40話 議論
豪のギフトが『幸運』だと言う真実が発覚してから、学園内は騒然となった。
果たして認めるべきか否か? 生徒のみならず教師陣までもが好き勝手な議論を繰り広げていた。
あるものは「ギフトを使用していたんだから何の問題もないだろ!」と声を上げる。
しかし、あるものは「いくらギフトを使っていても、実力外のことで勝ち負けが決まったらやってられねーだろ!!」と反論する。
そもそもなぜ豪のギフトが発覚したのか?
それは掲示板にとある書き込みがされたからだ。
『宇院って攻撃の後、変な挙動するよな?』
そんなたわいもない書き込みが、なぜか注目を呼んだ。
それから直ぐに数々の検証動画が作られ、大量の再生数を経て確証を得た者が多数いた。
豪の奇妙な挙動、それは豪が攻撃後に一瞬、ほんの一瞬ではあるが必ず体を後ろに逸らすと言う癖が見つけられた。
そこから攻撃後の表情や攻撃を検証され、対戦相手にみせる本来なら致命的なミスが数多く発見されていく。
凡そ格闘技に精通しているものが見せないであろうそれらが、豪のギフトへの疑念を確証に変えた。
そして電子情報であったそれは、現実に浸透し大会自体が急遽、協議のため延期される事態となってしまった。
だが、本来であれば幸運というギフトは、一般的には懐疑的にみられるギフトであるはずなのに何故にこうして議論を呼ぶ事態になったのだろうか?
それは豪の戦績があまりにも輝かしい物であったからだ。
豪の戦績が一般的な程度であれば、誰も気にしないだろう。
だが、豪の戦績は全勝無敗。
あり得ないこともないが、相性で左右される勝敗が存在しないと言うギフトが登場したことは、将来のトーナメントを目指すファイターにとっては死活問題である。
そうやって理論武装されると賛成派もあまり声高に擁護できなくなってくる。
何せ自分にも降りかかってくる可能性が強い話であるからだ。
そうして学園内の議論は、豪にとって不利なものになっていく。
延期となったことで、通常授業が行われることになり豪は否が応でも衆人の目に晒されることになる。
直接的な嫌がらせは行われないものの、他の誰が見ても豪は明らかに針の筵になっていた。
しかし、豪は一切動じることなく授業を受けるため登校を続けた。
登校時も授業中も昼食中も、そして下校中も豪の姿を視界に収めたものはひそひそと話を始める。
その中のいくつかが、当然のように豪の耳にも入ってくる。
それでも豪は針の筵から退くような行為は一切しなかった。
流石に心配になったソフィは、先ずは神木に相談した。
神木は「見守ってやれ」としか話さず、一切の介入をしようとはしなかった。
ソフィの心配が続く中、議論が開催事務局にまで及んでいると言う噂がソフィの耳にまで届いてくる。
どうしても我慢が出来ないソフィは、豪に声を掛ける。
「豪、大丈夫か?」
何に対して大丈夫なのか? 周囲の反応に対して? 話が大きくなっていくことの不安に対して?
ソフィはどれと限定が出来ない様子で声を掛けた。
しかし、豪は短く答えた。
「慣れてるから」
それは何に慣れているのか? ソフィには想像もできなかった。
豪がこうして奇異の目を向けられることは初めてではなかった。
豪はこれまで、幾度となくファイターになると言う夢を語って来た。
そんな豪を肯定する者は誰一人としていなかった。
そもそも豪の親でさえ豪の夢を応援してはいなかった。
それもそのはず、豪には目立つようなギフトも大きな体躯も持ち合わせてはいなかった。
親として子供の将来を心配するのは当然である。
誰が我が子に道もない茨の中を歩けと願うのか。
せめて道が見えていれば、応援もできるかもしれない。
しかし、豪には茨を退ける刃も身を護る防具もないのだ。
近しく思うものは皆、反対した。
それを振り切って、豪は今こうして学園に通っている。
そして良くも悪くも議論を呼ぶ存在になった。
それを喜ぶべきか悲しむべきか豪にも分からない。
それでも豪は思うのだ。
(今は引くべきではない)
と、自分の中の声に従いこれまでやって来た。
ならば、今回もそれに従って最悪はともに果てようと決めていた。
そう決めたからには、どんな声が聞こえようがどんな態度で接して来ようが豪の心を折るには至らなかった。
学園で出会った近しき歩と人々は、そんな豪を痛ましく思っていた。
ソフィはもちろんの事、栗栖院も恐らく神木もソフィほど態度には出さないが豪を気遣うように接していた。
出来るだけいつも通りに、議論が気にならないかのように振る舞ってみせた。
事務局での議論が膠着しているのか、1週間経っても大会の再開は告げられない。
学園内の議論はいつしか豪の有罪が決まり、その代償がどの程度なのかを話し合うようになっていた。
学園追放か? それとも大会のやり直しか? 学園内ではその二つが有力であった。
大会が中断されたことで、賭けと言う娯楽が少なくなったことで豪への判決が賭けに上がるようになっていた。
もちろんその賭けは二択となっており、学園追放が低配当であった。
豪はどんな判決でも受け入れる覚悟をしていた。
散々ソフィに見えないように枕を濡らして来たが、とうとうその時がやって来た。
発覚から10日経って、学園に事務局からの発表を行う為に老人が、執行部の面々が訪れることになった。
次回投稿は2/17 2:00を予定しております。
では、次回投稿で。