1章 第10話 『狐と少女』
「はあ、……探すって言っても何処を探せば……」
魔法少女ではない一般人に、飛んでいる姿を見られると騒ぎになると思い、俺は雲海より高い位置で飛行して地上から姿を隠していた。
昨晩とは違い、夏の暑い日差しが直に身体に直撃する。
正確な時間はわからないが、ずっとこんな感じで、およそ三時間は天空を彷徨っていると思う。
「まいったなぁ。 ずっとこんな感じだったら……」
謎の焦りを抱きながら溜息をひとつして、辺りをキョロキョロと見渡す。
「ていうか、魔法少女どころか飛行機も飛んでないな……」
視界にはパル以外の何者も見えない。
これだけ探しても誰一人見つけることができない……それを思うと、昨晩に俺のことを発見した “中村 時雨” を讃える気にもなってしまう。
そんなことをぼんやりと考えフラフラと飛んでいたら遠い雲の向こうに、一人の少女が翅を器用に使いホバリングをして浮いていた。
一部を白のリボンでくくった桃色の髪と、ナイフのように鋭い青眼の瞳。
赤と白を基調とした鎧に身を包み、何か怪しげな笑みを浮かべている。
俺はその少女のすぐ近くまで飛んで行った。
「えっと、お前はーー」
身長は低いを通り越して、更に小柄な、色白の少女。
なのだが、存在感は恐ろしいくらい強かった。
誰も寄せ付けようとしない、強烈な気迫を纏っている。
まるで、天使の姿をもつ悪魔のような印象の少女だ。
その少女が、ふいに小さな口を開き呟く。
「ねぇ、貴方は魔法少女?」
「そ、そうだ、魔法少女だ……」
俺は、少し緊張した様子で応える。
途端、青眼の瞳の少女は右手を天高くあげた。
「な、武装能力!? 光の魔法少女か!?!?」
しかし、その手からは漆黒の闇が放射されていた。
そして、渦巻く闇の中心から弓矢が徐々に見えてきた。
「まっ、ちょっと! 俺も闇の魔法少女だ!!」
俺は急いで闇の魔法少女だと伝えたが、少女はこう返答する。
「そんなの関係ない……」
近距離で弓を構える少女から距離を取り、慌てて刀を召喚すると構えた。
それと同時に炎を纏う矢先が幹雄目掛けて飛んでくるが……避ける暇が無かったので、刀を使い跳ね返す。
その代償に振動が刃を伝わり、手を刺激した。
「いっ、痺れるぅ……」
手が痺れているのを関係なしに、火の矢は次々と飛んでくる。
それを器用に避けながら、そして避けれないものは刀で弾き飛ばした。
「ーーーーーーーーくぅ!」
あろうことか、弾き切れなかった一本の炎の矢先が左脚に深く突き刺さる。
瞬間、
武器が風を纏う刀から、炎を纏う弓矢へと変化……『複製』の効果が発動したのだ。
それを遠くから見ていた、少女は予想外の状況に驚き行動が止まる。
「今だ!」
少女が動揺してフリーズしている隙に、俺は翅を狙って弓矢を一発撃ち放つ。
見事に矢先は少女の右翅を貫通し、穴の空いた翅の所為でうまく飛行できなくなった少女は螺旋を描き落下して行く。
瞬間、どこからか少女の使い魔であろう “狐” が現れ、小さな身に煙を包ませ巨大化すると少女を背中で受け止めた。
その巨大化した狐を見てパルが、唐突にポツリと呟く。
「あの化け狐、まだ生きていたんだ……」
そんな呟きを耳にしてしまった狐は、眉間にしわを寄せて言う。
「それは、儂のセリフじゃい! 化け兎!!」
狐とパルはお互いにその存在に気付くと、見つめ合い、その場から全く動こうとしなかった。
「なに黙ってるの? それより何なの、その女の子?? 急に僕の主人に攻撃してきて……?」
主人とは俺のことだろう……それよりもパルと同じく、少女が何故急に攻撃してきたのが気になっていた。
「あのお前が、人の子を主人と呼ぶとは……ガハハハハッ!!!!!!!」
予想外の狐の一方的な笑いに、一帯に冷めた空気が漂う。
そのふざけた応えにパルは素直に頷いた。
それを見て狐がまた笑い出す。
「ガハハハハッ!! 神に挑んだお前の威勢は何処に消えたのだ!! ガハハハハッ!!!」
笑いながら、狐はまだ喋り続ける。
「ガハハハハッ、それよりも化け兎!! 同じ闇の魔法少女として、手を組まんか?!!」
「僕は、ずっと前からその気だったよ」
パルは素直に狐の提案に乗った。




