1章 第28話 『正体』
ーー時を少し遡り……
「はぁはぁ…………何なんだお前は……?」
源氏は月明かりの中……雲海の上にて釣竿を持つ男へ言った。
「おれぇえええぇ…………の、正体ぃ……??」
男はそう答えると、静まり返る空間の中でニヤリと笑みを浮かべる。
源氏この態度に呆れたように、ため息をついた。
と、
男の糸を操る腕が再び動き出す。
「俺ぇを……楽しませるぅことぉがぁぁあ……できたらぁぁあ……正体いぃぃ……教えなくもないぃよぉおぉ……??」
そう不気味な声で男は言うと、物凄い速さで両腕を一点から多方向に動かした。
途端に、源氏の頰に小さな切れ跡が出来て……其処から少量の血が垂れる。
「なんだ? 急に頰が……っ!?」
源氏が唐突に出来た頰の切り傷に戸惑っていると、次は左肩に痛みを感じた。
「………………っく!!?」
左肩に目線を向けると、痛みを感じる部分を覆う布生地の箇所に、刃物で切りつけられたような跡があった。
「こ……コレは…………そういうことだったのか」
源氏は、服の切れ口や頰の傷を再度確認しながら言う。
「この切り傷は、お前が糸を使い生み出した真空波によってのモノなのかい?」
「……ここには……お前ぇと俺ぇぇ……以外のぉ……誰もいないぃぃ……」
「その物言いだと、私の考えは正解だってことだね?」
源氏はそう言い切ると、誰にも聴こえないぐらいの声で……とても小さく呟いた。
すると、
源氏の槍先から激しい音や光と共に雷製の龍が、男へ向けて一直線に放たれる。
「もうお前の正体なんてどうでも良くなった……これで、おしまいにしよう……」
そして、雷の龍は男を喰らうように取り込んだ。
源氏は男が電流で侵されて全身が黒濃く灼き焦げるまで見届けた……。
が、
おかしなことに、さっき戦闘不能になった筈の男の声が背後から聞こえた。
それも、物凄く近い。
「……お前ぇえ……俺のことぉ……まぁまぁ楽ぉしませてぇ……くれたぁ……だから少ぉし教えてぇやるぅ……俺の正体はぁ……『魔女狩り』だぁ……」
そう聞くと同時に、源氏は後ろを振り返るが……男の姿は、もう何処にも見えなかった。




