…右手をかざす
…
すると…その右手のまわりが…ポワァッ…と青い光に包まれて…
それを見たコボルトが、
「やめろ。
ここの扉は、魔法でロックされたものだ。」
…
失敗したら警報みたいなトラップが、発動するかもしれないと言っても…
膝の上までしかない丈の短いローブを着ている…その少女は
、
「心配いりませんよ。」
…そう言って、微笑みながら…
右手から発する光を…フッと、おさめた
。
そして…青い光が消えると…
。
カシャン
。
それと同時に…ギィーッと、鉄格子の扉が開き…
コボルトは、
「まさか…ロックが解除されたのか?」
…と驚いた犬の顔で、白いローブを着た少女を見て…それから
…
「ここをロックしたのは、俺を改造した魔導師達だ。君達は一体、何者なんだ?」
、
そんなコボルトの質問に
…
「わたし達は、あなたと同じように…
ここに、軟禁されていたものです。」
…
そう答える少女の姿を、あらためて見ると…
90センチにも満たない身長で、本当に幼い事が…見てとれた…
。
(…でも…それにしては、対応が大人みたいに、しっかりしている…)
。
そんな事を思いながら、コボルトが立ち上がり
…
そこから、少し歩いて…鉄格子で出来た檻の外へ出ると
…
少女より足元の丈が少し長い黒いローブを着た、銀髪の少年が…
コボルトの方に歩みより
…
「このパンテオンの中に、閉じ込められた者同士…仲良くしようよ」
。
右手を差し出し…握手を求めてくるので…
コボルトも…
「物好きな連中だな。」
…と、右手でそれに応じると…
握手をした、この少年も1メートルくらいしか…身長がない事が分かった。
…
それから…少年は、部屋の入り口の…扉の前で待っている少女と、並び立って
…
「僕は、シャルム。
隣のこの子は、シャリム。」
、
少年が自分と一緒に…右隣に立つ少女を紹介すると
…
少女も、お腹の前に両手を組んで…
「コボルトさん。よろしくお願いします…」
。
ニコリと微笑みかけるので…コボルトも
…
「俺は、ここでは、ポチと呼ばれていた…」
だからポチでいいと…自己紹介をすると…
それを聞いた少女が、
「ポチ…さん…」
独り言のように…ポツリとつぶやく
…
その時にポチも、シャルムとシャリムを見比べて
…
(それにしても、この二人…容姿がそっくりだ。
双子かな?)
、
そんな事を考えていると…シャルムが
、
「まずは、僕達が軟禁されていた部屋へ向かおう」
…
今後の対応について話してきたので、ポチは
…
(なぜ?わざわざ…そんな場所に?)
…と、多少疑問に思ったものの
…
「分かった…」
。
自分を檻から出してくれたこの少年を信じる事にして…
目の前にいる少年、少女と一緒に部屋を出るのだった…
。
《第1戦へ続く…》
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―《魔法陣について》―
、
第1戦の魔法陣についてですが…
、
シャルムやシャリムによって書かれた魔法陣は、
…だいたいは、円の中に…六芒星と、さまざまな魔法文字が、描かれていますが…
、
その魔法陣は、敵などに、見つからないようにするために…薄い色で、書かれています…。