1章 第5話 『雲海の上にて』
「契約? それに仲間ってなんだ……? 俺の他にも魔法少女が存在しているのか?」
そう質問すると同時に、謎の緊張感で俺は肩にぐっと力が入った。
パルの体は、そんな俺の目の高さまでゆっくりと降りてくる。
「うん、闇の魔法少女 “六人” と光の魔法少女 “四人” が存在しているよ! まだ光の方の雷の席に選ばれし者が見つかってなくて、一人欠員だけどね……」
「マジかよ、じゃあ最大で十一人も……」
そう驚きつぶやいた瞬間……。
「やっと、見つけたわぁあああ!! 闇の魔法少女ぉぉおお!!!」
「!?」
見知らぬ少女の叫び声が空に響き渡った。
俺は急いでその声のする方を振り返り息を飲んだ。
なんとそこには、月光を浴びながら白鳥のように白い翼を羽ばたかせて、こちらに向かってくる者……魔法少女が居たのだ。
「パル、あいつは仲間なのか?!」
俺は震えで制御できない体をなんとか捻らせパルに聞く。
「違うね、アレは光の魔法少女だ……それに丁度今、駒は全て揃った……神のデスゲームの開幕だ!!」
両手を大きく広げて『神のデスゲーム』とやら理解不能なことを叫んできた。
そして、パルに一言の言葉を返す余裕も無しに、戦闘はいきなり始まった。
相手の力強い拳骨が溝うちにめり込む。
「ーーーーーーーーーーガハッ!?」
ツインテールの金髪で、色白で獰猛な顔立ちの魔法少女と近距離で目が合う。
なんと言う迫力。 体が硬直し、喉がカラカラになる。
恐怖のあまり、幹雄は抵抗することもなく、無言の銅像と化してしまった。
「なによ。 貴方、動かないんじゃ戦いづらいじゃない!」
光の魔法少女は恐怖で固まる俺に、情けをかけるような冷たい視線を送りながら手を真上にあげた。
すると、手の平が多量の眩い光を発し始め、その光の中心から、ゆっくりと鋭い剣の先が見えてきた。
「なにを怯えているの? まぁ、もうあんた死ぬから怯えても無理ないわね……なんにも抵抗しない相手を殺すのは私のポリシーにかける気がするから名前ぐらいは名乗ってあげるわ……私の名前は “中山 時雨” よ」
(その名前、何処かで聞いたことがあるような……)
時雨が自分の名前を名乗り終わると、手には光り輝き緑色の風を纏う神々しいデザインの白く長い日本刀を握っていた。
その刃先で俺を八つ裂きにしようとしているのだろう。
パルは殺されそうな俺のことを助ける様子も無しに、ただ見守っているだけだった。
「じゃ、さよなら」
時雨は剣を高々と夜空に向かってあげると、物凄い勢いで振り下ろしてきた。
その時だった。
俺の右胸の三日月型の痣がドス黒い光を放った。
「え!? なによこれ、眩しい!?」
時雨は光を避けるように剣を持っていない方の腕で目を覆い隠した。
その隙に俺はやっと緊張が解けて体が動かせるようになり、パルの身体を掴むと翅を勢いよく羽ばたかせて時雨と距離をとった。
その行動に時雨は直ぐに気づいて幹雄の姿を追い掛ける。
「なに逃げてるのよ!」
「うわ、追いかけてくる!? なぁパル、そういやさっき言っていた神のデスゲームって何なんだ?!」
パルは飛行速度と比例するように段々と早口になっている俺の言葉を聞き取るとこう答えた。
「全知全能の神『ベプスロン』のお遊戯さ……ルールは簡単、この街に散らばっている魔法少女が光と闇の五対五に別れてどちらかを一年以内に全滅させるだけのゲームだよ! もしもその一年という期間内にどちらかが全滅しなかったら、魔法少女の全員が死ぬよ! そしてその一年というカウントダウンは今さっき始まった! 光の魔法少女の雷の席がやっと選ばれたからね……今日は七月七日だから丁度一年後の七月七日に光の魔法少女達を全滅させれば良いんだ」
俺は『五対五』という言葉にとてつもない疑問を抱いた。
「え? 闇の魔法少女は今六人存在するんじゃ……?」
そう言うと、パルは俯いて深いため息をついてから、俺の顔を見つめた。
「僕が、六人目に君を選んだんだ。 幹雄は神に選ばれなかったけど、僕が選んだ」
「……なんだって? それはどういう意味なんだ!?」
俺は困惑した。
そんな様子を視界に映すパルは笑う……にやにやと意地悪く。
「幹雄には、このゲームや僕の救世主になる素質が見えたからね……利用させてもらったんだよ、その代わり悪いようにはしないさ! それよりも背後を見てごらん、時雨っていう少女がもうそこまで来ているよ!」
「え? マジかよ!」
振り返ってみると、もうお互いに手を伸ばしたら届くぐらいの距離まで迫ってきていた。