1章 第11話 『不機嫌な少女』
「話戻るけど、その背中の上の少女は何で俺のことを急に襲ってきたんだ?」
俺は脚に刺さった矢を気にしながら、狐に質問した。
「少女? あぁ、 “楓” の事か……」
「楓ってお前の背中に横たわっている少女のことか?」
俺が首を傾げると狐は大きな瞳を二、三回瞬かせてから口を開く。
「そういえば自己紹介とかまだだったな……俺の名前は “ダングロス” んでもって、背中の此奴は “鳩山 楓” っていう名だ」
いきなりの自己紹介に俺が戸惑いの表情を浮かべていると、パルが鼻の頭を指でこすり、ふふっと軽く笑いだす。
「いや、噂には聞いていたけど、化け狐が本当に使い魔になっているなんて……今頃だけれど笑いが込み上げてきたよ」
「俺も、お前が使い魔だなんて可笑しくてたまらねぇぜ」
パルは踏ん反り返って、ダングロスは長い尾を大きく靡かせて大笑いを始めた。
「いや、なんでそんなに笑っているんだ?」
「いつか分かる日がくるよ、幹雄にも。 まぁ、笑うかは別だけれどね」
「そうだ、小僧。 そのうち分かる」
使い魔達が仲良く笑ったりして疎外感が半端じゃない……俺はそう思っていると、楓が目を覚ましムクリと身体を起こした。
「ん? 私寝てた……」
楓はそう一言呟くと、何処か不機嫌そうな表情を浮かべて周りを見渡した。 そして俺と目が合うと幹雄をジッと睨みつける。
それと同時に俺はニヤリと愛想笑いだが、優しい顔付きで笑う。
すると、
楓は汚物を見るような眼差しで「気持ち悪い……」と刺々しい言葉を発した。
冷たい響きを滲ませた楓の声にも、俺は笑顔を崩さない。
「ああ、どこが気持ち悪いのかな?」
「……全部」
「そうかぁ……そういえばなんで俺をいきなり襲ってきたの?」
「……なんとなく」
「…………」
楓が喋るたびに、その場の空気が重くなる。 そして俺の気持ちも段々とイラついてきた。
と、
その雰囲気を変える為、パルは穏やかな口調で二人の名前を口にする。
「幹雄、楓……二人ともそのくらいにしときなよ」
楓の目線が俺からパルへと変わる。
「……そう。 時間の無駄……それより、なぜお前が私の名前を知っているのかが気になる」
楓はパルを見ながら呆れた様子で、ふぁさっと肩にかかった髪を払う。
それを見たパルは、楓が気絶していた時に起きていた内容を全て教えた。
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「……仲間とかくだらない」
叫ぶでも嫌がるでもなく、パルの話を全て聞き終えた鳩山 楓はそう言った。 嫌悪な表情に顔を歪ませるではなく、絶望で顔を青くするでなく、興味がないと言った風に、ただ、どうでも良い、と。
楓は呆れたように髪を掻き上げると、俯いた。 ぼーっとつまらなそうに、自分から全ての関係を遮断するようなオーラを身体中から漂わせながら真下一点を見ていた。
それは、周りと顔を合わせようとしないようにするために下を見ているようだった。
そんな今の楓に話しかけるものは誰もいない……きっと何か辛い過去でもあったのだろう。




