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5話 秘密

「宇院 豪、ちょっといいか?」

昨夜帰ってこなかったルームメイトに声を掛けるソフィ。

ビクッっと反応して豪は、ゆっくりと顔を上げる。

多くの生徒が訓練しているこの場で、二人だけが周囲とは違う空気を纏っていた。


 皆から離れた場所で、向かい合う二人。

「なに?」

豪から声を上げる。重い雰囲気に耐えることが出来なかったのだろう。

表面上はゴリだが、豪は異性と二人きりと言うシチュエーションに耐えられるほど経験も多くなく、胆力もなかった。

「まずは、昨日のことは忘れろ、私も忘れる」

ソフィの言葉に「はて?」と不可解な顔をする豪。

「だから、私の顔のことだ」

怒りを飲み込みながらソフィは提案を続ける。


 その言葉にも得心のいかない表情の豪に、ソフィは物陰に豪を引き込む。

「この事だ!」

仮面をずらし、素顔を露わにするソフィ。

「ぅわぁぁぁ!」

その素顔を見た豪は、小さく叫び膝を抱え震え始める。

「お、おい! 大丈夫か!?」

そう声を掛けるソフィの素顔を見ては、下を向き震えるを数度繰り返し、ようやくソフィは仮面をつけ直す。


「それと、事故とはいえ私の顔や胸を見たんだ、貴様にも秘密を話してもらうぞ」

「なんで? しゃべらないよ」

「貴様のその言葉を信用するには、いささか時間が短い。お互い公言されたくないことを知っていれば、そうやすやすと話すことは出来まい? 保険が必要だ」

秘密の共有、そうすることで共犯性を高めて秘密の漏えいを防ごうという魂胆らしい。

残念ながら、豪にはそうまでして顔を隠したいソフィの気持ちを察することが出来ないでいた。


 それもそのはず、豪は外見にコンプレックスを持っているため、ソフィの素顔に対して共感が出来ない。

醜い仮面を素顔と偽る意図が理解できない。

そう提案してきたソフィに猜疑心が生まれる。

自分だけが一方的に搾取されるのではないかという疑念だ。


 ソフィは、短く息を吐きだすと

「仮面の理由を教える、だからお前も自分のことを話せ」

そう言い、仮面に関する情報を話し出す。


 ソフィはとある良家のお嬢様として生を受ける。

何不自由のない暮らしに優しい両親、誰もがうらやむ生活を送っていた。

だがそれも長くは続かない、金銭的余裕がある者にはそれなりの責任が付きまとう。

ソフィの家も例にもれず、慈善事業に協力していた。

そうした活動は、ある種の人種を呼び寄せるリスクもあった。


 そう、ソフィの家は詐欺行為によって全財産の大半をを奪い取られてしまった。

子供のソフィがその時誓ったこと。

それは、自分の両親を貶めた者たちへの復讐。

ただし、それなりに深い付き合いがあり、自分の顔も割れていてる。

そこで、仮面で素顔を隠しファイターとして上り詰め、彼らに近ずき奪い取られたものを奪い返すため実家から遠く離れたこの学園に入り、そして素顔も隠した。


「よくある話で申し訳ないがな」

そう言いながら、ソフィは自嘲した。

「さあ、今度はお前の番だ! ここまで話したんだ、それなりのもので頼むぞ。お前のギフトとかな」

ソフィは、軽い感じでそう提案してきた。

そこにはある思惑もあった。

ソフィは一晩分析に費やしたが、それでも豪のギフトに関してはどんな推論でさえ否定が入った。

映像が残っている第一戦目の動画も、穴が開くほど隅々まで見たがギフトを使用している形跡さえ発見することが出来なかった。


「僕の能力ねぇ、ま、いいか」

豪も軽い感じで答える。

ソフィは小さくこぶしを握る。未だに一撃も与えられない相手が、その秘密を自分から話してくれるという。

ギフトが分かれば、当然対処のしようもある。

ソフィはそう考えていた。


「僕のギフトは・・・・・・幸運」

前のめりになっていたソフィの肩が、ガクッと落ちる。

「はぁ?」

「だから、幸運だって、ラック、ラッキーそう呼ばれる類のものだよ」

幸運。それは誰にでも訪れるのもで、それに左右されるのも人と言う生き物だ。

彼らの属している格闘技の世界でもある時は意図しない一撃で試合が動くこともある。

またある時は、その一撃のために相手の警戒心を高める結果になり苦しい戦いになることもある。


「それだけ、なのか?」

「そう、それだけ」

競技者であれば、誰もが持ち得るもの。

トップアスリートであれば、それにプラスして特別な能力を持ち得ているものだ。

豪の目を覗き込むソフィは、その目が偽りものではないと感じた。

その言葉はとてもではないが、大よそ信じられるものではない。

でも、この目は信じるに値するのではないかと思わせる。

そんな不思議な輝きを見た気がした。


「師匠にも約束したんだ、このギフトで頂点を争うってね」

「師匠?」

ソフィの耳に、信じられない言葉がまたも飛び込んでくる。

昨日見た動きや、身体、それらは到底誰かに師事を受けたものではない。

そう感じたからだ。

「名前を聞いてもいいか? その師匠とは?」

「多分知ってるかもしれないけど、東雲猛(しののめたけし)って知ってる?」

「タケシ・シノノメか! ブレイド・マスターじゃないか! 知らないわけがない!」


 東雲 猛、字を剣王(ブレイド・マスター)。この学園の出身者で、トップランカーの一人だ。

その華麗な剣技、恵まれた体格、卓越した試合勘により数年後はギフトオブギフトを手中に収めると目される人物だ。

「師匠とは数年前一度だけあっただけなんだけど、その時ファイターの魅力と戦い方を教わったんだ」


 東雲と豪の出会いは、ほんの偶然のようなものだった。

いや、豪のギフトが幸運であることを考えると、それすらも必然と言って良いかもしれない。

想いを馳せる豪は、ゆっくりと師と仰ぐ人物との出会いを語りだしていく。

次回投稿は二日後を予定しております。

では、次回投稿で。

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