表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/50

42話 思惑

 かくして再開される大会には、またしても大量の観客が押し寄せていた。

 豪のギフトに関して執行部は

『宇院豪選手のギフトに関して何が問題であると言うのか? 是非ともお教え願いたい。幸運という一部差別主義者が無能の烙印を押して悦に入りたいだけだと、これまではそう評価されてきたギフトが幸運である。それが彼らの言であるなら、彼が幸運を駆使していることは何ら問題がないだろう! そして仮にそれが問題だと言うのなら彼らの言葉が真実からかけ離れた放言だと証明になる。何より彼が奮闘することが我らギフト保有者にとっていかに有意義であるかと考えたことはあるだろうか? 未だにギフト所有者を恐怖の対象として見る多くの人々に彼が見せる奮闘がどう映るだろうか? 彼のギフトが本当に効果を成すのであれば、都市伝説を本当のものとするのではないか? そうなれば、我らのギフトにも日の目が当たるのではないか? 真なる融和を果たすには、我らのギフトが有意義であることを先ずは示さなければならない! 彼のギフトは我らの真なる社会復帰の第一歩になると確信している。齢15にしてこのような重責を負わせるのは不本意ではあるが、トーナメント開催本部は多大なる期待を彼に、そのギフトに寄せている。そして先人たちが成しえなかった偉業をキミ達次なる世代で果たしてくれることを大いに期待する』

 と、このような演説を学園内で流し、その様子を世間にも流した。


 豪の存在がギフト保有者にも、そのほかの人々にも意味があるのだと印象付けをして見守るというかなり強引な方法を用いてきた。

 それにより、学園内の議論で劣勢だった容認派は、大分優位に話を運ぶことができるようになった。

 あまりに強力なギフトを持ち、左河合市周辺で一生を過ごすことがほぼ義務付けられているものにとっては、それが緩和するかもしれないと言う希望を見たからだ。


 しかし、一部はそうは思ってはいない。

 豪が幾ら勝ってもギフトに対する潜在的な恐怖は拭えない。そう結論付けている人々がどうしてもいるのだ。

 それは先人達の負の遺産であり、今後も無くならない可能性だからだ。

 それほどまでにギフトが世界に与えた影響は大きい。

 時に自分の親でさえ自分に恐怖する姿を見てきたという、ギフト保有者のトラウマが存在する。


 そう言った人でも、希望と言うものはある。

 彼らに「もしかすると、きっと、もしかして」そういった言葉が生まれるのは、何も不自然ではない。

 それを見たいがために今日豪を見るために来た人が多いのだろう。


 学園での情報を聞き、そして放送を見た人々が希望を見る機会を執行部は用意して去っていった。

 即ち、一般に開放したのだ。有料で。

 ベスト16から一般に開放して、話題の幸運拳士(ラッキーパンチャー)という触れ込みと、新しい時代を担うファイターのお披露目をしていこうと言う魂胆のようだ。


 開場した会場では、現在生き残ている選手の紹介を兼ねて大会の映像が流れている。

 数々の映像の中で一際笑いが起きる映像が流れる。

 言わずもがな豪の不戦勝のシーンだ。

 

 そんな比較的和やかな会場を、少々苦い表情で見る人がいた。

 学園長だ。

 老人と嘲った者が行った一手は、学園長にとってはあまり本意ではなかったようだ。

 貴賓室のような造りの一室で、学園長は書類を握りしめている。


 それは老人たちが考えた第二のギフトオブギフト誕生計画である。

 学園長も表向きはその賛同者ではある、しかし彼の真意は別にある。

 そのためにも豪に注目が及ぶのはもう少し後であった方が望しいのであった。


 老人たちが求めているのは、幸運をも超える豪運だ。

 例えば三千人を相手取っても勝ち続けるような、そんな豪運。

 そして勝ち続けることで、他者を引き付ける一種のカリスマが備わることが老人たちの望みだ。

 そのためにギフトを強化する技法の確立が急務であった。


 それは反抗的な、そして品位に欠けるファイターを粛正と言う名の実験にあてることで、あと一歩のところが成功しなかった。

 しかし、豪と言う幸運を用いれば豪の防衛本能により実験は成功するだろうと、結ばれていた。

 そのためには豪がどこの団体にも所属していない今のような現状が望ましい。

 どこかに引き抜かれないように、豪に注目を集めプロファイターとして協会が管理しやすい状況を維持しなくてはいけない。

 そのための演説であり、試合の一般に開放なのだ。


 それは学園長にとっては好ましくはない。

 自分の構想しているプロジェクトに豪を引きずり込むためには、注目を外す必要が出てくる。

 誰の目にも長期の離脱が必要な状況が。

 不要な手間が一つ増えてしまったことが、学園長の表情を歪める。


 電光掲示板に写されたトーナメント表が、学園長の目に入ってくる。

 そして思惑とは違うが、自分にも幸運が巡ってきていることを確信する。

 豪と自分の実験体との試合。

 それがどんな結果であれ、豪の戦線離脱は確実だという確信が学園長に訪れる。


(老人たちを出し抜けるチャンスが巡って来た)

 長期の離脱が必要な状況、それは豪に深刻な負傷が生じた時。

 そしてそれを可能とするファイターが、自分の手駒にいることを心から喜んだ。

 電光掲示板に写しだされた、豪対卯月の文字。

 それが途轍もない幸運だと、学園長には思えていた。

 

 豪の知らない所で巻き込まれつつある陰謀に気づかないまま、豪の6回戦が始まろうとしていた。

次回投稿は2/212:00を予定しております。

では、次回投稿で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ