1章 第6話 『武装能力』
時雨は剣を振り回し追いかけてくる。
その剣先を必死に避けながら逃げ回る俺……。
「おい、パル! 俺も彼奴みたいに剣とかなんか武器召喚できないのか!?」
俺は息を切らしながら叫んだ。
「あ、そういえば武器のことをまだ話してなかったね! それじゃあ、簡単に説明するよ……『太陽の紋章を持つ者は、炎の力を纏いし弓矢』 『雲の紋章を持つ者は、雷の力を纏いし槍』 『雪の結晶の紋章を持つ者は、水の力を纏いし鎖付き鉄球』 『土の紋章を持つ者は、大地の力を纏いし大鎌』 それで、今追いかけてきている少女の紋章は『木の葉の紋章』だね……『木の葉の紋章は、風の力を纏う剣』だよ! ついでに言うけれど、皆んな武装能力で召喚できる武器は一人につき一種類だからね!!』
パルが自信満々に言い切ったとほぼ同時に、俺はツッコミを入れる。
「いや、俺の『三日月型の紋章』の説明がされていないんだけど!!?」
「あ、忘れてた……ごめんごめん。 『三日月の紋章』の武装能力は『複製』だよ!」
『複製』と聞いて俺の顔が「は? 何言ってるのこいつ??」的な、まるで魂が抜けだしているようなポカーンとした表情に変化する。
その顔を見たパルが『複製』についての説明を始める。
「『複製』っていう武装能力は名の通り、魔法少女の武装能力をコピーできるんだ」
「え、そんなのチートじゃん!」
俺は『複製』という能力の説明を聞いた途端に浮かれていたら、パルが『チート』だということを否定した。
「そんなことはないよ……この能力には代償があるんだ。 その代償とは、相手の攻撃を受けることだよ」
「攻撃を受ける?」
またも俺の眉間に疑問を表すシワがよる。
「そう、攻撃を受けるんだ。 理由は武装能力で造られた武器で攻撃されたことにより、その攻撃された武器が自分の武器としてコピーされるからだよ。 しかも、攻撃を受けることによってコピーされた武器を一度に二つ持つことは不可能なんだよね。 例えば、まず最初に剣で攻撃されてその剣を複製したとする、次に槍で攻撃されたとしたら、その槍が剣という能力の上に上書きされるからだ。 しかし、同時に二つの武器を持つ方法は無いわけではないよ。 死んだ魔法少女の武装能力を受け継ぎするんだ……まあ、受け継ぎも複製と同じ理由で同時に二つ持つことはできないけどね」
「長ったらしい説明でよくわからなかったが簡単にまとめると、二種類のコピーがあって、その両方の能力を使わないと武器は二つ以上持つことは不可能ってことで良いんだな? それで現状、俺は何の武器も召喚することができないと……」
「うん、そうなるね!」
パルが元気よく頷いた。
それに合わせて俺の顔色が段々と悪くなり……。
「『そうなるね』じゃねぇよ! もうこんなの勝ち目ねえじゃねえか!!」
魔法少女になってからずっと胸が痛むほど不安だったのだが、俺はさらに不安になった。
だがしかし、この不安な気持ちを抱いたまま殺されるわけにも、逃げ続けるわけにもいかない……。
(……一か八かの大博打だ)
俺は誰にも聞こえない程小さな声でそう呟くと、しつこく追いかけて来る時雨の元へと真っ直ぐ飛んで行った。 その速度はまるでジェットエンジンが搭載しているかのようなとてつもない速さだった。
「うぉおおおおおお!!!!!」
「なにあいつ、何で私の所に向かってくるの!? あまりの恐怖に頭が狂ったの?! それか元々の気狂い?!それともそれとも、何か凄い秘策でもあるというの!?!?」
俺のいきなりの行動に動揺し、時雨の動きが一瞬止まる。
(今だ!)
行動が止まっているうちに、俺は右手の人差し指だけを伸ばして時雨の元へと直行し、通りすがると同時に風の力を纏う刀の刃先に素早く触れた。 そして、刃先に触れた指先には切り傷ができていて、其処からは少量の血液が流れ出ていた。
「フッ! 成功、成功……ダメージを最小限にして『複製』する方法がな!!」
俺は時雨から逃げている時に気まぐれで考えついた作戦を成功させると、顔をニヤつかせながら時雨の刀と瓜二つの『風の力が纏った剣』を召喚した。
ただ、召喚の仕方は時雨と異なり光の中からじゃなく闇の中からだった。 まぁ、手の平からという召喚方法は全く変わらないが……。