1章 第23話 『大切な人 ②』
「遅れてすまん……って……えぇ??」
俺は楓の目の前に到着し、謝罪と共に呆然とした。
覇気を失い、今にも泣き出してしまいそうな楓が其処に居たから……。
と、
楓が俯いていた顔をゆっくりと上げて、俺に視線を合わしてくる。
瞬間、涙で潤む瞳と目が合った。
このような状況は初めてだ。
正直、逃げ出したくなるくらい空気が重い。
でも俺は、楓をこのまま放っておくことができなかった。
此処で逃げ出してしまったら何か大事なものを失いそうな気がしたからだ……それに、なにより楓は仲間であるから。
……とりあえず、なぜ泣いているのかを訪ねる。
すると、
楓は生気がない声で言ってくる。
「…………家でおばあちゃんが…………倒れているの……」
「…………?!」
俺は少し驚きながらも、呼吸を落ち着け口を開く。
「なんで、そんな一大事にこんな所に居るんだよ?!」
「…………え? …………待ち合わせをしていたから。 昔おばあちゃんに多少遅れたとしても、約束は守らないと駄目って……」
「こんな時は、約束なんてどうでも良いんだよ!!? 約束を守れなかったら後で謝罪すれば良いだけだっ! …………少なくとも俺との約束はなっ!!」
ごくりと唾液を飲み込むと、意を決して唇を開いた。
「今すぐ、倒れている婆ちゃんの所に行くぞっ!!」
「…………うん」
不安に胸を握り潰される感覚を身体に秘め、楓におばあちゃんの居場所の道案内を頼み、走り出した。
その後、前進する足に続き、声を発していく。
「なぁ、婆ちゃんはいつ倒れたんだ?」
「…………私が夕飯のおつかいを頼まれて、外から帰ってきた頃には……」
「それは、何時ぐらいだ??」
「…………午後六時半ぐらい……」
楓の声は覇気の無いままだったが、驚くべき言葉を続けてきた。
「…………おばあちゃんは……私のたった一人の家族なの……」
その一言に内心もの凄く驚愕すると、数秒前より不安が押し寄せてきた。
「…………そうか。 そんなに大切な人だったら絶対に救わなきゃな」
「…………うん」
そういえば、さっきから気掛かりなことがあるんだが……。
「なぁ、救急車とかって電話で呼んだりしていないのか??」
「…………してない」
俺を案内する楓の口元から、衝撃の一言が鼓膜に響き渡る。
「本当に?」
「…………本当」
さすがにコレは有り得ないと感じたが、俺は冷静を保ち、制服のブレザーのポケットに手を入れて携帯を取り出すことにした。
が、
携帯がどこにも無い……。
そういえば、カバンの中にしまっていたんだった。
今カバンは、俺の家の玄関に置いてある。
俺は脚を素早く動かし、道を駆け抜ける速度を増した。




