第9話《長方形のバスケット》
出かける前…
。
シャルム
「じゃあ、行こうか!」
。
銀の髪の少年に声をかけられた、ポチが
部屋から出るために…扉の前に立つと
…
「ポチさん。」
、
もみあげのところの金の髪が、肩にかかっている
少女がパタパタ…と、駆け寄って来た
。
シャリム
「ポチさん。水筒は、持ちました?」
。
ポチ
「ああ…
リュックの中にあるけど、それよりどうした?」
。
何かあったのか?
…と尋ねるポチの前に
、
シャリムは、小さなバスケットを両手で突き出すように差し出して
、
「きのう作ったお弁当です。
これも、リュックの中に入れてください」
。
そう言うので…ポチは、それを両手で受け取ると
、
ポチ
「ちょっと開けてもいいか?」
、
シャリム
「いいですよ。」
、
機嫌の良い時の子猫のような…微笑みを浮かべながら…返事を返すシャリムの前で、
バスケットのふたをパカッ…と、開けてみると
…
ポチ
「これは…」
。
ふたの開いたバスケットの中には…カレーパンらしきものが3つ入っていたので…
それを見て、ポチが
、
「カレーパンにしては、
パンの生地が厚すぎるんじゃないか?」
、
しかも…まだ十分に生地が焼きあがってないぞ…と言うと
…
子猫のような笑顔を浮かべていた…シャリムは
、
「実は、このパンは食べる直前に…炎の魔法で、パンを焼く事で…
おいしいパンになるようにしてあるんです…」
。
ですから…いつでも
アツアツのホクホクで召しあがれますよ…と、優しく緑の目を細めるので…ポチが
、
「…そうか…いろいろ気を使わせて悪いな…」
。
そう、お礼を言うと…シャリムの笑顔が、一変して、照れくさそうな顔になり
…
「そ…そんな事ないです!ポチさんが、喜んでくれるなら…
わたしは…わたしは…」
。
そう言って…頬を薄紅色に染めていると
…
それまで、たまに様子を見たりしていたシャルムが
、
「シャリム。
無理しなくていいよ。
君は、ポチの事。好きなんだろ。
好きなら好きって、言っちゃいなよ。」
…
そう言って、からかうので…
シャリムは、頬を膨らませて
「もぉ
シャルムったら…」
。
そのあと…なるべくポチと目を合わせないように…
恥ずかしそうに…うつ向く…
ポチは、そんなシャリムの姿を見て…
(コボルトなのに…
俺の事、気に入るなんて…変な子だなぁ…)
。
それとも…そういう恋愛みたいなものに憧れる年頃なのかな…と、思いながら…
バスケットのふたを閉じて…
。
ポチ
(おそらく…今朝のカレーのあまりを中に入れてあるんだろうな…)
。
今朝のカレーは、とてもおいしかったし…
これは楽しみだと…ポチは思った…。
…
もちろん、この先…それを楽しめる余裕があればの話だが
・・・・・・
―――――――――――――――
・・・・・・
そして現在…
中に、秘密の通路があると噂される部屋に向かって、歩いていると
…
シャルムが、隣を歩くポチに…
「ねぇ…ポチ。
なんで?衛兵がつけてた兜なんて持ってきたの?」
…と、呆れた顔で話す
。
そう…シャルムの隣を歩くポチの手には、
なぜか?子供達の部屋の近くで倒れていた…衛兵の兜があった
。
ポチ
「いや…何か、かぶれないかなぁ…と思って…」
。
シャルム
「コボルトの頭は、犬の頭みたいなものなんだから…ポチに、その兜がかぶれるはずがないよ」
。
ポチ
「そんなに、はっきり言わなくても」
…
そう言って、立ち止まってから…しゃがんで、地面に兜を置いたあとに…
また立ち上がって歩くポチに…
ポチとシャルムの前を歩くシャリムは
、
「ポチさんって…ときどき分からないです。」
…と、少しうつ向いて…
はぁ…と、ため息を吐くのだった。
・・・・・・
そして、さらに先に進んで…目的の場所に近づいた時…
ふと、シャリムの足が止まる
。
そのすぐうしろで、足を止めたポチが、
「どうした?」
…シャリムに聞くと…
キッ、と表情をひきしめたシャリムが、
「来ます。」
…と言う通り…1〜2〜3…3人だろうか?
ポチと子供達のところに、何者かが…近づいて来るのだった…
。
《つづく…》