1章 第22話 『大切な人 ①』
学校が終わり、一戸家のマイホームへと帰ると、妹の千夏が珍しく玄関までお出迎えに来てくれた。
時刻は、夜空に月が浮かぶ午後八時半。 いつも家に着く時間よりも二時間ばかり遅い。
「ただいま、千夏……」
俺は残り少ない体力を限界まで絞り出して挨拶を交わし、重たい教材が入っているカバンを床に置きながら、その場に座り込む。
と、
笑みを浮かべる妹に一つの質問をされた。
「ねぇ、お兄ちゃん! 今日学校に星零さんが転校して来たって本当!!?」
一体そんな情報がどこから妹へと伝達したのやら……という疑問が脳裏に浮かんだのだが、今日の所は千夏の問いに対して頷くだけで辞めておこうと思う。 下手に話を切り出して、希少な体力回復タイムが長話で潰れるのは嫌だからな……それも、星零関連の話で。
それにしても、今日は散々だった……。
朝のホームルーム後、担任が星零の座席場所について悩んでいると、偶然にも俺の後ろに謎のスペースが有ると誰かが気づき……結果、真後ろに新たな机が置かれてしまうなど、昼休みに職員室へ呼び出され星零が朝に何故の俺の名前を叫んでいたのか訊かれるし……何より放課後の帰り道が地獄そのものだ。
真夏の熱射が大地へと降りしきる昼間の帰り道、星零が鬼ごっこと称して俺の事を物凄い速さで追いかけて来たりと……説明したらキリが無い。
俺は疲れた身体を癒そうと、ゆっくりと立ち上がって二階にある自室へ向かおうとした瞬間、フッと一つの約束を思い出す。
「あ……そういえば、今日の午後八時に楓と待ち合わせの約束をしていたんだった……」
現時刻から思うに確実に遅刻だ。 星零の野郎、お前の所為だぞ!
咄嗟に俺は制服姿で薄暗く肌寒い外へ飛び出すと、歩調の速度を増し、走り出した。
待ち合わせ場所の公園までは、十五分程の時間がかかるだろう……。
と、
闇に染まる道中で、俺の瞳が一つの人影を捉えた。
「ん、誰だ……?」
その場で立ち止まり凝視して見ると、正体は待ち合わせの約束をしている楓だった。
理由は分からないが、俯きながら俺へ手招きをしている。
どうしたのだろう……もしかして、遅れた事への怒りのあまり、家に怒鳴り込みをしようとして来ていたのだろうか??
それにしては、元気が無い様な気もするが……。
取り敢えず真相を確かめるべく、楓の方へと駆け寄って行った。




