「私」と「彼」の生きた日々
昔の仲間と出逢ったのは、ヨーロッパの、のちに産業革命と呼ばれた時代でした。
私は画家として自由に行き来する身で、貴族の肖像画から、貧しい生活をしている人を書いたり、
依頼を受ければ描いて、書きたいと衝動にかられたものを描いて、絵が評価されて、豊かで恵まれた人生でした。
彼と出逢ったのは、殺人鬼が次々と看守や人を殺していくから困っている。
これは後世に残しておかねば、という政府からの依頼でした。
私は名を売ることが嫌いで、依頼はすべて受けるけど持ち上げられるのが嫌いで、
あんまり媚びることもなく自然体だったのと、私の前に依頼された画家が次々と殺されて
誰も受けなくなったら、という理由でした。
初めはあんまり売れていない、力量もそこそこの画家が呼ばれたそうです。報酬が破格だったから。
でも、描いている最中に殺されて、誰も近づかなくなった、と聞いていました。
私はそういうゴシップには興味がわかなかったし、同じ時代に殺人鬼と言われてもピンと来ず、
むしろ、貧しさも人殺しだと思っていたので、貧しさをどうにかしようとしない政府も、看守も殺人鬼と同類だと思っていました。
彼に会ってみると、とても普通で造形が美しいのもあるけど、とても軽やかな人でした。
彼がいるのは頑丈な寂しい場所だけど、彼の纏っている空気は美しく、新鮮で、広々とした草原のなかに気高く佇む馬のような錯覚を起こしました。
何より、彼の目が、とても美しかった。
で、誰も彼に近づかないので、率直に、
「描きたいんだけど」と言って椅子を持っていって近くに座ったのを覚えています。
書きたい衝動から出てきました。いつも「常識くんと愛さん」や「お花屋さん」を読んでくださる皆様へ。私の衝動をお読みください。いつもありがとう。。。