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48話 看破する目

色々とごめんなさいと最初に言っておきます。

 神木が貴賓室で格刀(かくとう)していた間にも、試合は動いていた。

 状況を理解した卯月が、自身の新しい刃の試し切りを豪で行っていた。

 消えて現れ、訝しむ。その光景が数回続くと、卯月は耐えきれないように笑いだした。

「ククク、あは、はははは! そうか! これがお前の力か!!」

 全身で新しいギフトに賛辞を贈る卯月。

 

 対する豪には新しい傷がつけられていた。

 それは刃物による裂傷ではなく、殴打による打撲痕が豪の両手や顔に刻まれていた。

 卯月の手には拾いあげたアームズ・デバイスが両手にある。

 もちろん攻撃はそのアームズ・デバイスで行われていた。

 

 ではなぜ裂傷ではなく打撲痕なのか?

 耐えがたい頭痛の末卯月が手に入れたのは、豪の幸運のギフトを解析して造られた人工の幸運のギフト。

 それを得たことで、それまで回避されていた攻撃の後、すなわち豪の回避運動の後に打撃を与えることに成功していたのだ。

 回避した所に置かれた膝、卯月の体勢が流れバランスをとるために伸ばした手が、ことごとく豪の身体に到達していた。


 最初は奇妙に感じた卯月も、数回同じようなことが起きれば自然とギフトの特性を理解していく。

 それまで豪が対戦相手に見舞ってきたラッキーパンチが、そのまま豪に返ってきているかのようである。

 卯月にとっては本命の攻撃ではないが、完全に躱されてきた攻撃が当たるようになったことは、言い様のない歓喜であった。

 打撲痕とは言え、新しい傷がその美しさを覗かせているのだから。

 欲を言えば、若干ではあるが卯月の美意識からは外れた位置に傷が出来ていることが、難点に感じていた。


 豪は数回殴られ蹴られながら、ブツブツと何か独り言をしゃべっている。

「・・・・・・じゃない、邪魔だ」

 その様子が卯月に新しい美意識を植え付ける。

 朦朧としながらも立ち上がり、途切れかけた意識を必死に保とうとする豪の姿は、それまで血まみれにして来た誰とも遜色のない優美さを兼ね備えているように見えた。


「あは! でももう、・・・・・・限界だよ! イッちゃうよ!!」

 卯月は恍惚とした表情のまま、豪に最後の攻撃を加えに消えた。

 自身の反応を最大限に振るうつもりで、打撃の後に斬撃を与える算段をして。


 卯月の感覚は、音を超えて無音の中で棒立ちの豪だけが視界にいる。

 自分の最初の斬撃、それは避けられるのは織り込み済みだ。そのあと打撃の感触に向かって二の太刀を浴びせればいいだけの簡単な試合運び、自分の超反応であれば造作もない動きであった。


 卯月は豪の顔に向けて刃を振り下ろす。

 だが、先ほどと同様に豪の顔は卯月の視界から消え失せて、卯月はバランスを崩す感覚を受ける。

(この次! どこに当たるかな!?)

 先ほどまで感じていた、打撃の感覚。卯月は自分の触覚に神経を集中させる。


 しかし、その感覚は訪れなかった。

「え?」

 卯月の口から、気の抜けた音が漏れる。

 そして自分の視界に豪の矢が映ると、押し付けられる感触が襲い、遅れて痛みが届く。


 白ける視界、足が揺れる感覚。

 間違いなく自分にダメージがあったことを告げている。

 卯月は思わぬ反撃に混乱していた。

 今までのタイミングで、反撃できるわけがない。

 そう思っていたからの攻勢、恍惚。


 それらが一気に遠くに離れていく。

 目の前の豪は、未だにブツブツと独り言をしゃべっている。


 とても反撃してきた人物とは思えない。

 立っているのがやっとのような風貌だ。

 だが、確かに自分にダメージがあった。その事実は変わらない。

 では、どうやって?


 答えが見つからず、卯月の頭は靄に囲まれてしまった。


 豪の視点で見れば、その反撃は必然であった。

 今豪の視界に映っているのは、現在の卯月と数瞬先の卯月。

 卯月の攻撃を予測していた時から、数段に正確性を増したビジョンが豪の目には映っていた。

 それに戸惑い、慣れるまでに今まで打たせたことのない顔まで打たせてしまった。


 しかし、ようやくこの視界にも慣れてきた。

 そして慣れてしまえば、動く卯月の先に矢を置いておけば勝手に当たりに行く。

 そんな境地に今豪は立っている。


 何故そこに到達できたのか?

 答えは、神木の寄越した防具にあった。

 豪が付けている防具は、形は違えど卯月の頭の中にある機械と似たような機構が搭載されている。

 学園長の企みで、豪が頭を抱えたのも豪に人工ギフトが備わった証であった。

 即ち、卯月には『超加速』と『超反応』そこに『幸運』が備わったが、豪には『幸運』に『幸運』を重ねた状態になったと言うことである。


 対角力の時にも一瞬見えたビジョンが、今は常時性能を上げて見えているのだ。

 相手の攻撃も回避行動もすべてが、完全に予測して見えている。まさに『パーフェクト・ビジョ・・・・・・』は問題があるので、『看破する目(プロビデンス・アイ)』と後年呼ばれる能力に開花した瞬間であった。


 困惑する卯月に若干腫れた豪の目が、真っ直ぐに向けられる。

「卯月・・・・・・そろそろ決着でいいか? 行くぞ!」

 その腫れた豪の目には確かな勝利が映っていた。


次回投稿は3/5 2:00を予定しております。

では、次回投稿で。

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