表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/50

45話 狂人と幸運 3

 豪はこれまでの人生で、初めて命の危険を感じていた。 

 これまでの人生で経験したことのない流血と言う事態が自分の命に手を掛けられていると錯覚を起こすほどに。 

 仮に動脈でも損傷させられていたなら、それも可能性としては低くはない。

 

 しかし、豪の動脈は依然として健在で、まして臓器などは一切無傷である。

 それでも初めて流血を経験する豪は、命の危機というものを感じてしまったのである。

 

 そして豪は自分が勘違いしている命の危機を脱するために、卯月を観察し始める。

 今の状態の卯月に背を向けるのは、死に直結すると逃げると言う選択肢を捨てる。

 そうなると、豪は卯月を倒すしかないのだが、豪の目にも卯月の移動する姿は見えていない。

 

 それに豪には自分でどうこうできる技術がない事を知っている。

 故にこうして卯月が自分を観察している状況を活かし、逆に卯月を観察するしかない。

 何か、糸口を探し当てないと卯月によって死がもたらされる。


 そんな勘違いから生じた緊張状態は、豪の勝利への活路となった。

 卯月が次は豪の体のどこに絵を描こうとしているかを考えている様子の中で、一か所だけ豪の直感に訴えかけるものがあった。

 まさかとは思いながらも、その直感に従い行動を始める。


 卯月の姿が消えた直後、豪は直感の示す右足を後ろに引く。

 タイミングが合わなく、太ももに傷をつけられるが確かにそこは右足であった。


 卯月にとっては対戦相手の闇雲な回避や、逃走により斬撃地点がずれることはよくある事である。

 なので先ほどの豪の行動と自分の経験になんら違和感は感じていない。

 なので、小さくはなったが綺麗な(キズ)が卯月の目には映っている。


 そして卯月は再度右腕に焦点を当てる。

 卯月の独特な美意識において、右腕の(キズ)はもっと大きく深い方が映えると感じていた。

 意識の中で豪の右腕に線を引き、その線に向かって刃を振り下ろす。

 

 豪は自分の直感に再度賭けを張り、右腕を今度は大げさに後ろに振る。

 豪の右腕に衝撃は訪れなかった。

 卯月の本気の攻撃を始めて回避した。

 

 流石の卯月も自分の攻撃が当たらないのは、おかしいと感じるものが有った。

 しかし、今までもたまたま避けられてしまうことは数回あった。

 なので、卯月は再度右腕を狙って走り出す。


 卯月の短刀がまたしても空を切る。

(おかしい、二回も連続して避けられたのは過去に二人しかいない・・・・・・宇院があの二人と同じ?)

 どう考えても過去の事例と合わないと感じる卯月は、警戒をして複数回の斬撃を試みる。

 

 左手、右ひじ、左腰、全ての斬撃が豪に届かなくなった。

 ここまで来ると全く初めての事例である。

 自分の二つ目のギフトを手にしてからは、いや、その前から数えても自分の速度でとらえることが出来なかった人物を卯月は知らない。


 対する豪は、悟られないように歓喜に打ちひしがれていた。

 豪の直感が、卯月の速度を凌駕した。

 それが豪にとっては、光明に見えた。

 

 何のことはない豪は卯月の視線から、攻撃場所を予測していただけだ。

 視線の高さ、左右から自分の上半身か下半身か、右か左か。

 それを予測して博打のような、回避行動を行っていたにすぎない。

 その予測も本来なら、いつかは外れてしまうだろう。

 しかし、豪のギフトは幸運。

 選択、予測の類を豪は外したことはない。


 そして何よりも幸運なのは、卯月が緩急をつけようとしないことにある。

 いくら見えなくても同じタイミングで行われる攻撃を避けるのは難しくない。

 場所とタイミングを悟られているとは思わない卯月は、何度も何度も攻撃を避けられて新しい(キズ)を描くことができない。

 

 もう何度卯月の姿が消えて出てを繰り返しただろう?

 最初は何が起きているかもわからなかった観客たちも、豪が優勢になっていることを肌で感じていた。

 次第に闘牛士の様に、よけざまに攻撃を始めた豪を応援し始める声が出始める。


 それを面白く思わないのが、卯月本人と貴賓席で観ている学園長だ。

 自分の計画のためには、何としても豪に深手を負ってほしい。

 しかし、現状の卯月では、それも難しいだろう。


「私の計画を邪魔するとは・・・・・・奇跡の再臨を邪魔するのは許しませんよ、例え君でもね!」

 そう言うと、学園長は懐に忍ばせていた通信端末を操作し始める。

 どこかへの通信のための操作ではないそれは、会場に隠されていたある装置を起動させる。


 それまで避けられながらも不敵な笑みを浮かべていた卯月に、異変が生じる。

 突如、顔を苦痛に歪め、持っていた短刀の一つを落とし頭を抱えだす。

「ぐっ・・・・・・あああ・・・・・・」

 低い声でうなりながら、先ほどとは違いよろよろと、まるで酩酊(めいてい)したかのように足に力が入っていないのが客観的にもよくわかった。


 しかし、今は試合中。

 豪にとってはまたとないチャンスである。

 観客たちは豪が攻撃をし始めるのではと、豪に視線を向ける。

 だが、豪もまた卯月と同じように頭を抱えて、もだえ苦しんでいる。


 騒然とする会場。

 そして唖然とする学園長。

 会場で見ていた誰もが、二人の様子に思考が停止していた。


 いや、ただ一人、豪に防具を渡した神木だけが何が起きているのかを考察し始めていた。

次回投稿は2/27 2:00を予定しております。

では、次回投稿で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ